大阪プライム法律事務所

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類似デザインと不正競争防止法

15.07.20 | 企業の法制度

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先月(2015年6月)30日に、スナイデルなどの模倣商品を販売した疑いで服飾販売会社「Gio」の社長らが、不正競争防止法違反の疑いで逮捕されたというニュースが流れました。報道によると、同社は、インターネットでの通販ブランド「グレイル(GRL)」を展開していましたが、マッシュスタイルラボが販売するブランド「スナイデル(snidel)」や「リリーブラウン(Lily Brown)」と同じデザインの「模倣商品」を販売していたということです。「他人の商品の形態を模倣し販売する行為について、同法を適用して立件するのは極めて異例」(日経新聞記事より)と言われています。

このニュースに対して、服飾やファッション雑貨の分野のメーカーや販売店では大きな衝撃が走りました。人気のあるデザインを真似て、商品化して販売することは、この業界ではかなり多いのが事実化しているからです。聞くところでは、人気の服飾量販店の「ZARA」や「H&M」は、ニューヨークやミラノのファッションを「上手く取り入れて」、廉価で販売し大人気を得ているとも言われています。服飾以外の業界でも、「他のデザインを真似る」ことはかなり多いようです。今回、逮捕根拠となった不正競争防止法とはどういったものでしょうか。

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■今回の事案
今回の摘発に至る前には、事前の警告があったようです。報道による限りの情報ですが、告訴していたマッシュスタイルラボは、自社の製品を模倣した商品を継続的に販売していた通販サイト「グレイル」の運営会社に、何度か販売停止を申し入れていたものの、同社らは申し入れに応じず、販売を継続していた模様です。このために、刑事告訴がなされて逮捕に至ったということのようです。 

逮捕を報じた7月1日の日経新聞記事によると、逮捕容疑となった事実は、「昨年11月~今年3月、共謀の上、同サイトでスナイデルの商品の色や柄を模倣したワンピースなど5点を大阪府内の20代女性ら5人に販売した疑い」だそうです。また、同記事によると、大阪府警は今年3月にGioの本社や堺市内の倉庫などを家宅捜索していて、模倣品とみられる洋服約2000着を押収したが、その際に本社からスナイデルの正規商品30点も見つかったと報じています。また、府警生活経済課によると、同社はスナイデルの商品や写真を業者に渡し商品製造を依頼し、模倣品を正規価格の3分の1以下の値段で販売していたとみられるとも報じています。

このように、既に3月の時点で、これほどまでに証拠が確保されていたわけです。

■不正競争防止法とは
不正競争防止法違反とは、「不正競争防止法第2条1項所定の不正競争行為に該当する行為」で、大きく分けて9種類の行為類型が定められています(①第1号 周知表示混同惹起行為、②第2号 著名表示冒用行為、③第3号 商品形態模倣行為、④第4号~9号 営業秘密関係、⑤第10、11号 技術的制限手段回避装置提供行為、⑥12号 ドメイン名の不正取得等の行為、⑦第13号 誤認惹起行為、⑧第14号 信用毀損行為、⑨第15号 代理人等の商標冒用行為)。 

■商品形態模倣行為
この中で、今回、立件の根拠として用いられたのは、③の不正競争防止法第2条1項3号の「商品形態模倣行為」です。この条項のポイントを以下にあげておきます。

(1)禁止対象
これは、「他人の商品の形態を模倣した商品を譲渡し、貸し渡し、譲渡若しくは貸渡しのために展示し、輸出し、又は輸入する行為」を禁止対象にしたものです。簡単に言うと、他人の商品を真似て作った商品を売ったりしてはいけないということです。

(2)意匠権がなくてもよい
商品の形態は、たとえ意匠権を取得していなかったとしても、本号の対象になります。

(3)3年経過したら対象外
模倣の対象となった他人の商品が、最初に販売された日から3年を経過した場合は、保護の対象とはなりません。それ以降は、意匠権等で保護する必要があります。

