大阪プライム法律事務所

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裁判官はツイッターが許されない?

18.09.08 | ニュース六法

ある女性が公園に放置されていた犬を発見して保護したが、約3ヶ月してから元の飼い主から返還を求められた訴訟がありました。そのような無責任な元飼い主には犬は返せないとし、「元の飼い主は公園に放置した時点で犬の所有権を放棄した」として裁判で争いましたが、東京高裁は返還すべきという判決をしました。

これについて、飼育放棄をした者へ戻せとするのはおかしいのではないか、という意見がネットを騒がしました。これについて、ある裁判官が、自身のツイッターで、この高裁判決への疑問を発信したことについて、裁判官の懲戒処分手続きにあたる「分限裁判」にかけられ、本人の意見を聞く「審問手続き」が近々行われることとなりました。裁判官はツイッターを自由に発信してはいけないのでしょうか。

■ツイッターの元になった事件とは
原告となった女性(A)さんは、犬(ゴールデンレトリバー)を飼っていたが、犬嫌いの同棲男が、ある日、犬のリードを公園内の柵に結びつけて放置しAさんもその事実を知ったが、男から怒られるのを恐れてそのままにしていました。翌朝、被告となった女性(B)さんが公園で犬を発見し、連絡先を記載した紙を残して犬を連れ帰って保護し、1週間経っても飼い主から連絡がないため警察署に拾得届を出しました。犬がBさんのもとにいることを知ったAさんは、男と相談するも反対されたためそのままにしました。Aさんは男との関係を解消し、3か月間の遺失届の提出期限ぎりぎりになって警察にようやく遺失届を出して、Bさんに犬の引渡要求をしましたが、Bさんが返還を拒んだため、裁判となりました。

原告Aさんは所有権を根拠にして引渡請求をしたのに対し、Bさんは、Aさんが約3ヶ月間も放置していたことから、犬の所有権を放棄していたとして争いました。

東京地裁、東京高裁とも、Aさんは飼い主としての非難を免れないとしつつも、もともとは同棲男が遺棄したものという背景事情からして、Aさんの所有権放棄を認めずAさんの引渡請求を認め、Bさんに対して犬をAさんに引き渡すよう命じました。

■岡口裁判官のツイッター
岡口基一裁判官(東京高裁判事)は、その高裁判決結果を知って、私的なツイッター上でコメントを投稿しましたが、これが問題を引き起こしました。

岡口裁判官は、この裁判を取り上げたネット上の記事をリンクしながら、「公園に放置された犬を保護したら、元の飼い主が名乗り出て『返して下さい』 え?あなた?この犬を捨てたんでしょ?3か月も放置しながら…… 裁判の結果は……」と投稿したのでした。

この内容は、原告となったAさん側を非難する内容であったために、怒ったAさんが東京高裁に文句を言ったのでした。それでそのことを知った東京高裁長官が、裁判所法49条所定の懲戒事由(裁判官としての「品位を辱める行状」)に当るとして、裁判官分限法6条に基づいて、最高裁に対し岡口裁判官の懲戒を申し立てました。

■岡口裁判官のこれまでのツイッター騒動
現職の裁判官で、実名を出してツイッターで発信している人は極めて珍しいことです。
ところが、岡口裁判官は、これまでも司法関連のニュースなどを中心に、さまざまな事柄を積極的に投稿してきました。中には「何だ、これは?」というようなものもあって、時々騒ぎも起こしていました。

例えば、自分自身と思われる下着姿の写真や、縄で縛られた男性の上半身裸の画像に「これからも、エロエロツイートとか頑張るね」などの投稿をして、裁判所から幾度も指導を受けていたもののこれに従わず、東京高裁長官から口頭で厳重注意を受けていました。

昨年には、女子高生殺人事件の判決について、「首を絞められて苦しむ女性の姿に性的興奮を覚える性癖を持った男 そんな男に無惨にも殺されてしまった17歳の女性」などと判決文へのリンクと共に投稿したことで、被害者の両親が「被害者の尊厳への配慮が全くなく、ちゃかしていると感じる書き込みで、強い憤りを覚える」と抗議し、岡口に処分を求める要望書を東京高裁に提出したことから、東京高裁は、裁判官として投稿した内容が不適切だったとして内規に基づく厳重注意処分としました。

そこで生じた今回のツイッターについて、ついに、正式な懲戒手続きに進んだ形となったものでした。

 ■分限裁判とは
分限裁判とは、裁判官の免職と懲戒を決定するために開かれる裁判のことを言い、裁判官分限法によって規定されています。

心身の故障または本人の希望により免職を決定する場合や、裁判官としてふさわしくない行為をしたなどの場合に開かれます。ただし、本来は何者にも影響されることなく、公正な裁判を行うべき裁判官の身分は手厚く保障されていますから、戒告または1万円以下の過料しかありません。地裁、家裁、簡裁の裁判官の場合は高等裁判所において5人の裁判官による合議体で審判が行われ、高等裁判所の裁判官については最高裁判所の大法廷で開かれます。今回の岡口裁判官は高裁判事のため、15名の最高裁判事による最高裁大法廷で審理されます。

■裁判官の表現の自由との関連
岡口裁判官は、当事者が怒っているのなら申し訳なかったと、高裁長官に答えたようですが、ツイッターをやめるように求められたのは「表現の自由の侵害だ」として、分限裁判に対しては争う方針のようです。司法修習同期の弁護士たちが弁護団を組んでいます。

裁判官も一人の人間として、憲法が定める表現の自由(21条1項)は保障されています。したがって、基本的にはその自由は尊重されなければなりません。単に裁判官世界で気にくわないからと言って、軽々と排除されてはならないことも事実です。

裁判官の懲戒事由は、裁判所法第49条で定めていて、「職務上の義務違反」、「職務上の義務懈怠」、「品位を辱める行状」の三つです。今回のツイッター内容は、純然たる私的な行為ですから、三番目の「(裁判官としての)品位を辱める行状」にあたるかどうかが問題になってきますが、基本的人権との兼ね合いでの難しい問題とも言えます。

日本の裁判官は、それでなくとも、昔から自らの私的な表現活動を押し殺し、欧米の裁判官が自由に市民と接触し意見を表明しあうのとは対局の世界に埋没する傾向にあります。それが本当にいいことなのか、常に疑問に感じることではあります。

この問題を単なる「品位」の問題にすり替えてしまい、裁判官の私的な表現活動を「排除」して、裁判官の基本的自由権たる表現の自由を不当に制限してしまうことがないように、最高裁判所の15名の裁判官にはしっかりと判断してもらいたいものです。最高裁での分限審理は11日にあります。

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