大阪プライム法律事務所

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映画「カメラを止めるな!」を止めろ?著作権侵害クレーム

18.10.07 | ニュース六法

映画『カメラを止めるな!』が話題になっています。まだ見てはいないのですが、聞くところでは、制作費300万円で、最初は2館だけでの公開で、無名の監督とキャストらによる映画だったが、評判が広まり、今では全国各地で公開され、興行収入はうなぎ上りに上がって、すでに10億円を超えているとのこと。このような無名の映画が大ヒットするなど、珍しいことです。
ところが、雑誌「FLASH」が、数年前に上演された舞台「GHOST IN THE BOX!」の演出家が、この映画を指して「(舞台の内容を)無断で真似された」と訴え、「原作」としてのクレジットを求めていると報じました。「カメラを止めるな!」が、著作権によって止められるのでしょうか?(上の写真は、映画『カメラを止めるな!』のポスター)

■結論を出すのは時期尚早
舞台の演出家からは、現時点で舞台の映像や脚本が公表されていないようです。映画と舞台の脚本が比較対照できない現時点では、周りで結論を出すのは早すぎます。ただ、どのような視点で考えたらいいかは、説明ができます。 

■アイデアは保護の対象ではない
今回問題になるのは、舞台の演出家が著作権法で保護されるかどうかですが、そこでのポイントは、あくまでその作品において具体的に現れている表現が侵害されたかどうかということです。表現の前提となっている「あらすじ」や人物設定などがそっくりというだけでは、単なる創作にあたってのアイデアにしかすぎません。特許法では、アイデアそのものが保護されますが、著作権法上では、アイデアではなく表現された内容だけが侵害対象となります。

ずいぶんと以前の裁判例ですが、かつて、NHK大河ドラマ「武蔵 MUSASHI」(2003年)に対して、黒澤明監督の相続人が、同監督の作品である映画「七人の侍」(1954年)の著作権を侵害しているとして、NHKと脚本家に対し損害賠償等を求める訴訟を起こしたことがあります。この大河ドラマの第1回目で、夜盗による襲撃シーンがあったのですが、それが「七人の侍」に類似している部分があったというのを理由にしたものでした。

これは、2004年の東京地裁では請求棄却、2005年の知的財産高等裁判所も一審を支持、最高裁も上告を棄却し、黒澤さん相続人側の敗訴が確定しました。知財高裁での判決では、両者の作品の類似点・共通点はあるも、いずれもアイデアの段階の類似点・共通点にすぎないとして、著作権侵害はないとされました。今回の問題も、この考え方が一つの参考になるかと思います。 

■クレジット表記を「原案」か「原作」とするか
この映画が公開された当初は、映画のクレジットに、劇団関係者の表示はなかったのですが、その後の配給拡大にあたって、劇団名と演出家の名前を出して「原案」「スペシャルサンクス」とクレジットされたそうです。しかし、演出家側はあくまで「原作」としての表記を要求しています。

実は、「原案」と「原作」は、どちらも法律用語ではありません。したがって法的な判断はしにくいのですが、実務の世界では、アイデアにとどまるものを「原案」、オリジナルとなっている著作物を「原作」と呼称するのが通常です。今回の演劇演出家にしてみれば、オリジナルである自作品での表現が真似されたのであって、単にアイデアだけが用いられたのではないと主張していることとなります。 

■著作権法では(「翻案」かどうかが問題)
既存の著作物に依拠し、かつ、その表現上の本質的な特徴の同一性を維持しつつ、具体的な表現形式を変更して新たな著作物を創作する行為を、著作権法では「翻案」と言います。
小説を映画化したり、外国語の童話を日本語に翻訳したり、漫画をゲーム化したり、楽曲を編曲したりして作られた作品は「二次的著作物」といいます。

この「二次的な創作」を行う場合には、翻案権者たる原作者からの許諾が必要です。本件では、『カメラを止めるな!』が『GHOST IN THE BOX!』の脚本の翻案といえるかどうかが問題となります。仮に翻案となると、脚本の著作権者に許諾を得ていたのかどうかが次の問題となってきます。

ただ、既存の著作物のアイデアを用いて新たな著作物を創造しただけならば「翻案権侵害」になりません。翻案となるのは、あくまで著作物となる表現部分の「表現上の本質的な特徴」の類似の場合だけで、アイデアが酷似していてもそれだけでは翻案にはならないのです。したがって、この両者の区別をどのようにして判断したらよいかが問題になります。

■翻案かどうかの判断基準(江差追分事件判決)
江差追分事件と呼ばれる最高裁判所判決があります(平成13年6月28日)。
この事件は、江差追分に関するノンフィクション「北の波濤に唄う」の著作者が、NHKのテレビドキュメンタリー番組のナレーションの一部に翻案権侵害があったとして訴えたものでした。1審と2審は侵害ありと認めましたが、最高裁判決では、結論として「翻案権侵害は無かった」と判断しています。そこでは以下の3点を「翻案」の判断基準としました。

① 作品Bが既存の作品Aに依拠していること
② 作品Bが作品Aの表現上の本質的な特徴の同一性を維持しつつ、具体的表現に修正、増減、変更等を加えて、新たに思想又は感情を創作的に表現したものであること
③ 作品Bに接する者が既存の作品Aの表現上の本質的な特徴を直接感得することのできること 

①については、「カメラを止めるな」の監督は、問題の演劇を実際に見ており、監督自身も「とある劇団のある芝居に影響を受けて」と答えていて、それが問題の演劇であることでは一致しているようなので、この点からは要件を満たすことになると思われます。
②については、依拠しつつも新たな創作物を作ることをいうので、少なくともこれにも合致しているものと思われます(これを満たさないのでは単なる「コピー作品」となります)。

③結局、この③の「表現上の特徴の同一性を直接感得できる」がポイントとなります。要は、基本的アイデアは似ている(原案にしたので当たり前)が、表現上の本質的特徴が似ているとは思えないということです。

これからしたら、やはり、本件で著作権侵害となるかどうか、「原作」との記載要求に応じなければならないかどうかは、実際に両作品(脚本)を詳細に比較したうえで判断しないと結論などは出せないことになります。実際にも、「武蔵 MUSASHI」事件でも、「江差追分」事件でも、裁判所はかなり詳細に表現内容を比較対照して判断をしています。

今回の件が訴訟となるのかどうかは分かりませんが、互いに話し合いをして円満な解決が図られてもいいのではないでしょうか。

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