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なぜ労働時間は短縮されないのか?

15.07.10 | ビジネス【人的資源】

日本は太平洋戦争の前、モノを輸出するごとに、低賃金・長労働時間でダンピングしていると外国から非難されました。今は、有数の高賃金国になりましたが、不思議なことに労働時間は結構長いようです。パートも増えていて、労働時間を比べるのは難しくなりました。 

仕事と生活のバランスも大切です。仕事も、単純なモノツクリやデスクワークが減りました。つまり現代は、労働時間という単純な尺度があまり役に立たなくなったのです。ですから、「労働時間問題とは」というような一般論は言えなくなっています。

<労働時間を考えるときに忘れてはならない通勤時間>
日本は広いですから、大都市と地方都市では事情が違います。東京のような大都市を考えてみましょう。職場は都心にあって住居は郊外にあるとします。通勤は、1時間以上も混んだ乗り物に乗らなければなりません。その上住居はおおむね、電車の駅の近くにはないでしょう。1日のうち、職場にいるのが8時間だとしても、通勤に2時間も3時間もかけねばなりません。 

すると、同じ通勤時間をかけるなら、労働時間を長くして残業手当を稼いだほうがいいと思うでしょう。一方、女性は家事に時間をかけるため、通勤時間が短い職場かパート勤務を望むようになりました。 

このような遠距離の職住という関係は、なぜできたのでしょう。私は、戦後の持家政策だと思います。労働者の資産形成にもなるというので、労働組合も応援しました。その結果、賃貸住宅が増えず、不動産市場が発展しなかったのです。

人々は、住宅を持ったら一生モノだということで、大都市では遠距離通勤をものともせずここまで来ました。妻が育児や介護のために正規雇用からはみ出したのもこのためで、終身雇用に支えられた夫が、その代わり長時間労働をしているのです。 

<それでも残業時間を減らすために> 
奇妙なことに、企業は音頭をとって残業時間を減らそうとしています。必ずしも長時間、会社にいてもらいたくないのでしょう。能率が悪く見えるという体裁もあります。そのために「ノー残業デー」を設けたり、ある時間が来ると冷暖房を切ったり、知恵を絞りますが、利口な従業員はタイムカード上は退出して、また職場に戻ります。そして今や窮余の一策で、早朝出勤・定時退社を政府も勧めています。 

現代では、仕事の中身が変化しています。一言で言えば、「時間で計れない」「時間で区切りがつかない」「必ずしも職場にいなくてもいい」というようにです。ですから、時間を問題にするより、仕事の管理方法や報酬体系を考え直すときではないでしょうか。 


企業成長のための人的資源熟考 


[プロフィール] 
佐野 陽子(さの・ようこ) 
慶應義塾大学名誉教授。1972年慶應義塾大学商学部教授。87年から2年間、日本労務学会代表理事。89年から2年間、慶應義塾大学商学部長・大学院商学研究科委員長。96年東京国際大学商学部教授。2001年から4年間、嘉悦大学学長・経営経済学部教授。主な著書:『はじめての人的資源マネジメント』『企業内労働市場』(ともに有斐閣)。 


[記事提供] 

(運営:株式会社アックスコンサルティング)

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