苦情対応も義務に! 『労働者派遣法』に基づく企業の責任とは?
23.06.27 | ビジネス【労働法】
『労働者派遣法』は1986年に施行された労働者派遣に関する法律です。
労働者派遣事業を適切に行い、派遣労働者を守ることを目的とし、これまで複数回の改正が行われました。
今回はこの労働者派遣法に関して、特に2021年に改正された内容に焦点を当てて解説します。
労働者派遣法とは? なぜ改正されたのか
労働者派遣法は、職業安定法とともに労働力の需給の適正な調整を図る法律で、「労働者派遣事業の適正な運営の確保の措置を講ずること」と派遣労働者の保護等を図ることによって、「派遣労働者の雇用の安定その他福祉の増進に資すること」を目的としています。
労働者派遣法は1986年の施行後も改正を重ね、現在の内容となっています。
初期の改正は、対象業務の拡大など規制を緩和するものでした。
その結果、派遣労働者数は増加し、企業にとって欠くことのできない労働力となりました。
しかし、2007年頃にはネットカフェで寝泊まりする日雇い派遣労働者(いわゆるネットカフェ難民)が社会問題になりました。
また、2008年にはリーマン・ショックによる景気後退で、大量の派遣切りが行われました。
このような背景から、2012年には日雇い派遣の原則禁止など派遣労働者を保護するための法改正が行われています。
法改正による派遣労働者保護の流れはその後も続き、直近の2021年改正までに派遣可能期間の制限や雇用安定措置の義務化、不合理な待遇の禁止などが追加されました。
2021年は2回実施! 改正のポイント
直近の労働者派遣法改正は、2021年の1月と4月に計2回行われています。改正のポイントは大きく6つあります。
【1】雇い入れ時の説明義務の範囲を拡大(対象:派遣元企業)
これまでも派遣元企業は派遣労働者を雇い入れる際に、待遇に関する説明が義務づけられていました。
2021年改正では説明範囲が拡大され、派遣元企業で行われる教育訓練やキャリアコンサルティングの内容も、雇い入れ時に説明することが義務化されました。
この内容に関する雇い入れ時の説明は、2021年改正前は努力義務でしたが、これを義務化することで、派遣労働者のキャリア形成をよりスムーズに図ることを目指しています。
【2】契約書の電磁的記録による作成も可能に(対象:派遣先企業、派遣元企業)
派遣先企業は派遣労働者を受け入れるにあたって、派遣元企業と派遣契約を締結することが必要です。
2021年改正によって、これまで書面でのみ作成可能であった派遣契約書が、電磁的記録でも作成できるようになりました。
派遣社員は契約期間が短く、契約ごとに派遣契約書を作成するため、どうしても契約書の数が多くなります。
書面は保管や検索の手間がかかりますが、電磁的記録による契約書はその手間が減り、効率よく管理できます。
【3】苦情処理の義務化(対象:派遣先企業)
厚生労働省が発行する『派遣先が講ずべき措置に関する指針』にて、派遣先企業に対し、派遣労働者から苦情の申し出を受けた場合には「誠実かつ主体的に対応しなければならない」と明記されました。
派遣先企業は苦情の内容を派遣元企業に通知し、連携して対応することが求められています。
ただし、派遣先企業が自社ですぐに解決できるような軽微な苦情なら通知する必要はありません。
派遣先企業は派遣元企業と密な連携を図るのはもちろんのこと、相談窓口や苦情処理方法などについて、あらかじめ定めておくことが必要です。
【4】日雇派遣社員について(対象:派遣元企業)
日雇派遣社員が自身の過失による理由以外で労働者派遣契約を途中解除された場合、日雇派遣社員に対して新たな就業機会を確保する、または休業手当を支払うことなど、派遣元企業が果たすべき責務を明確化しました。
【5】雇用安定措置に関わる派遣労働者へのヒアリング義務化(対象:派遣元企業)
派遣元企業は、派遣就業見込みが3年以上あり、継続就業を希望する派遣労働者に対して、派遣先企業への直接雇用の依頼など雇用安定措置を行う義務があります。
2021年改正によって雇用安定措置のため、あらかじめ派遣労働者から希望する雇用安定措置の内容をヒアリングすることが義務づけられました。
【6】インターネットを通じてマージン率などを情報開示する(対象:派遣元企業)
派遣元企業は以下の情報をインターネット上で開示することが求められています。
・事業所ごとの派遣労働者の数
・派遣先の数
・派遣料金の平均額
・派遣労働者の賃金の平均額
・労使協定を締結しているか否かの別など(労使協定の範囲、有効期間)
・派遣労働者のキャリア形成支援制度に関する事項
これまでは、事業所での書類の備えつけなども提供方法として認められていました。
しかし、2021年改正によって、インターネットにて常時必要な情報を提供することが原則とされています。
前述の通り、労働者派遣法はこれまで複数回の改正が行われています。
かつては規制緩和が目的でしたが、近年は派遣労働者の保護=規制強化となり、改正の目的が異なります。
労働者派遣法は改正が多く、内容も複雑ですが、適正な派遣事業運営や派遣労働者保護のためには必要不可欠な法律です。
しっかりと内容を把握し、適切に対応していきましょう。
※本記事の記載内容は、2023年6月現在の法令・情報等に基づいています。
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