宮田総合法務事務所

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家族信託組成時の損益通算の問題って?

15.12.10 | 暮らし・人生にお役に立つ情報

老親の保有する財産の管理や認知症後も柔軟な資産活用・節税対策の手法として、
大きな注目を浴びている『家族信託』『民事信託』です。


老親(委託者)と財産を預かる子供(受託者)との契約により、
受託者に財産管理を託す仕組みですが、この信託を実行するにあたってのデメリットは
ほとんどありません。


唯一と言って良いほどのデメリット、あるいは注意点として挙げられるのが、
この「信託における損益通算の禁止」の問題です。

個人が受益者である信託において、不動産所得の計算上、信託財産たる不動産から生じた損失がある場合には、
その損失は信託していない他の不動産の不動産所得やその他の 給与所得等と通算することができず、
またその損失を繰り越すこともできないとされています(租税特別措置法第41の4の2①)。


この規定は、いわゆる『信託における損益通算の禁止』と言われるものです。

つまり、家族信託(民事信託)を実行するにあたっては、不動産オーナーがその所有物件の全てを
一つの信託契約で受託者に預けた場合は、問題になりませんが、もし一部の不動産は
信託財産として受託者に管理を任せ、残りは自らが引続きオーナーとして直接管理をする形を
取ったとしましょう。

この場合、信託財産と所有権の財産とを合わせて保有することになります。
そうなると、信託不動産から生じた損失は、他の所有権で保有する不動産の所得や給与所得等と
通算することができなくなります。
またその損失を繰り越すこともできないです。

例えば、所有権の財産として保有するマンション1棟の大規模修繕を行ったとします。
この場合、その年の経費(修繕費として一括で経費にできる場合と減価償却費として
複数年にわたって経費にする場合に分かれますが)は、他の不動産取得や給与所得と
合算することになります。

そして、その結果、マイナスになれば、その損失部分は翌年の経費に繰越しが可能となります。
これが通常の取扱いです。

一方、このマンション1棟を信託財産に入れた場合はどうでしょう。
前述の租税特別措置法の規定により、当該マンションの修繕に伴うその年の経費は、
同じ信託契約内における他の信託財産の収入とは合算できますが、
他に所有権で持つ不動産の所得や給与所得とは合算できません。
また、その損失は、無かったものとみなされ、翌年以降に繰越すことはできません。


具体的な数字でみてみましょう。

【事 例】

信託太郎さんは、甲マンションと乙マンションの2つの収益不動産を所有しています。
今年、甲マンションについては、大規模な修繕を行い、
甲マンションの収支は金1,000万円の赤字だったとします。

[ 不動産所得の内訳: 甲不動産 ▲1,000万円  乙不動産 2,000万円 ]


①甲マンション及び乙マンションを共に通常の所有権で保有している場合
   又は甲及び乙を共に信託財産に入れた場合

     甲不動産所得  ▲1,000万円
     乙不動産所得   2,000万円
     不動産所得合計  1,000万円

   ☆その年の不動産所得は、金1,000万円となります。 


②甲マンションのみ信託財産とし、乙マンションは従来通り所有権で保有した場合

     甲不動産所得              0円   ←損益通算不可なので損失はなかったことに
     乙不動産所得   2,000万円
     不動産所得合計 2,000万円

 ☆その年の不動産所得は、金2,000万円となる。



【結 論】

家族信託で不動産を信託財産に入れる場合は、今後の修繕計画なども考慮に入れて、
信託契約のタイミングや信託財産とする物件の選別について、慎重に検討することが必要となります。

ほとんど全ての不動産を一つの信託契約で信託財産に入れることにより損益通算の問題を回避するなどの
対応が必要となるかもしれません。

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