専門性の高い職種でも無給……ボランティアはタダ働き?
19.01.10 | ビジネス【労働法】
【相談内容】
2020年の東京オリンピック・パラリンピックに向けて募集が呼びかけられた『ボランティア』について、世間ではさまざまな議論がなされているようです。
その中でもよく耳にするのは、「実際は、タダ働き(無償労働)ではないのか」という意見。
そもそもボランティアというのは、労働とどのような点で異なるのでしょうか?
【結論】
『ボランティア』という言葉には本来、無償という意味はありません。
ボランティアと労働の違いは、報酬の有無ではなく、自発的な意思や強制性の有無にあります。
そのため、主催者の指揮監督のもとに仕事をし、主催者からの指示や命令を断れない状況で働くのであれば、労働者ではないという解釈はむずかしくなります。
ボランティアスタッフを労働者とみなせば、主催者は賃金や労災保険、雇用保険の法令順守が必要になります。
『ボランティア=無償で働くこと』ではない
2018年12月26日、公益財団法人東京オリンピック・パラリンピック競技大会組織委員会は、大会ボランティアの応募者が、12月21日17時締め切りの時点で18万6,101人になったことを発表しました。
応募者には2019年2月から説明会や面談、研修などが始まり、2020年3月には活動の場所や役割が決まる予定です。
実際の大会運営でさまざまな実務に従事するボランティアスタッフには、競技施設建設の進行状況や開催費用などの話題に並んで、改めて注目が集まっています。
特に物議をかもしているのが、報酬にまつわる話題。
当初、組織委員会は、ボランティアスタッフは無報酬であることに加えて、大会前の研修や活動期間中の交通・宿泊費も完全自己負担としていましたが、批判の声が集まったことから、活動1日あたり1,000円のプリペイドカード支給に方針を変更しました。
次いで、外国語や手話の通訳、スポーツドクターなどの医療スタッフに無報酬で依頼が行われていることを、当事者たちがSNSで暴露。
「せめて専門性の高い職種にだけでも、相応の対価を支払えないのか」と騒ぎになりました。
さらに1964年の東京大会では、ボランティアスタッフにきちんと報酬が支払われていたことも明らかになり、議論が収束する気配はいまだにありません。
ところでこの『ボランティア』とは、もともと『有志』『志願兵』といった意味を持った言葉であり、無償で働くことではなく『自発的に申し出て役務に従事すること』を指します。
日本で『ボランティア』というと、無報酬で行うものという印象が強いのですが、この言葉の本来の意味には『無報酬』という概念はなく、仕事に従事してその報酬を受ける『有償ボランティア』も存在します。
もっとも、ボランティアとしての仕事を提供する側と受ける側との関係は、はっきりとは定義されていません。
ボランティアの参加を募り、希望者に一定の仕事を提供してもらう場合は、民法上の『請負』や『委託』の一形態と考えることができるでしょう。
請負や委託の報酬額は原則として契約によって定められることとなり、無償というケースもあり得ます。
しかしその仕事が、仕事の提供先である主催者の指揮監督を受けて行われる場合、労働者であると認められる可能性が出てきます。
自由に離脱できないならば
労働に近くなる
たとえば、会社が地域貢献のため、勤務中の全社員に街の清掃活動のボランティアに参加することを命じた場合、それが実質的に強制であれば、その清掃活動を行った時間は労働時間であり、賃金を支払わなければ労働基準法24条に違反することとなります。
通常の業務に従事した時間と合わせて1日8時間を超えたり、活動が午後10時から翌朝5時までの時間帯に及べば、同法37条所定の割増賃金を支払う義務が生じます。
また、時給に換算してその活動の提供地における最低賃金を下回らないことも必要になります。
現時点では、オリンピック・パラリンピックのボランティアスタッフは、一部の管理的な役割を担う者以外は、通訳や医療スタッフといった専門性の高い職種も含め、原則無償とする方針のようです。
しかし、他者の指揮監督のもとに役務を提供するのであれば、提供する側が指揮監督をする者の指示や命令を一切断れないとすると、「ボランティアは労働者ではない」と解釈するのは、むずかしくなる可能性があります。
スタッフが労働者なら賃金などの法令順守のみならず、主催者はスタッフの役務遂行に対して安全配慮義務を負い、労災保険の成立や雇用保険加入の手続きなども必要になります。
運営上、自主的な参加や離脱の自由が認められる余地の少ない重要な役務などについては、ボランティアではなく雇用の形を取るのが妥当かもしれません。
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