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人の行動心理を利用する『ナッジ理論』とは?

18.07.10 |

昨年、アメリカの経済学者で、行動経済学の権威であるシカゴ大学のリチャード・セイラー教授がノーベル経済学賞を受賞しました。セイラー教授は心理学と経済学を組み合わせながら人間の行動を研究し、さまざまな理論を展開。その中には、マーケティングや営業戦略に有効で、実際の現場で使われ、効果を出しているものもありました。

今回は、セイラー教授の研究の一つで、人の心理を利用する『ナッジ理論』をご紹介します。

ハエの絵を描くだけで清掃費を削減!?

2003年に、セイラー教授は法学者のキャス・サンスティーン教授と共著で『リバタリアン・パターナリズム』という論文を発表しました。この論文の中で提示された『ナッジ理論』は、マーケティング業界において革新的な理論でした。

ナッジ(nudge)とは、ヒジで軽く突くという意味で、『ナッジ理論』は科学的分析に基づいて人間の行動を変える戦略。つまり、意思決定を行うときに、それがありふれた決定であっても、人生を変えるような決断であっても、そこには常に選択構造が働いているということです。

“ナッジ=肘で小突く”ようにして人の意思決定に影響を及ぼすことができるこの『ナッジ理論』は、今や世界中のビジネスシーンで使われており、増客・増収に成功している企業もあります。なお、この理論のポイントは、肘で小突かれて誘導させられた相手にその自覚はなく、自分自身が選択した結果だと思いこんでいるところです。

有名な『ナッジ理論』の成功事例に、オランダのアムステルダム・スキポール空港の男子トイレで行われたものがあります。昔からスキポール空港の男子トイレは床の汚れがひどく、清掃費用がかさんでいるという問題がありました。そこで、小便器の中心にハエの絵を描いてみたところ、多くの男性がそのハエをめがけて用をたすので、小便器から尿がこぼれることもなくなり、結果、清掃費用が8割も抑えられたという結果を出しました。
ハエの絵を描くことで、トイレの利用者は知らず知らずのうちに小便器の中心を狙うように誘導されていたというわけです。


日本でも身近な『ナッジ理論』の活用術

日本でも使われている身近な例の一つに、レストランや定食屋の“おすすめメニュー”があります。
例えば、作りすぎてしまったメニューに“おすすめ”というマークを付けるだけで、通常よりもその料理がよく出たということがあります。
これは、複数あるメニューの中から、おすすめマークを付けることによって特定のメニューに導くテクニックで、『選択肢の構造化』と呼ばれます。

また、相手が望む選択肢を最初から設定しておくことで、異なる選択肢を選びづらくさせるデフォルト』というテクニックも『ナッジ理論』の一つです。
例えば、通販でよくある、「商品が気に入らなかったら返品してください。全額を返金します」という謳い文句もこれにあたります。
最初に「返金できる」という選択肢を与えてはいますが、すでに購入したものは、たとえ気に入らなかったとしても返品する人はほとんどいません。
また、動画のストリーミング配信などでよくある“無料期間の間に解約すれば料金はかからないが、期間が過ぎると自動的に有料期間に移行する”というサービスでは、やはり解約をする消費者は少ない傾向にありました。これもまた、『デフォルト』にあたります。

『ナッジ理論』は、社会に浸透しすぎていて、多くの人々は自分が誘導されていることに気づいていません。ぜひ、ビジネスに取り入れてみてはいかがでしょうか。

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