大阪プライム法律事務所

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不正競争防止法の改正(営業秘密保護の強化)

15.12.23 | 企業の法制度

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今年、不正競争防止法の一部が改正されました。

改正法は本年(2015年)7月3日に参議院で可決成立し、来年(2016年)1月1日から施行されることになりました。不正競争防止法は、事業者と事業者の間での不正な競争行為を防止するための法律で、事業を進めていく上で重要な法律です。

今回の改正は、「営業秘密保護の強化」を目的としたものです。これで困っている企業には朗報です。改正のポイントをご紹介します。

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■不正競争防止法とは
不正競争防止法は、公正な競争と国際約束の的確な実施を確保するため、不正競争の防止を目的として設けられた経済産業省が所管する法律です。

■改正の動き
最近は、政府の知的財産政策で、知的財産権の強化という政策的な要求に伴って、不正競争防止法が数多く改正が行われてきました。

今回の改正は、営業秘密の保護強化に主眼をおいたものです。これは、新日鐵住金vsポスコ事件(製鉄技術:1000億円の賠償請求事案)、東芝vsSKハイニックス事件(NAND型フラッシュメモリ技術:330億円で和解)などや、ベネッセ顧客情報流出事件(約3000万件漏えい)など、国内外への先端技術や秘密情報などの流出事件が相次いだことなどがきっかけとして強化されたものです。 

特に政府が気にしたのは、日本企業独自の技術情報が、海外企業から狙われる例が増え、ITの進展で情報が漏れやすくなっていることから、日本産業の国際競争力を守るため制度改革が必要と判断したようです。 

■改正のポイント(刑事面)
(1)罰金の引き上げ

営業秘密侵害罪には、10年以下の懲役のほか、罰金又はその併科とされていますが、この罰金額の上限が、個人・法人ともに引き上げられました(懲役の量刑は変わりません)。

また、海外犯への重罰化として、「海外重課」というものが取り入れられました。これは営業秘密を海外で使用する目的で侵害したり、海外で使われる事が分かっていて漏洩したりした場合、海外で不正に使用した場合などに、国内の場合よりも重い刑罰を課すものです(これも懲役の量刑は変わりません)。 

・罰金上限額の引き上げ
   
個人1千万円 → 2千万円(海外重課 3千万円)
   法人3億円  → 5億円(海外重課 10億円) 

(2)非親告罪
さらに、営業秘密侵害罪が非親告罪に改められ、被害者の告訴がなくても公訴提起が可能となり、捜査・逮捕の迅速性が期待できるようになりました。 

(3)処罰範囲の拡大
不正開示が介在したことを知って営業秘密を取得し、転売等を行う者が処罰対象に追加されました。改正前は、営業秘密を不正に取得した行為者から直接に開示を受けた者(二次取得者)のみに処罰対象が限定されていたのを、三次取得者以降にも拡大したわけです。これによって、転々流通した顧客名簿などの営業秘密の不正使用・不正開示行為者も処罰の対象とすることができるようになりました。

また、日本国内の事業者が海外サーバーで管理している営業秘密の不正取得等に対応するため、海外における営業秘密の取得行為が処罰対象に追加されました。 

さらに、営業秘密侵害の未遂行為が処罰対象に追加されました。 

(4)犯罪収益の没収
「犯罪で得た財産や報酬は没収してしまうべき」という考え方を積極的に取り入れ、不当な収益・報酬の没収規定が入り、裁判所の判断で没収することができることとなりました。これによって、ある企業が違法に手に入れた営業秘密で巨額の利益を得た場合、罰金を払ってもなお利益が残ってしまっても、裁判所はそれも没収してしまうことができます。

■改正のポイント(民事面)
(1)立証負担の軽減

損害賠償請求等の民事訴訟における原告の立証負担を軽減するため、被告による営業秘密の使用を推定する規定が新設されました。

これは、原告側が、
①営業秘密である技術情報(製造ノウハウ等に限定)について、
②被告による違法な取得行為があったこと、
③当該技術と関連する事業を実施していること
の3点を立証すれば、「被告が当該技術上の秘密を使用して生産等をしたものと推定」されることになり、被告が「当該技術の不使用」を立証できない限り、損害賠償が認められることとなりました。

これで被害を受けた側が訴え易くなります。これは、改正法施行後に違法な取得行為が行われた場合に限り適用されます。 

(2)秘密侵害製品の差止・輸出入の禁止
特許権侵害品と同様に、他人の営業秘密の不正使用により生産した製品の譲渡・輸出入等を禁止しました。(民事上の損害賠償請求と差止請求の対象とするとともに、刑事罰の対象にも追加しました)。

これにあわせて関税法も改正され、この規定に関しては輸出・輸入に対しても適用されるようになりました(電気通信回線を通じての提供の際も該当)。 

(3)除斥期間の延長
営業秘密の不正使用に対する差止請求ができる期間が、「事実を知った時から3年・行為の開始の時から10年」という後者の除斥期間部分が延長され、「事実を知った時から3年・行為の開始の時から20年」となりました。

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