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『時間外労働の上限規制』が開始! 労働時間をどう管理する?

24.04.30 | 業種別【建設業】

働き方改革に基づく労働基準法の改正によって、2024年4月1日から建設業でも時間外労働の上限規制が適用されるようになりました。
作業員の残業時間の上限は、原則として月45時間・年360時間となっており、臨時的な特別の事情がなければこれを超えることはできません。
長時間労働が常態化し、人手不足も深刻化するなかで、建設業者はどのような対応を行なっていくべきなのでしょうか。
いわゆる『建設業2024年問題』ともいわれる建設業の時間外労働の上限規制について、理解を深めておきましょう。

時間外労働の上限規制が建設業にも適用

労働基準法によって労働者の労働時間は、原則として1週40時間、1日8時間までと決められています。
これを『法定労働時間』と呼びます。

法定労働時間を超えた労働時間は、すべて時間外労働となり、事業者が従業員に時間外労働を命じる場合は、あらかじめ労使間で協定を結ぶ必要があります。
この協定を定めている法律が労働基準法第36条であることから、一般的に『36(サブロク)協定』と呼ばれます。

36協定を結んでいるからといって、いくらでも働かせていいわけではなく、時間外労働には上限が定められています。
しかし、これまでは上限を超えて働かせても事業者に対して罰則などによる強制力がなく、さらに特別条項を設けることで、実質的には従業員を上限なく働かせることができる状態となっていました。
そこで、働き方改革の一環として2019年4月に労働基準法が改正され、時間外労働の上限規制が設けられ、原則として月45時間・年360時間の上限が定められました。
この上限は36協定を結んでいても適用されるため、事業者は超えないようにしなければいけません。

臨時的な特別の事情があって、労使の合意が得られた場合でも、事業者は労働者を年720時間、単月100時間未満(休日労働含む)、複数月平均80時間以内(休日労働含む)を超えて働かせることはできません。
また、原則である月45時間を超えることができるのは、年間6カ月までです。
もし、これらの上限を超えて労働者を働かせた場合は、労働基準法違反となり、6カ月以下の懲役または30万円以下の罰金が科される可能性があります。

この時間外労働の上限規制は、大企業が2019年4月から、中小企業は2020年4月から導入されました。
ただし、建設業をはじめ、トラック・バス・タクシードライバーの自動車運転業、医師などに関しては、業務の特殊性や人手不足などの観点から、5年間は上限規制の適用が猶予されてきました。
この猶予期間が2024年3月31日で期限を迎え、2024年4月1日からは対象の他業種の事業者と同じく、建設業でも時間外労働の上限規制が適用されています。

長時間労働の是正には適正な工期の設定を

元請けの労働時間に左右され、あらかじめ工期も決まっている建設業は、長時間労働が常態化しやすい業界です。
厚生労働省の『毎月勤労統計調査』によれば、建設業の年間出勤日数は全産業と比べて12日も多く、年間の総実労働時間は68時間も長いことがわかっています。

また、総務省がまとめた『労働力調査』によると、技能者の約4分の1が60歳以上と高齢化が進んでいるのに対して、29歳以下は全体の1割程度しかおらず、建設業界が若手人材を確保できていないという問題が浮き彫りになっています。
どの建設業者も慢性的な人手不足に陥っており、高齢の技能者に長時間働いてもらわないと現場が回らないという現実的な側面もあります。

このような状況下で、従業員が時間外労働の上限を超えないようにするには、適正な工期設定を行なっていく必要があります。
発注者であれば工事の規模や施工条件に応じた工期を設定するべきですし、受注者側は長時間労働につながるような著しく短い工期の工事を受けるべきではありません。
建設業界では、日本建設業連合会の『適正工期確保宣言』をはじめ、週休2日の実現を図る『4週8閉所』の取り組みが進められています。
工事を受注する場合も、週休2日が確保できるような請負契約を締結するようにしましょう。

ほかにも、従業員の労働時間の管理を効率的に行うことのできる勤怠管理システムや、労働時間を複数人でシェアするワークシェアリングの導入なども、長時間労働の改善が期待できます。
厚生労働省が建設業向けに発行したパンフレットでは、長時間労働に陥りやすい現場監督の書類作成業務などを、新規で採用した建設ディレクターに任せるといった施策を行なっている事業者の取り組み事例が紹介されています。

時間外労働の上限規制を超えないようにするには、事業者側の積極的な取り組みが必要不可欠です。
厚生労働省のホームページなども参考にしながら、長時間労働の是正を進めていきましょう。


※本記事の記載内容は、2024年5月現在の法令・情報等に基づいています。

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