大阪プライム法律事務所

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TOKIOメンバー事件と白雪姫物語について

18.05.01 | ニュース六法

4月25日、TOKIOのメンバーが、2月に自宅マンションで女子高校生に無理やりキスをするなどの行為をしたとして、警視庁が強制わいせつの疑いで書類送検したことが報じられ大きな騒ぎになりました。女子高校生とは仕事を通じて知り合い、部屋に入ると酒を飲むように勧めたとのことです。本人は事情聴取では事実関係を大筋で認めているということで、所属事務所と被害者側が話し合った結果、被害届を取り下げる手続きを行ったということです。今回の件で、キスだけでも強制わいせつ罪が成立するのかと聞かれることがありました。
事実とすれば大変にけしからぬ行為ですが、もし、それが成立するならば、童話の白雪姫に王子様がキスをして目覚めさせた行為はどうなるのでしょうか。

■強制わいせつ罪
強制わいせつ罪は、刑法で以下のように規定されています。

第176条 13歳以上の者に対し、暴行又は脅迫を用いてわいせつな行為をした者は、6月以上10年以下の懲役に処する。13歳未満の者に対し、わいせつな行為をした者も、同様とする。

基本形は、暴行脅迫を用いて「わいせつ行為」をすることです。すでに心神喪失や抗拒不能の状態にあること(泥酔や睡眠中など)に乗じたり、暴行・脅迫以外の方法で心神喪失や抗拒不能の状態にさせてわいせつ行為をした場合は、第178条にて「準強制わいせつ罪」として罪になります。 

また、相手が13歳未満の場合で、暴行脅迫がなくても「わいせつ行為」したこと自体でただちにこの罪に問われます。これは、13歳未満では同意の有無の判断自体が未熟でできないという前提で制度設計がされたものです。

 ■キスも該当するのか
キスも強制わいせつ罪となるのかは、それが「わいせつ行為」なのかどうかにかかります。写真にあるように、親が子供のほっぺたなどにキスをする行為や恋人同士がキスを交わす行為などは、これらには当たらないことは言うまでもありません。

ここで、「わいせつ」とは何かについては、「いたずらに性欲を興奮または刺激させ、かつ普通人の正常な性的羞恥心を害し、善良な性的道義観念に反するもの」とするのが、最高裁のなした定義です(最高裁判所昭和26年5月10日判決)。

この定義からすれば、強制わいせつ罪になるのは、被害者が性的な意味で恥ずかしいという不快な思いにさせられる行為をさすものとなり、胸や陰部を触る行為などの行為がその典型になります。この点、そういった行為は、痴漢として都道府県が定める迷惑防止条例違反になる場合があるのですが、迷惑防止条例(公衆に著しく迷惑をかける暴力的不良的行為等の防止に関する条例)は、衣服の上からなでる形での行為がこれに該当し、衣服の内部に手などを入れて行う行為が刑法の強制わいせつ罪になると一般に解されています。

そうした観点からして、キス(接吻)が強制わいせつにあたるかというと、当たる場合があるというのが正解となります。 

■判例から見るキス
強制わいせつ罪とされた事例として、最高裁判所第一小法廷昭和50年6月19日決定があり、以下のような判断を示しています。

「被告人は被害者とは顔見知りの間柄に過ぎず、夜間自己の運転する自動車に帰宅途上の同女を同乗させ人通りの少ない場所を運転進行中やにわに接吻したいとの欲望にかられ、車内で極力抵抗する同女の右手をつかみ、左肩を押えつけるなどした上、同女の口に接吻したもので、被害者が被告人から接吻されてもよいと認める態度に出たとか、被告人において同女の同意を得られる事情があつたとかいう事実は認められない場合、被告人の接吻行為は強制猥褻行為にあたる。」

