大阪プライム法律事務所

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あきれたPPAP 商標騒動

17.01.29 | ニュース六法

PPAP「ペンパイナッポーアッポーペン」(Pen-Pineapple-Apple-Pen)。不思議な格好で、不思議な踊りと歌で大ヒットした、ピコ太郎。昨年、突如YouTubeに出てから、爆発的人気となっています。ところが、この「PPAP」が大阪府内の無関係な会社によって商標出願されていたことが大きな波紋を呼んでいます。

報道で伝わってくるところでは、この会社の社長は、元弁理士で、その会社名や社長名で「じぇじぇ」、「北陸新幹線」、「民進党」、「終活」「ゲス不倫」「民泊」なども申請しています。驚いたことに「STAP」や「STAP細胞はあります」まで出ていて、びっくりするやら、あきれるやらです。

特許庁の検索システム「J-PLAT」で調べてみたら、その会社名(ベストライセンス株式会社)で現在出願中のものだけで11,249件、社長個人名でも2,661件も出ていました。テレビ取材に答える社長の説明を聞くと、使用したい者から対価を得る適法なビジネスモデルだというようなことを言っていました。このような、他人の商標を先取りして、真に使用したい者からお金を得ようとするブラックなビジネスを「トロールビジネス」ともいいますが、果たしてそのようなうま味はあるのでしょうか。

【写真はピコ太郎のYouTube画像より】

■単に申請中に過ぎないこと

まず、言えることは、この会社が完全な商標権利者となっていることを前提にしたような報道や解説がなされている場合がありますが、これは完全な誤解です。PPAP商標は、現時点では商標登録の申請中でしかなく、いまだ商標権は発生していません。

 

日本の商標制度は、特許庁に登録申請をして審査を受ける制度で、審査後の登録査定を受けて初めて商標権が発生します。商標権として正式に発生しないと、他者の使用禁止を求めたり、損害賠償請求をしたりとかはできません。つまり、出願しただけでは、まだ何等の権利もありません。

 

「J-PLAT」で商標検索をしてみると、ベストライセンス社の出願11,249件、社長個人名の出願2661件のうち、登録となっているのは、ベストライセンス社でわずか2件、社長個人としては5件のみです。他のほとんどは「審査待ち」となっています。

 

今回騒ぎになったPPAPについても、「審査待ち」となっています。つまり、いまだ出願した段階であるに過ぎません。 時系列的にみると、分野を異にして4回出願しています。1回目が2016年10月5日(出願番号:商願2016-108551)、2回目が同年11月15日(商願2016-128344)、3回目が同年11月28日(商願2016-134012)でした(この第1回と第2回の間の10月14日に、ピコ太郎の所属先であるエイベックス社が、申請をしています)。

 

■手続き補正請求中であること

商標申請がされると、最初に「方式審査」があって、その後に「実体審査」という二段階の審査がなされます。「方式審査」は書類が所定の要件に合っているかどうかと、料金が支払われているか等の形式チェックです。それが済んではじめて、登録を認めてよいかどうかの実体審査に移ります。

 

問題のベストライセンス社が出したPPAPの1回目の申請(昨年10月5日出願番号:商願2016-108551)の審査記録を見ると、「手続補正指令書」が11月18日に発送され、12月8日にも再送されています。これは、所定の印紙を貼っていないために、納付するように求めたものと思われます。1区分12,000円の納付が必要にもかかわらず、前述のように現在手続き中で残っている件数だけでも11,000超もあるところ、そのすべてに印紙を貼れば、1億円をはるかに超えることになるので、到底貼っているとは思えないからです。特許庁から補正指令が出されていることから、出願料を払わずに出願をして、とりあえず出願日だけ確保しているものと解されます。

 

なぜ出願日だけ確保したいのかというと、誰が商標権者になるかは、先に特許庁に商標登録出願の申請を済ませた者だからです。これを「先願主義」といいます。

 

印紙を貼らずに出願したままでも、すぐには却下されないため、その状態を利用して、先願者であるとして、本当に権利を欲しい者から金銭を受けて、権利を譲渡したり取り下げたりすることで利益を得ようとしているものと思われます。

 

しかし、このままなら、ベストライセンス社の出願は、そのうち却下になり、後に出されたエイベックス社の出願は、順位が持ち上がって、問題がなければ登録されます。無駄な時間はかかってしまいますが、商標権を取られたといった事態はなくなりそうです。

 

■もし印紙を納付したら?

