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高齢者となった親に運転免許の自主返納を促すには

23.01.23 | ビジネス【法律豆知識】

運転に不安を覚え、運転免許証を自主返納する高齢ドライバーが増えてきています。
運転免許証の自主返納は、道路交通法の改正によって1998年4月から導入されました。
しかし、法的には返納を強制することはできず、あくまで返納は本人の意志によって行われるとされています。
一方で、「車がないと不便」といった理由から返納に踏み切れない高齢者も多くおり、その家族にとっても、悩ましい問題となっています。
今回は、高齢ドライバーによる事故の状況と、家族が自主返納を促す際のポイントなどを解説します。

高齢者による免許の自主返納が増えつつある

警察庁が公表している『原付以上運転者(第1当事者)の年齢層別免許保有者10万人当たり交通事故件数の推移』によれば、2021年中の70~74歳による事故は336.0件、75~79歳は390.7件、80~84歳は429.8件、そして85歳以上による事故は524.4件でした。
年齢を重ねるほど事故率も上昇しており、75歳以上の高齢ドライバーによる操作ミスを起因とする交通事故の割合は、一般ドライバーの約2倍といわれています。

高齢者による自動車事故を防ぐことを目的に、2017年には75歳以上のドライバーに対して、運転免許証更新時の認知機能検査が義務づけられました
検査によって「認知症のおそれがある」と判断されたドライバーは、臨時適性検査の受診が定められています。
この検査で認知症のおそれがあるとされると、医師の診断書の提出が求められ、認知症の診断書が提出された場合は、運転免許の更新が拒否されることになります

免許証の自主返納数は、2019年に約60万人を突破し、そのなかでも75歳以上の返納数は35万人以上でした。
一方、2020年の自主返納数は約55万2,000件、2021年は約51万7,000件と、直近では減少傾向にあります。
これは、コロナ禍によって、密を避けることのできる移動手段として、車が選ばれているためともいわれています。

運転免許証の自主返納が開始されたのは、道路交通法が改正された1998年です。
2012年には、免許証の代わりに身分証明書として使える『運転経歴証明書』の有効期限が無期限となるなど、自主返納しやすい環境が整えられてきました。
この頃から比較すると、返納数は着実に増加しており、当事者である高齢者の理解も進んできたといえます。


高齢の親に自主返納を促すためのポイント

高齢の親を持つ人のなかには、高齢者の交通事故のニュースを見るたびに、事故を起こす前に免許を自主返納してもらいたいと考えている人も多いのではないでしょうか。

認知症であるか否かにかかわらず、ウインカーの出し間違いや、歩行者への注意不足が頻発するなど、運転中に「何かおかしいな」と感じるようになったら、免許証の自主返納を考えるタイミングといえます。
しかし、親の立場になってみれば、子どもから自主返納を迫られることは、あまり気分のよいものではないのかもしれません。
親に自主返納を促すのは難しいことですが、感謝と事実を伝えることはポイントの一つです。
まずこれまで運転してくれたことに感謝し、苦労をねぎらいながら、高齢者の自主返納数が増加していることを伝えましょう。
年齢別の自主返納数など、具体的なデータを知ってもらうことで、より自分のこととして考えてくれるかもしれません。

認知機能のチェックを行うこともよい方法です。
親が自身の判断能力を客観視した結果、免許の自主返納につながるケースもあります。
たとえば、東京都福祉保健局のサイトでは、自宅にいながら認知症かどうかを確認できる簡易的なセルフチェックを公開しています。
親に試してもらうのもよいかもしれません。

さらに、免許を自主返納することのメリットを伝えることも効果的です。
前述したように、免許を返納すると、免許証に代わる公的な本人確認書類として永年使用できる運転経歴証明書が交付されます。
ちなみに、免許の返納自体は無料ですが、この運転履歴証明書の申請には交付手数料がかかります。

自主返納手続きは各都道府県の運転免許センターなどのほか、比較的身近な警察署でも行うことができると伝えることも自主返納の心理的ハードルを下げる効果があります。
さらに、自治体や事業者によって異なりますが、運転経歴証明書を提示すると、バスやタクシーの運賃割引や商品券の贈呈、飲食店や美術館の割引などの特典を受けられるといったメリットもあります。

住んでいる場所や仕事などの関係で車が手放せない場合は、家族が送り迎えをしたり、バスやタクシーを利用したりといった代替手段を当事者と一緒に考え、確立してあげることも、自主返納を後押しすることになります。
大切なのは、本人が納得したうえで自主返納することです。
まずは家族でしっかりと話し合ってみましょう。


※本記事の記載内容は、2023年1月現在の法令・情報等に基づいています。

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