また、高松高裁昭和33年2月24日判決では、「男女間における接吻は性欲と関連する場合が多く、時と場合即ちその時の当事者の意思感情や行動状況環境等により一般の風俗性的道徳感情に反し猥褻な行為と認められることがあり得る。人通りの少ない所や夜間暗所で通行中の若い婦女子にその同意を得られる事情もないのに強いて接吻を為すが如きは、親子兄妹或いは子供どうし等が肉親的愛情の発露や友情として為すような場合と異なり、性的満足を得る目的をもって為したるものと解せざるを得ず、かかる状況下になされる接吻は猥褻性を具有するに至るものといわなければならない。」としました(ただし、この事件では、不意に女性の両肩に抱きついて無理矢理にキスをしようとしたが大声を出されて未遂に終わったというもので、強制わいせつ未遂罪となっています)。

最近では、名古屋地方裁判所平成28年5月19日判決でも、心理学専攻の短大教授が、女子学生に対するカウンセリングを実施中、にわかに劣情を催し、同女が眠気により意識もうろうとして抗拒不能の状態にあることに乗じ、その口に接吻した行為について、準強制わいせつに当たるとして、懲役1年2月、3年間の執行猶予とした判決がされています。

これらから判断できるのは、当事者の関係、時間帯、場所、態様、周囲の状況、その際の雰囲気などの要素を総合的に考慮されて、当事者が自然とキスに至るような状況下でもないのに、強いてキスをした場合は、被害者が同意していなければ、強制わいせつ罪となります。ましてや、行為者が夜間に、泥酔していて性的欲求も高まる中で、敢えて密室において強引にキスをした場合には、立派な強制わいせつ行為となるということになります。

また、寝ていたり泥酔している相手に対して無理にキスした場合は、準強制わいせつとなります。 

これまでの人生を振り返って、あのときは大丈夫だったか、思い返して汗をかく方もおられるかもしれません。しかし、昔は被害者からの告訴がないと罪には問えなかったので、泣き寝入りが多かったとも言えます。 

■改正で非親告罪に
このように、かつて強制わいせつ罪は親告罪(告訴がないと起訴できない)だったのが、平成29年7月から刑法が改正され、強制性交罪などとともに非親告罪となりました。つまりは、告訴がなくても刑事起訴が可能となったのです。このため、今回の山口事件でも、被害届け出が取り下げられても、書類送検とされたのはそのためと言えます。 

■処分の方向性について
今回のケースがどうなるかというと、報道されている限りでの情報を前提にする限りでは、起訴猶予となって起訴されることなく終了するのではないかと思われます。大きな要因は、被害者側が被害届を取り下げていることと、その前提として被害弁償などの解決があったようにも報じられているからです(報じられている以外の事実があった場合は別ですが)。また、多くの番組やCMからの降板、自粛などの大きな社会的制裁を受けていることも重要な判断要素となります。強制わいせつ罪には罰金刑が無いので略式手続にはなりません。 

■「白雪姫」と王子様問題
さて、昨年、童話の白雪姫の物語の中で、永い眠りに入っていた白雪姫が、素敵な王子さまにキスされて目覚める場面について、これは「準強制わいせつ罪にあたるのではないか」と問題提起をしたジェンダー論を専門とする大阪大学教授のツイートが話題を呼んだことがあります。この問題と今回のTOKIOメンバー事件とを同じ目でみることなどは到底考えてはいませんが、その差異について考えてみる必要もあろうかと思います。

その教授は、「冷静に考えると、意識のない相手に性的行為をする準強制わいせつ罪です」「『そんなの夢が無い』との反応あるかと思いますが、逆にこんなおとぎ話が性暴力を許している、との認識に至っていただきたいものです」という持論を展開しました。

つまりは、王子さまは、意識不明の白雪姫の姿をみて、その魅力に負けて、その口に接吻し、もって人の抗拒不能に乗じてわいせつな行為をしたというわけです。先ほどからの議論を前提にすると、まさに強制わいせつ罪に問われてもおかしくはありません。

この王子さまと白雪姫は、その後に愛し合って結婚したというストーリーからは、罪に問うようなことでないという結論になるのでしょうが、問題提起をされた教授は、結局は最後に愛し合えばいいのだというのは、男性側の勝手な有利解釈であって、それが性暴力を許す土壌になっているということだと思います。 

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