(4)意図的な模倣のみ禁止
ここで禁止しているのは意図的な模倣であり、独自に製作した結果、たまたま形態が似てしまった場合は対象外です。

(5)禁止対象外
仮に形態が同じであっても、技術的機能的形態と言って、「ある特定の機能を実現するために技術的に同じ形態になる場合」は禁止されません。技術的機能的形態を特定の者に独占させるのは産業政策上妥当ではないからです。また、ありふれた形態は保護されませんし、商品の形態を離れたアイデアそれ自体についても「商品の形態」にあたらないので対象外です。

(6)「商品の形態」とは(同法2条4項)
「商品の形態」模倣が禁止対象ですが、そもそも何が「商品の形態」なのかがポイントになります。定義としては、需要者(消費者など)が通常の用法に従った商品の使用に際して、知覚によって認識できる商品の外部及び内部の形状並びに形状に結合した模様、色彩、光沢及び質感をいうとしています。この定義は、それまで何が商品形態というのか曖昧だったため、平成17年の不正競争防止法改正時に入れられたものです。

(7)形態に関しては、商品の内部の形状・構造については、判断が分かれた事例があります。
肯定例としては、小型ショルダーバッグ事件があります(東京地判平13.12.27)。これは、「小型ショルダーバッグにおいては、需要者は、その内部構造も観察、確認するなどした上で購入するかどうかを決定するのが通常であると考えられる」として、商品の外観だけでなく、容易に認識しうる商品の内部構造まで「商品の形態」に含めて認定しました。否定例としては、排水ドレンホース事件があります(大阪地判平 8.11.28)。これは、商品の機能、性能を実現するための構造は、それが外観に顕れる場合は「商品の形態」になり得るが、外観に顕れない内部構造にとどまる限りは「商品の形態」に当たらないとしました。この2事例からは、需要者に容易に認識され注目されるか否かが判断の分かれ目になったと解されます。

(8)「模倣する」とは(同法2条5項)
模倣行為が対象ですが、模倣とは「他人の商品の形態に依拠して、実質的に同一の形態の商品を作り出すこと」を言います。この定義規定も、平成17年の法改正で入れられたものです。

ここでは、「依拠」という点が一つの大きなポイントになります。これは他人の商品形態にアクセスしてそれに基づいて商品を作り出すことです。このため、前述したように、他人の商品形態を知らずに、作り出したのが結果的に酷似してしまったという場合は依拠したことにはなりません。ただし、他人のものを参考にしていたならば、行為者が主観的には大きな改変を加えたつもりであっても、作られた商品が客観的に「実質的に同一の形態」と評価される限り、「模倣」に該当します。

また、「実質的に同一」であることが必要という点もポイントになります。このため、改変があった場合には、改変の着想の難易、改変の内容・程度、改変による形態的な効果等をみて模倣にあたるかどうかを判断することになります。

今回の前記逮捕事案は、この「模倣」行為に当たるかどうかが大きな論点になると思いますが、報道での事実を前提にすると、家宅捜索で本社からスナイデルの正規商品が多数見つかったということですし、スナイデルの商品や写真を業者に渡し商品製造を依頼していたということですから、これらが事実とすれば、「他人の商品形態に依拠」したと判断したものと思われます。

(9)民事上の救済手続き
模倣品販売等に対しては、民事上の救済手段として差止請求権や損害賠償請求権のほか、悪質な行為にたいしては刑事罰が規定されています。

(10)刑事罰(同法21条2項2号)
不正の利益を得る目的で第2条1項3号に掲げる不正競争を行った者(法人の代表者又は法人若しくは人の代理人、使用人その他の従業者を含む)は5年以下の懲役もしくは500万円以下の罰金、又はこれを併科。その法人に対して三億円以下の罰金刑が科されます。

■服飾やファッション雑貨の分野のメーカーや販売店の方々が、今回の逮捕事件に大きな衝撃を受けていることは、いかに多くの商品で同様の問題を抱えているかを思わせるものでした。ただ、ファッションには流行というものがあって、そのときの流行ファッションを取り入れて商品化すること自体は必要なことでもあります。以上に述べた法律上の規制要点を頭に入れて、不正ではない競争を行って頂きたいものです。

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