大阪プライム法律事務所

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「刑事弁護人のための隠語・俗語・実務用語辞典」

16.04.16 | 企業の法制度

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本年4月8日に「刑事弁護人のための隠語・俗語・実務用語辞典」という本が出ました。下村忠利著(株式会社現代人文社)です。

マゾンに載っている内容説明によると、「弁護士は、弁護活動の中でさまざま依頼人と接するが、その人たちはそれぞれ特有の話し言葉や業界用語を使用することがたびたびある。このような言葉や用語の正確な意味を知っていることは、事案についての理解を深め、依頼人とのコミュニケーションを円滑にし、信頼関係を築く基礎となる。本書は、弁護士経験40年の中で知った隠語や業界用語1300以上を集めてその使用例や意味を解説する。」となっています。はてさて、どんな本なのか。

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■著者の下村忠利弁護士
1977(昭和52)年弁護士登録の大阪弁護士会会員です。日本弁護士連合会刑弁センター副委員長、大阪弁護士会刑事弁護委員会委員長、大阪弁護士会裁判員本部副本部長、刑事弁護フォーラム副代表世話人などを歴任し、2004年(平成16年)に日本初の刑事弁護専門事務所「刑事こうせつ法律事務所」を開設。現在、弁護士法人大阪パブリック法律事務所所長として活躍しています。

■内容(「BOOK」データベースより)
「ケツ持ち」「ニギリ」「赤玉」「事始め」「ゼロ銭で行く」…被疑者・被告人との正確なコミュニケーションと信頼関係を築くために、最低限知っておきたい用語1300以上を収録。実務で耳にする用語を厳選。コンパクトで正確な解説。語源や使用例を明示。 

■読んでの感想
手に取って、一通り目を通しました。よくぞ、これだけ多くの隠語や業界用語を1300以上も集めたものだ、と単純に関心しました。 

「よく使われる用語」から始まって、「交渉こと関係」「脅し文句関係」「金融関係」「携帯電話関係」「犯罪の種類関係」「車輌犯罪関係」「違法薬物関係」「暴力団関係」「武器・抗争関係」「入れ墨関係」「賭博関係」「風俗関係」「暴走族関係」「韓国・朝鮮語等関係」「刑事手続関係」「収容施設関係」と整理されています。 

ページを繰りながら、「あるある」と納得したり、「ああ、そういう意味だったのか」と感心したり、「あのとき、あの被疑者はこの言葉を使ってたな」とか、「証言台に出てきたあのヤクザさんが使ってたな」「刑事事件の調書にあったなあ」など、思い出してはニヤニヤすることが多くありました。きっと、一般人でも十分に面白く読めるように思います。でも、暴対法が厳しい折柄、関係者暴力団関係者と間違われるので、くれぐれも影響を受けて一般の方があまり使用しないほうがいいと思います。 

■いくつか目についた用語(用語解説は本からの抜粋)と感想
(1)金的(キンテキ):金づるになるカモのこと。「あいつはキンテキやぞ。うまいこと近づけ」。
【感想】
金的といいと、普通は、男性の急所に対する攻撃を指す格闘技用語でもありますが、こういう意味での使い方があるのだなと思いました。確かに、詐欺の常習者が言葉で使っていたのを記憶しています。 

(2)グリコ:まるでお手上げ状態のこと。【語源】大阪道頓堀のグリコの広告塔の両手をあげたランナーの姿から。
【感想】
ご存知の大阪なんばのグリコの看板。これは、日常生活で使ってもよさそうですね。 

(3)くんろく:相手に強く言って言い含めること。「くんろく入れる」のように使う。「96パーセント」は威圧によるが、残りの「4パーセント」は「次は殺す」との警告であると言われているが定かではない。100パーセントまであと残りは4パーセントしかないそとの強い脅迫。
【感想】
クンロクとは、主に9と6にまつわる隠語ですね。相撲用語で15日分の取組のうち、9勝6敗で越すことで使っているのをテレビで見聞きしますが、裏街道では、このように脅迫的場面で使用しているようです。被害者が告訴などしようとするときの口止めをしようとする際など使われ、「あいつにクンロクを入れとけ」などのように言っているようです。調べてみると、映画「仁義なき戦い 頂上作戦」の中で、小林旭が「大久保にはクンロク入れてありますけん」というセリフを語っているようです。 

(4)青タン:注射するのを失敗して腕に残っている青アザ。「青タンばっかりつくってるボン中や」。
(5)シャブダコ:何回も突きすぎていると「シャブダコ」といわれる注射痕のしこりができる。
【感想】これらは、覚せい剤事件の弁護をしていたらよく出てきます。こっそりと常習になっていた者が、自分の腕に注射を刺した後のシャブダコや、その斑点の周囲に小さな「青タン」(青いあざ)を残していたのを家族や知人に見つかって不審がられ、警察に相談に行かれたりしています。逮捕直後の拘置所内で実際に見ることもありますが、ひどい場合は、腕中に広がっていたようなこともあります。 

