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会社の業績が悪化した場合、取締役の『経営責任』はどこまで?
20.09.08 | ビジネス【企業法務】
取締役には『経営責任』というものがあります。
経営者である以上、社長ほどではないにしろ、会社の未来について負うべき責任があるのです。
とはいえ、経営の先行きは常に不透明であり、最善を尽くしても業績が悪化する可能性はあります。
そんな時に、取締役はどこまで責任を問われるのでしょうか。
今回は原理・原則にのっとり、取締役の法的責任範囲について、解説していきます。
法律で定められた取締役の義務と責任とは
そもそも、会社の経営者としての取締役には、いくつかの法的な行動規範が課せられています。
取締役に就任したあとは、それを守って行動することが大前提となります。
その代表的なものが『善良な管理者の注意をもってその職務を行わなければならない』とされる『善良な管理者の注意義務(善管注意義務)』です。
取締役本人の能力や、社会的な地位に応じて、善意のもとで経営者としての役割を果たしていくべきという約束が定められています。
また、経営に関する意思決定については『法令・定款ならびに株主総会決議を遵守し、会社のために忠実にその職務を行わなければならない』とする『忠実義務』が課せられています。
会社の利益にならないことに手を染めてはいけないという意味です。
しかしながら、取締役は、不確実な状況のなかで、先を見通した経営判断をしていかなければなりません。
そして、判断した時点では、いくら会社の利益になると考えて実行したことであっても、その予測が外れてしまえば、会社の業績が悪化することもあり得ます。
会社の業績が悪化しただけで、経営者の役割を果たすことができていない、つまり法律的な義務に違反してしまった、ということになると、取締役はリスクをとって思い切った経営判断をすることができなくなり、経営が委縮してしまいます。
経営者も全知全能ではないので、そこまでの責任を問うことはできないはずです。
実際に、取締役の経営判断を問う裁判が開かれたこともあります。
この時、裁判所は『経営判断原則』という基準に従って判決を下します。
これは、『取締役には裁量が認められており、経営判断の過程・内容に著しく不合理な点がない限り善管注意義務違反にはならない』という内容です。
すなわち、取締役が経営判断をした当時の状況を踏まえて、必要な情報収集・調査・検討などが行われていたこと、その状況と取締役に通常要求される能力水準に照らして合理的な判断がなされていたかどうかがポイントです。
それができていれば、結果的に企業の業績が悪化したとしても、責任を取る必要はないということです。
『経営判断原則』が適用されない場合とは
経営判断原則により、取締役には広い裁量が認められるとはいえ、もちろん、何をしてもよいわけではありません。
たとえば、いくら会社が儲けられる機会があっても、法令に違反する行為をすることはできません。
たとえ、罰金を支払ったとしても、法令違反行為による利益が損失(罰金等)を上回る場合もあるかもしれませんが、あえて法令違反行為をするというような経営判断はしてはいけません。
ほかにも、取締役が『自分の会社の利益と相反する取引(利益相反取引)』を行い、それによって会社に損害が生じた場合であっても、経営判断原則は適用されません。
利益相反取引とは、取締役と会社が売買契約を結んだり、あるいは、会社が取締役の第三者に対する債務を引き受けたりといった行為のことです。
取締役が、会社を犠牲にして自己の利益を追求しようとするのを防止する目的があります。
もし何らかの理由で取締役がこのような取引をすることになった場合は、取締役会を設置していない会社では株主総会、取締役会を設置している会社では取締役会の承認を受けるように、会社法で定められています。
このとき、承認を受けた場合でも、利益相反取引によって会社に損害が生じたら、取締役は会社に対して損害賠償責任を負うことになります。
取締役も会社の経営者ですから、法律に定められた責任に違反する行為や、自己の利益を図る行為などをすることはできません。
それでも、取締役の経営判断には、広い裁量が与えられています。
先の見通しがつかない世の中だからこそ、きちんと情報収集・検討をしたうえで、思い切った経営判断をすることも、肯定する必要があります。
※本記事の記載内容は、2020年9月現在の法令・情報等に基づいています。
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