もし、ベストライセンス社がPPAP分の印紙を貼って出し、他の形式審査もクリアした場合はどうなるかも心配です。

 

「方式審査」をパスした出願書類は、次の「実体審査」に進みますが、そこでは出願されたもの自体が商標としての要件に合致するかどうかが判断されます。ここでは商標法に定められた「不登録事由」「他商標との同一または類似」「識別性」などが問題になります。これらに合格しないと登録拒絶となります。今回のPPAPの場合については、おそらく拒絶となるだろうと言われています。

 

商標法では、本来想定される商標の使用の範囲を超える多数の出願を行う場合など、商標を自己の業務に使用する蓋然性が極めて低いものは拒絶理由に当たるとしています(判例もあり)。また、他人の著名な商標の先取りとなるような出願や第三者の公益的なマークの出願である等の場合も拒絶理由としていて、商標登録されることはないからです。

 

この点については、実名こそ出していませんが、特許庁は、以下のとおり、平成28年5月17日に、「自らの商標を他人に商標登録出願されている皆様へ(ご注意)」という注意を公表していて、自身の商標について、このような出願が他人からなされていたとしても、自身の商標登録を断念する等の対応をしないように注意を喚起しています。

https://www.jpo.go.jp/tetuzuki/t_shouhyou/shutsugan/tanin_shutsugan.htm

そのうち、もっと有効な何らかの制度的対策がされるべきものだと思います。

 

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■自らの商標を他人に商標登録出願されている皆様へ(ご注意)

平成28年5月17日 特許庁

 

最近、一部の出願人の方から他人の商標の先取りとなるような出願などの商標登録出願が大量に行われています。しかも、これらのほとんどが出願手数料の支払いのない手続上の瑕疵のある出願となっています。特許庁では、このような出願については、出願の日から一定の期間は要するものの、出願の却下処分※1を行っています。

 

また、仮に出願手数料の支払いがあった場合でも、出願された商標が、出願人の業務に係る商品・役務について使用するものでない場合(商標法第3条第1項柱書)※2や、他人の著名な商標の先取りとなるような出願や第三者の公益的なマークの出願である等の場合(同法第4条第1項各号)※3には、商標登録されることはありません。

 

したがいまして、仮にご自身の商標について、このような出願が他人からなされていたとしても、ご自身の商標登録を断念する等の対応をされることのないようご注意ください。

 

なお、これらの出願についても、出願公開公報やJ-PlatPat ※4 にて公表されますが、当該情報はあくまでも商標登録出願がなされたという情報の提供であり、これらの出願に係る商標が商標登録されたことを示すものではありません。

 

商標制度の利用者の皆さまにおかれましては、上記に関連してご不明な点や気掛かりな点などございましたら、下記の問合せ先までご連絡ください。

 

※1: 特許庁では、出願手数料の支払いを失念した等の手続上の瑕疵のある出願でも、まず出願を受け付けて、一定の期間内に出願手数料の支払いの機会を設けるとともに、出願人が出願手数料を支払う意思のないことを確認したうえで出願を却下処分としています。この場合、その出願は最初からなかったものとされます。

 

※2: 一個人や一企業等が本来想定される商標の使用の範囲を超える多数の出願を行う場合には、商標を自己の業務に使用する蓋然性が極めて低いものとして、商標法第3条第1項柱書の拒絶理由に該当し登録できません。

【商標法第3条第1項柱書】

自己の業務に係る商品又は役務について使用をする商標については、次に掲げる商標を除き、商標登録を受けることができる。

 

(参考判決)

商標の使用に関して、近時の裁判例において、他者が使用する多数の商標を一個人が出願した場合に、当該個人に将来自己の業務に係る商品又は役務に使用する意思があったと認め難いとの判断が示されています。

◯「アールシータバーン」事件:平成24年(行ケ)10019号・平成24年5月31日

要旨:http://www.ip.courts.go.jp/app/files/hanrei_jp/315/082315_point.pdf(PDF、外部サイトにリンク)

全文:http://www.ip.courts.go.jp/app/files/hanrei_jp/315/082315_hanrei.pdf(PDF、外部サイトにリンク)

 

※3: 他人が既に使用している商標について先取りとなるような出願の場合や、国・自治体等の公益的な標章を関係のない第三者が出願する場合には、商標法第4条の拒絶理由に該当し登録できません。

 

【商標法第4条第1項】

次に掲げる商標については、前条の規定にかかわらず、商標登録を受けることができない。

(略)

六 国若しくは地方公共団体若しくはこれらの機関、公益に関する団体であつて営利を目的としないもの又は公益に関する事業であつて営利を目的としないものを表示する標章であつて著名なものと同一又は類似の商標

七 公の秩序又は善良の風俗を害するおそれがある商標

八 他人の肖像又は他人の氏名若しくは名称若しくは著名な雅号、芸名若しくは筆名若しくはこれらの著名な略称を含む商標(その他人の承諾を得ているものを除く。)

(略)

十 他人の業務に係る商品若しくは役務を表示するものとして需要者の間に広く認識されている商標又はこれに類似する商標であつて、その商品若しくは役務又はこれらに類似する商品若しくは役務について使用をするもの

(略)

十九 他人の業務に係る商品又は役務を表示するものとして日本国内又は外国における需要者の間に広く認識されている商標と同一又は類似の商標であつて、不正の目的(不正の利益を得る目的、他人に損害を加える目的その他の不正の目的をいう。以下同じ。)をもつて使用をするもの(前各号に掲げるものを除く。)

 

※4: J-PlatPat(特許情報プラットフォーム)

特許庁が発行してきた特許・実用新案、意匠、商標に関する公報や外国公報に加え、それぞれの出願の審査状況が簡単に確認できる経過情報等の特許情報を提供するサービス。

https://www.j-platpat.inpit.go.jp/web/all/top/BTmTopPage(外部サイトにリンク)

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