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『ワークシェアリング』は介護業界で人材不足の打開策となる?

23.07.04 |

日本の介護現場では、介護スタッフの人材不足が慢性的な課題となっています。
多岐にわたる業務と長時間労働で負担が大きい介護職は、高齢化社会において早急に働き手を増やす必要があります。
その課題を解決する一つの方法として注目されているのが、『ワークシェアリング』です。
今回は、人材不足の解消と雇用機会の創出を同時に叶えるこの『ワークシェアリング』について説明します。

人材不足を改善する『ワークシェアリング』

少子高齢化が進む日本では、高齢者の増加と労働力人口の減少により、介護現場における慢性的な人材不足問題が深刻になっています。
このまま人材不足の状況が続くと、常勤の介護スタッフの負担増につながり、介護サービスの質の低下や離職者の増加などが懸念されています。

そこで、この問題の打開策として近年注目されているのが、介護業界における『ワークシェアリング』です。
ワークシェアリングとは、これまで一人で取り組んでいた仕事を複数の従業員で分け合う仕組みのことをいいます。
主な目的は、複数の人で仕事を分担することにより、従業員一人ひとりの労働時間を削減し、全体の雇用者数を増加させて雇用の機会を創出することにあります。
そもそも、このワークシェアリングは、不況などで経営難に陥った企業が、従業員を解雇し人件費を削るのではなく、労働時間を短縮することで給与は減るものの雇用を維持するために生み出された仕組みです。
そういった目的で生み出されたワークシェアリングですが、違った目的で利用される場合もあります。
その一つが、繁忙期などの忙しい時間に短時間勤務のスタッフにも仕事に従事してもらい、常勤スタッフの負担を減らしつつも、労働力を確保するというものです。
まさに介護業界でのワークシェアリングは、この目的で利用することで効果を発揮します。

介護業界のワークシェアリング 利点と課題

介護業界においてのワークシェアリングは、施設で従業員が一人で行っていた送迎・食事介助(配膳、下膳、口腔ケアなど)・レクリエーション・入浴介助・おやつの介助など一連の業務を、単一の業務ごとに分解し、複数スタッフがチームを組んで一人の施設利用者を介護するようなスタイルです。

従来の働き方は一人が受け持つ業務量が多いため、比例して労働時間も長くなりがちです。
しかし、ワークシェアリングは各自の業務量の均衡を保ちやすくなるため、労働時間も短くなります。
このように業務を分解することで、一つひとつの業務内容が明確になります。
また、労働時間が短くなるため、これまで育児や介護、学業などの理由で長時間労働が困難だった人や、健康上の問題で力仕事は不向きだった人でも介護職に従事しやすくなります。
そしてそういった人々に、忙しくて人手の足りない時間帯などに勤務してもらうことで、常勤スタッフの負担を減らすことができ、人材を増やすよい機会になるのです。

あわせて、介護事業所全体における労働環境の改善も期待できます。各従業員の労働時間が短ければ、もし誰かが急きょ休んだときも、ほかの従業員で業務をカバーしやすくなります。
担当業務が少なければ人材育成にかかる時間を短縮でき、新たに入った従業員が即戦力として働きやすくなります。
従業員は負担が軽減されることでモチベーションが向上し、安定した介護サービスを提供できるでしょう。
ひいては従業員の離職の防止にもつながります。

一方、介護施設でのワークシェアリングには課題もあります。
一つ目は、すべての業務を把握する従業員が少なくなることです。
介護業務を複数人数でシェアすると、従業員は自身が担当する業務のみ把握する状態になります。
業務間の引き継ぎや連絡事項の伝達など、情報共有がうまくできないとトラブルにつながります。
この従業員間の情報共有には、ICT技術を活用することが有効です。
たとえば、タブレットなどのアプリやシステムを導入して情報を一括管理すれば、施設利用者の体調や食事、睡眠、排泄状況などを従業員同士で簡単に共有できます。

二つ目は、従業員の労働時間を一方的に減らして賃金も減ってしまうと、労働条件の不利益変更となる可能性があることです。
ワークシェアリングの導入が雇用維持のための一時的な措置なのであれば、その期間や内容について、きちんと従業員の理解を得るべきといえます。
労働条件そのものを変更するような場合については、専門家に相談するなどして適正な対処をとることが大切です。

ワークシェアリングを導入する際は、運営にあたっての計画立案、ICT技術活用の検討、マニュアルの作成、スタッフへの教育などを綿密に準備することが重要です。
人材不足問題を解消し、雇用のバランスや労働環境を改善したいと考えている事業所は、ワークシェアリングの導入を検討してみてはいかがでしょうか。


※本記事の記載内容は、2023年7月現在の法令・情報等に基づいています。

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