司法書士法人あおばの杜

『物流の2024年問題』が一般企業にもたらす影響を考える

24.05.28 | ビジネス【労働法】

『働き方改革』の一環として労働基準法が改正され、これまで告示にとどまっていた時間外労働の上限が法律に規定されました。
この上限規制ですが、建設業、医師、運送業に関しては、業務の特殊性もあり適用までに5年間の猶予が設けられていました。
しかし、猶予期間が終了したことで2024年4月1日からは、これらの業種にも時間外労働の上限規制が適用されました。
特に、運送業に規制が適用されることで生じるさまざまな問題のことを『物流の2024年問題』と呼びます。
一般企業にも影響がある『2024年問題』について、理解を深めておきましょう。

ドライバーの長時間労働の是正

2024年4月1日から、医師や建設業者とあわせて、トラックドライバーやタクシーやバスの運転手など、「自動車運転の業務」に従事する労働者の時間外労働の上限規制が始まりました。
ドライバーを抱える運送業は、特別条項付きの36協定を締結したうえで、年間の時間外労働が年960時間までに制限されます。

また、ドライバーの拘束時間に関するルールも大きく変わりました。
ドライバーの労働に対する基準を定めた『改善基準告示』が改正されたことにより、たとえば、トラック運転手であれば、これまでは労使協定を締結したうえで、年間の3,516時間までとされてきた拘束時間が、適用後は原則3,300時間、最大3,400時間に短縮されることになります。
さらに、ドライバーの休憩時間に関しても、これまでは勤務終了後に与える休息期間が継続8時間以上とされてきましたが、今後は、継続11時間以上を与えるよう努めることを基本とし、継続9時間を下回らないようにする必要があります。

こうした拘束時間の上限規制や休息期間の改定は、ドライバーの健康を守り、過重労働に起因する事故を防ぐためのものでもあります。
また、長時間労働の是正など、ドライバーの労働環境が改善されることによって、交通事故の減少も期待されます。

一方で、運送業のドライバーの労働時間が減ることによって、ドライバーの給与の減少や人手不足の深刻化など、さまざまな問題が起きるといわれています。
高齢ドライバーに頼らざるを得ない現状のなかで、残業時間の減少などで給与が減ってしまえば、新たな人材を確保することもむずかしくなります。
こうした一連の『物流の2024年問題』は、運送業だけの問題ではなくなってきています。

一般企業が荷主として取り組むこと

『物流の2024年問題』は、一般企業にも大きな影響を与えると考えられています。
時間外労働の上限規制に沿って労働時間を抑えたままドライバーを確保するために、運送業は賃上げを行うしかありません。
上がった賃金の分は、配送運賃に転嫁され、結果として物流費が上昇する可能性もあります。

また、ドライバーの稼働時間が制限されることで、残業や休日の運送量が減り、これまでは可能だった短期間での長距離輸送がむずかしくなるかもしれません。
また、ドライバーが働ける範囲内での配送になるため、出荷スケジュールが全体的に遅れるケースも出てくるでしょう。

このように、商品の輸送を依頼する事業者側にもさまざまな影響が出ることが指摘されており、特に輸送方法を決定する荷主は、発注元事業者として運送業者と共にこれらの問題に取り組んでいかなければいけません。

商品が発送されて目的地に到着するまでには、輸送だけではなく、入荷や検品、仕分け、保管からピッキングに積込み、出荷まで、さまざまなプロセスを辿ります。
運送業者が担う輸送以外のプロセスは、荷主や別の事業者が担うことも多く、もし入荷や検品などに起因するドライバーの荷待ち時間が発生しているのであれば、運送業者以外の事業者に改善のための努力が求められることになります。

2024年問題を解決するために荷主側ができることとして、荷待ち時間が発生するプロセスを正確に把握するための時間管理ツールの導入や、出荷スケジュールの見直しなどが考えられます。
また、運送業側でも、複数のドライバーが荷物をリレーのように運ぶ『中継輸送』や、複数の企業が輸送手段を共有する『共同配送』といった施策が検討されています。
運送業者と荷主の双方が協力しながら、ドライバーの労働環境の改善と物流の適正化を進めていく必要があります。


※本記事の記載内容は、2024年5月現在の法令・情報等に基づいています。

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