「歯科訪問診療」は「訪問治療」ではない
14.08.10 | 業種別【歯科医業】
私は介護保険制度施行前から、
歯科訪問診療の同行取材を続けてきました。
ここ10年の間に見られた大きな変化と言えば、
歯や入れ歯、クラウンなどの歯冠修復物などを
削る回転切削器具を使用する頻度が極度に
減ったということです。
歯科業界誌編集長の手記
80歳になっても20本以上の歯を持とうという
「8020運動」は、当初の予測を超えて実績が進み、
今や80歳以上の人の40%以上が
20本以上の歯のある状態になってきました。
その中には、歯肉が下がって脆弱なセメント質が露出し、
根面う蝕という状態になっているケースや、
歯周病になっているケースも多いのですが、
あまり歯を削ることがなくなっています。
また、高齢者の欠損自体も減ってきているので、
入れ歯を作ったり、調整したりという処置も
今後はやはり低下していくものだと考えられます。
1990年台の歯科訪問診療では、逆に、
歯を削る機械が必須だと考えられており、
どの訪問チームも数百万円ものお金を投資して
ポータブルユニットを導入していました。
外来で使う機械よりもコンパクト化されている分、
やはり性能面で限界があるのも事実ですし、
高血圧、心房細動など循環動態に異常のある
高齢者相手に、何のモニターもせず、
局所麻酔下での観血的処置を行うのはハイリスクです。
このような「訪問治療」が必要な場合ももちろんあるのですが、
現在、ある訪問チームでは、むし歯治療、抜歯などを訪問診療で行うのは、
6件の訪問診療で1回あるかないかとなったとのことです。
では、何をするのか。
現場にもよりますが、基本的には医学的管理が主体となります。
残った歯を機能させ、生活の質(QOL)を維持するための機能訓練、
クリーニング、食生活への指導などです。
食事前に眠っている高齢者がいれば、下顎をマッサージして覚醒を促します。
そうしないと誤嚥してしまう危険があるからです。
さらに唾液腺のマッサージによって口腔機能の維持を図ります。
これまでの「歯医者」のイメージとはかけ離れた仕事をしている
歯科医師が増えてきているのです。
訪問先では、機械を用いた診療をあまりしなくなっています。
歯科訪問診療の変化は、そのまま歯科医療全体の役割も変えようとしているようです。
【記事提供元】
月刊アポロニア21(日本歯科新聞社)
編集長:水谷惟紗久
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