(6)灸り(あぶり):覚せい剤をアルミ箔にのせたり、ガラパイに入れ、下からターボライターの火であぶって出てくる煙を吸って使用すること。
【感想】
この言葉に初めて接したのは、司法試験に通って、司法修習生として検察庁で検察修習をしていたとき、覚せい剤取締法違反の被疑者の取調べをした際でした。被疑者の口から「(覚せい剤を)灸りで吸いました」と言われて、意味が分かりませんでした。言った本人は、ポカーンとしてましたが、後ろに控えていた護送中の刑事さんが、小さな声で「見習いの方だから説明してあげて」と言ったので、その被疑者は、急にニコニコしながら、覚せい剤をアルミ箔にのせ、下からライターの火であぶって吸う方法を、さも得意げに説明してくれました。そのときは、まるで先生と生徒のようでした。ちなみに、「ガラパイ」とは、「ガラスパイプ」の意味です。 

(7)シャブ焼け:覚せい剤を使用して日光に当たると顔が黒くなる。「見事なシャブ焼けでんな」。
【感想】
清原元選手がそうだったのかどうかは分かりませんが、シャブ中の芸能人などの有名人は、日焼けサロンで必要以上に日焼けして、シャブ焼けの肌色や肌触りを消していることがあると言われています。


(8)バンス:風俗店やソープランドで、女性が働く前に「前借り」すること。支度金とは別で、必ず返済しなければならない。この「バンス」を称して「女を売る」と表現することもある。
【感想】
この本では「バンス」のことをこのように説明をしていますが、銀座や北新地、博多の中州などでの高級クラブでは、売り上げ契約ホステスが次のお店に移る時に、今のお店にあるツケの清算のため、新しく働くお店からバンスをしたりします。引き抜く側の店は、売り上げが見込めるホステスに対して、前のお店にある借金(ツケ)の立替です。売り上げ契約ホステスは、自分についているお客のツケを回収しないとならず、回収できないと、そのホステスの借金となりお給料から引かれ、店を辞める時は、残っているツケを全額清算する必要があり、そこで新しい店でバンスを受けます。(ちなみに、これは、ヘルプで客を持っていないホステスには関係のない話です。)

実は、かつて、ある街の高級クラブの女性の「バンス」を連帯保証した会社社長が、そのクラブからバンスの支払いを求めて訴えられた事件を受けて和解で解決したことがありました。

このような場合において、クラブ、キャバレーのホステスが、客の飲食代金を店に対して保証することが公序良俗に反するかどうかが以前にはかなり争われ、昔の芸娼妓の前借金契約と同じように公序良俗違反だとする判決が多くありました。しかし、勤めていた店に返さないとならない金を、移る先の店が貸し付ける行為までも公序良俗違反になるかは、問題状況が違うので和解で処理したものでした。

(9)落ちる:自白する。完全に供述するのを「完落ち」、中途半端なのを「半落ち」という。自白させるのがうまい刑事は「落としの名人」といわれる。
【感想】
「半落ち」と言えば、横山秀夫の同名ベストセラー小説の映画を思い出します。
病に苦しむ妻を自ら殺害した元刑事が、取り調べに際し犯行を認めながらも「完落ち」せず、決して明かそうとしない自首するまでの空白の2日間がさまざまな謎や憶測を呼び問題化していく過程を追ったものでした。自らが骨髄をドナーとして提供した青年を守り、そしてドナー登録が消える51歳までにもう一人救いたいと考えた元刑事の心情を軸に、刑事、検察、弁護士、判事、新聞記者が、それぞれの立場で元刑事と向き合うストーリーでした。 

(10)ヨンパチ:警察段階だけの身体拘束で終わり、送致されず、48時間で帰れるときにいう(刑訴法203条4項)。「心配いりまへん。こんな事件はヨンパチです」。楽観的な被疑者は勝手に決める。
(11)ワンこうりゅう(勾留):10日間の勾留のこと。結局、「やむを得ない事由がある(刑訴法208条第2項)として10日間延長され、「ツーこうりゅう(20日間)」になることが多い。「ワン勾留で頼んます。ほんで直ぐに保釈で出してください」。このようにすがりつく被疑者がいる。
【感想】
いるいる、ですね。「自分は、ヨンパチで帰れますよね」と聞いてみたり、「私はワン勾留ですね」と言ってみたりする被疑者がいます。そもそも、経験のなせる判断でしょうが、世の中はそう甘くないことが多いです。

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