ウィルサイドコンサルティング合同会社

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今年も取材に行って来ました。“カンヌライオンズ2015”ご報告。その3

15.10.29 | ビジネス【マーケティング】

前々回から、カンヌライオンズ2015のご報告をしています。 

ここ数年続く“ソーシャル・グッド(ブランドや広告が社会に良いことをする)”の流れもご紹介しましたが、その流れを受けて、結局のところ「何か世の中の役に立つもの」や「社会に対して物申しているもの」しか評価されないのでは?といった解説や感想もよく目にします。

でも、私が見るところ、けっしてそんなことはありません。

広告的機知に富むもの、もっと言うと一種の「頓知」のようなものを活かした受賞作も少なくないのです。

代表的なものは、フィルム部門のグランプリをはじめとして、サイバー部門、プロモ&アクティベーション部門のゴールドなど、多数受賞した「UNSKIPPABLE AD」です。GEICOという損害保険会社が行ったもので、YouTube等の動画投稿サイトでのプリロールと呼ばれる、あの「5秒後にスキップできます」という広告です。 

プリロール広告は、ユーザーからすると正直邪魔くさいですよね。だけど、広告主からすると、なんとか見てほしい。でも無理やり見せることはできない。そんな「ちょっと困った存在」を、このGEICOのフィルムは「頓知」でみごとに解決してみせました。 

何本かシリーズがあるのですが、1本だけ紹介すると、家族が食卓で食事をしようとしているシーンで話は始まります。奥さんが「節約のことを考えましょう!」と言うと、4人家族は全員静止します。

そこに「あなたはこの広告をスキップできません。何故ならば、もう終わっているからです」というナレーションが入ります。画面の真ん中には、大きくGEICOのロゴ。よく見ると、フィルム自体が静止しているのではなく、4人家族がただ「止まろう」としているのが分かります。時々まばたきをしたりしているのです。

すると、おもむろに大きな犬が現れ、食卓の上に昇り、パスタやサラダをムシャムシャと食べ始めます。それでも「止まるお約束」なので、止まり続ける家族。その様子が面白くて、ついつい最後まで60秒以上見てしまうのです。

その間、見ている人の目には「機知にあふれたブランド」として、GEICOのロゴマークが見え続けているという仕組みです。 

僕がこの広告を初めて見たのは、カンヌライオンズ・サイバー部門の贈賞式でした。ゴールドを受賞し、上映されたのです。僕はすぐに気に入りました。とにかく笑えるのと、「プリロール広告」という消費者にとっての邪魔者を、広告らしい機知(もっと言えば頓知)で見事に解決している姿に、正直恐れ入りました。 

それでも、「最も伝統のあるフィルム部門では、そんなに高く評価されないのではないか」と勝手に思っていました。フィルム部門は元々テレビCMを対象にしたものですが、現在では、テレビCMから1本、ネット上の動画から1本の計2本のグランプリが選ばれています。

なんと、このフィルム部門のグランプリに「UNSKIPPABLE AD」が輝きました。この、ある意味では“軽い”、機知に富んだ動画を、カンヌが伝統あるフィルム部門のグランプリに選んだことで、“カンヌ、やっぱり、なかなかやるなぁ”との感を深めたのでした。 

さて、次回ももう少し、“カンヌライオンズ2015”について、ご紹介していきましょう。 

次回の「佐藤達郎のマーケティング論」は『今年も取材に行って来ました。“カンヌライオンズ2015”ご報告。その4』をお届けします。 


佐藤達郎のマーケティング論 


[プロフィール] 
佐藤 達郎(さとう・たつろう) 
多摩美術大学教授(広告論/マーケティング論)、コミュニケーション・ラボ代表。2004年カンヌ国際広告祭日本代表審査員。浦和高校、一橋大学、アサツーDK、(青学MBA)、博報堂DYを経て、2011年4月より現職。著書に、『NOをYESにする力!』『アイデアの選び方』『自分を広告する技術』『教えて!カンヌ国際広告祭』がある。 

[記事提供] 

(運営:株式会社アックスコンサルティング)

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