大阪プライム法律事務所

大阪プライム法律事務所

強制わいせつ罪の判例変更へ 「性的意図」は不要か

17.11.04 | ニュース六法

昨年、ある強制わいせつ事件で、大阪高裁で言い渡された有罪判決に対して、最高裁で審理がされていますが、審理が大法廷に回付され、平成29年10月18日に当事者双方の意見を聞く弁論が開かれました。年内にも判決が言い渡される見込みですが、どうやら、昭和45年に出されていた最高裁判例が変更されると思われます。 

論点は、強制わいせつ罪の成立において、「性的意図」を必要としてきた過去の最高裁判例に対して、それを必要としないとするかどうかです。どういうことでしょうか。

■過去の最高裁判例ならどうなるか
今回、最高裁で審理をされている事件の被告は、金を得る目的で児童ポルノを撮影したことが強制わいせつ罪として問われた男性です。13歳未満の女児の体を触っている様子を携帯電話で撮影するなどしたとして、児童買春・ポルノ禁止法違反罪や強制わいせつ罪に問われています。この男性は「知人から金を借りる条件として、女児とのわいせつ行為を撮影したデータを送るよう要求された」と説明し、弁護側は性的意図はなく、強制わいせつ罪は成立しないと主張していました。

1、2審判決は被告の主張する事実を大筋で認めつつ、「性的意図を必要とする過去の最高裁判例は相当ではない」として、客観的に被害者の性的自由を侵害する行為がされ、犯人がその旨を認識していたら、仮に性的意図が認められないにしても、強制わいせつ罪が成立するとして有罪を言い渡しました。

この場合、過去の最高裁判例を前提にすると、強制わいせつ罪は成立せず、強要罪や脅迫罪などの別の罪に問われることとなります。 

■過去の最高裁判例とは
昭和45年1月29日に最高裁で言い渡された判決です。この事案は、被告人が、その内妻A女が、被害者B女の手引で逃げたものと信じ、これを詰問すべくB女を呼び出し、A女と一緒にB女に対し、「よくも俺を騙したな・・・あんたに仕返しに来た。硫酸もある。お前の顔に硫酸をかければ醜くなる。」と申し向けるなどして、約2時間にわたりB女を脅迫し、同女の裸体写真を撮つてその仕返しをしようと考え、畏怖している同女をして裸体にさせてこれを写真撮影したという事案でした。つまり、もっぱら報復または侮辱・虐待のために脅迫して裸にさせた行為が強制わいせつ罪となるかというものでした。

このときの最高裁判所は、強制わいせつ罪が成立するためには、その行為が犯人の性欲を刺激興奮させまたは満足させるという性的意図のもとに行なわれることを要し、婦女を脅迫し裸にして、その立っているところを撮影する行為であっても、これがもっぱらその婦女に報復し、または、これを侮辱し虐待する目的に出たときは、強制わいせつ罪は成立しないとしたものでした(ただし、実際に性的目的がなかったかどうかの審理を尽くさせるために、高裁に差し戻ししています)。 

■わいせつ目的不要として大丈夫か
今回の最高裁弁論では、弁護側は、「性的意図がなくても強制わいせつ罪が成立すると解釈すれば、医療行為や介護行為が処罰対象となってしまう。最高裁判例は維持されるべきだ」として、強制わいせつ罪の成立を認めた大阪高裁判決を破棄するよう求めたと報道されています。 

■どう考えるべきか~被害者個人の保護からの視点
今回、最高裁で判例変更がされ、強制わいせつ罪において、被告人に性的目的がなくとも成立するとされそうです。これは、被害者個人の保護からの視点からすれば、その通りといえるかと思います。

この点については過去の昭和45年最高裁判決の際に、入江俊郎裁判官、長部謹吾裁判官の反対意見が、的確に説明をしていました。

その反対意見では、「この罪が、親告罪とされて、訴追にあたって被害者の意思が尊重されているのは、性的しゅう恥心ないし性的清浄性が、各個人にとつて、精神的にも肉体的にも極めて重要な性的自由に属する事柄であり、個人のプライヴアシーと密接な関係をもっているものであることに鑑み、法が特にこのような個人の性的自由を保護法益としたからにほかならないものと考えられる」とし、また、「このような個人のプライヴアシーに属する性的自由を保護し尊重することは、まさに憲法13条の法意に適合する所以であり、現時の世相下においては、殊にこれら刑法法条の重要性が認識されなければならないのであって、これら法条の解釈にあたっては、個人をその性的自由の侵害から守り、その性的自由の保護が充分全うされるよう、配慮されなければならない。」としました。その上で、「行為者(犯人)がいかなる目的・意図で行為に出たか、行為者自身の性欲をいたずらに興奮または刺激させたか否か、行為者自身または第三者の性的しゅう恥心を害したか否かは、何ら結論に影響を及ぼすものではないと解すべきである。」として、多数意見を批判していました。

ただ、弁護側が主張している、医療行為や介護行為とのすみわけをどのように考えていくかについて、今回、最高裁がどのように答えを出すかは気になるところです。

■追記(平成29年11月29日)
性的意図なくわいせつ行為を行った場合に強制わいせつ罪が成立するかが争われた事件の上告審判決で、最高裁大法廷(裁判長・寺田逸郎長官)は、29日、「性的意図を一律に同罪の成立要件とすることは相当でない」として、性的意図がなくても成立するとの判断を示しました。「必要」としていた昭和45年の最高裁判例を約半世紀ぶりに変更したものです。15裁判官全員一致の結論。最高裁大法廷が刑事事件の判例を変更するのは、平成15年に横領罪をめぐる判例を変更して以来でした。

TOPへ