食品ロスを防ぎ、お客の満足度もあげる「食べ残しの持ち帰り」
23.09.05 | 業種別【飲食業】
食品ロスを防ぐための取り組みとして、食べ残しの持ち帰りを推進する飲食店が増えています。
お客にとっては食べきれなかった料理を持ち帰ることができ、店にとっても廃棄処理の手間が省けるといったメリットがあります。
これはSDGs(持続可能な開発目標)の観点からも、とても意義深いことです。
一方で、食べ残しの持ち帰りには店側もリスクを伴います。
もし、持ち帰りによって食中毒が発生したら、場合によっては店側の責任が問われるおそれがあるからです。
食べ残しの持ち帰りについて、店側が取り組んでおきたいことを説明します。
食品ロスの削減と食中毒のリスク
国際連合食糧農業機関の調査によると、世界では、食料生産量の3分の1にあたる約13億トンの食料が毎年廃棄されています。
このような、まだ食べられる食料が廃棄されることを『食品ロス』や『フードロス』といいます。
農林水産省と環境省による『令和3年度推計』では、日本でも年間523万トンの食品ロスが発生しており、事業系食品ロス279万トンのうち29%にあたる約80万トンが、外食産業による食品ロスとなっています。
こうした現状を背景に、家庭内はもちろん、外食産業でも食品ロスを減らすことが求められています。
食品ロスは人口増加に伴う食糧不足を招くだけではなく、ごみ処理に対するコスト増や、CO2排出や焼却後の灰の埋め立てなどによる環境悪化を引き起こします。
世界的な課題として各国が問題意識を持って食品ロスの削減に取り組むなか、日本でも2019年に『食品ロスの削減の推進に関する法律』、通称『食品ロス削減推進法』が施行され、食品ロスの削減を総合的に推進してきました。
そして、現在では多くの企業が食品ロスの削減に取り組んでおり、食べ残しの持ち帰りの推進として、お客の求めに応じて持ち帰り用の容器を提供している外食大手も増えてきました。
しかし、常温でしばらく置かれた料理は、お客に提供した直後と比べると、食中毒のリスクが高まります。
夏季や梅雨の時期などはもちろん、冬季であっても食中毒のリスクはあります。
食品衛生法では、店側にもお客側にも食べ残しの持ち帰りを禁止するような規定はありませんが、もし持ち帰った料理でお客が食中毒を起こすと、食品衛生法第6条の「人の健康を損なうおそれがある食品の販売等を禁じる」という規定に抵触する可能性があります。
特に、店側が食中毒のリスクなどをお客側に説明していなかった場合は、店側の過失として、損害賠償責任を問われることもあるのです。
衛生管理の徹底とお客への注意喚起が重要
お客が食べ残しの持ち帰りを行うのであれば、店側は衛生管理を徹底する必要があります。
まず、持ち帰りができるのは十分に加熱された食品だけに限り、刺身やサラダなど、未加熱の生ものや半生など加熱が不十分なものは、お客から要望があっても応じないようにしましょう。
細菌の種類にもよりますが、多くの菌は20℃~50℃の温度で増えやすくなります。
また、水分も菌が繁殖する大きな要因です。
持ち帰ってもらう料理はよく水気を切り、食品が早く冷えるように浅い容器に小分けにします。
外気温が高い時期は、保冷剤の提供や持ち帰りの一時休止を検討しましょう。
提供する持ち帰り用の容器や箸なども、清潔なものでなくてはいけません。
なにより重要なのは、食べ残しの持ち帰りの希望客には、食中毒のリスクなど衛生上の注意事項を十分に説明し、持ち帰りはあくまで自己責任の範囲として納得してもらうことです。
長野県が実施している「食べ残しを減らそう県民運動」では、以下のような注意喚起の例を示しています。
・料理のお持ち帰りは、お客様の責任においてお願いします。
・早めにお召し上がりください。
・暖かいところに置かないようお願いします。
・生もののお持ち帰りはご遠慮ください。
・再加熱してお召し上がりください。
このような内容の案内を席ごとに置いたり、持ち帰り容器に添えたりするなどして、徹底した注意喚起を行うことが大切です。
また、食べ残しの持ち帰りのほかにも、料理を食べきってもらうために提供タイミングの工夫や客層に応じた対応なども並行して実施していきましょう。
お客自身が食べる量を調整できるように、小盛りや小分けのメニューを用意することも効果的です。
料理の量を理解せず注文していそうなお客には、その人数に適した量かどうかなど、注文確認時に声かけするのもよいでしょう。
廃棄処理にかかるコストや処理の手間、食べきれなかったお客側の満足度などから考えても、食べ残しは店にとってデメリットでしかありません。
さまざまな工夫を講じて、食べ残しを減らしていきましょう。
※本記事の記載内容は、2023年9月現在の法令・情報等に基づいています。
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