弁護士法人青森リーガルサービス

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2024年4月から適用! 建設業でも時間外労働の上限規制適用へ

22.12.27 | 業種別【建設業】

2024年4月より、建設業にも時間外労働の上限規制が適用されます。
他業種では2019年4月から導入されていますが、建設業に対しては5年間の猶予期間が設けられてきました。
それがいよいよ、建設業でも適用開始となります。
罰則つきの規制であるため、今から労働環境を整備し、スムーズに対応できるよう準備を進めていきましょう。
今回は、時間外労働の上限規制によって何が変わるのか、そのためにどのような準備が必要なのかなどを解説します。

時間外労働規制と建設業の猶予期間

労働基準法では、従業員の労働時間と休日について、「労働時間は1日8時間・1週40時間まで」「休日は毎週少なくとも1回」と定められています。
これを超えて労働をさせる場合は、労働基準法第36条に定められた 労使協定(36協定)を締結し、管轄の労働基準監督署へ届け出なければなりません。

労働基準法の改正により、大企業では2019年4月から、中小企業では2020年4月から、法定労働時間を超える時間外労働についても上限が定められました。
現在、時間外労働は「月45時間・年360時間」までと定められています。

しかし、業種によっては、時間外労働の上限規制について5年間の猶予が設けられました
建設業界もその一つです。
建設業に猶予期間が設けられた背景には、建設現場における長時間労働が常態化しやすい環境があります。
天候に左右されやすい建設現場では、予定通りに、どの現場でも滞りなく工程が進むとは限りません。
そのため、上限規制に基づく労働時間の管理が行われると、指定された納期や完成時期を守ることが難しくなることが考えられます。
このような業界の特性を鑑み、建設業界は他業種に遅れて2024年4月からの規制開始となりました。


建設業でも適用される時間外労働の上限規制

前述の通り、2024年4月以降建設業でも、時間外労働は原則として「月45時間・年360時間」までとなります。
ただし、「臨時的な特別の事情がある場合は、特別条項付きの36協定を結んでおくことで、上限を超えて労働させることができる」とされています。

注意したいのは、36協定があれば時間外労働が可能とはいえ、そこにも以下のような上限が設けられていることです。

<特別条項付き36協定締結での時間外労働の上限>
●時間外労働が年720時間以内であること
●時間外労働と休日労働の合計が月100時間未満であること
●時間外労働と休日労働の合計について、「2カ月平均」「3カ月平均」「4カ月平均」「5カ月平均」「6カ月平均」 のすべてが1カ月当たり80時間以内であること
(2~6カ月は、どの期間をとっても1カ月平均80時間以内となるように時間管理を行うことがポイントです)
●時間外労働が月45時間を超えるのは年6回までとすること

建設業については、災害復旧や復興事業に従事する場合には、上限が以下のように変更される例外規定があります。
この場合は、時間外労働と休日労働の合計について「月100時間未満」「2〜6カ月平均80時間以内」の適用外となります。

<災害復旧や復興事業に従事する際の例外>
●時間外労働が年720時間以内
●時間外労働が月45時間を超過するのは、年6回まで


罰則規定と適用開始に向けての準備
 
2019年の改正によって、罰則規定が設けられました。
従業員に上限を超えて労働を強いた場合、6カ月以下の懲役または30万円以下の罰金が科される可能性があります。

この罰則は、建設業にも適用されます。
では、2024年4月からの規制適用開始に向けて、各企業はどのような準備をすればよいのでしょうか。
主に以下の3つの対応が求められます。

(1)労働時間を把握する仕組みづくり
建設業は、コントロールできない天候や災害に加え、納期という背景により労働時間が長時間化しやすい状況があります。
時間外労働の上限規制適用前に、その見直しを進める必要があります。
そのためには、まず、現在の就業状況を正しく把握しなければなりません。

企業規模の大小に関わらず、勤怠管理システムの導入を検討するとよいでしょう。
建設業では、従業員が現場に直行することも多く、始業時間・就業時間・残業時間・休憩時間の把握は難しいのが実情です。
近年はスマートフォンやネットワーク環境の普及に伴い、アナログ的な手法しかなかった頃とは異なり、必ずしも自己申告でなければ管理ができないとまではいえなくなってきました(2017年に策定・公表「労働時間の適正な把握のために使用者が講ずべき措置に関するガイドライン」より)。
携帯端末を活用するなど、従業員が活用しやすいシステムを導入し、労働時間を把握するための環境を整えましょう。

(2)休日・休暇の確保
働き方改革の推進により、建設業界においても週休2日制の導入が進められています。
現状では建設業に週休2日制の法的な定めは存在しないものの、長時間労働になりがちな建設業界で労働時間の上限規制に備えるためには、休日・休暇の確保が欠かせません。
労働時間を増やすことで労働力を確保するのではなく、労働者が働きやすい環境を整備し、人材の定着や新たな働き手の獲得につなげることが大切です。

(3)36協定届の新様式への対応
今回の改正に伴い、『36協定届』が新しい様式に変わります。
新36協定では、災害復旧や復興事業に従事する際の例外についての項目が、法改正に伴い新たに設けられました。
社内の環境整備とあわせて、新様式の書き方や注意点についても確認しておきましょう。

2024年4月からの時間外労働の上限規制の適用に向けて、建設業者にはさまざまな社内整備が求められます。
いずれも軌道に乗せるには時間のかかる改革となりますので、計画的に必要な検討・変更を進めていきましょう。


※本記事の記載内容は、2023年1月現在の法令・情報等に基づいています。

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