大阪プライム法律事務所

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三種の神器の承継と贈与税

19.05.03 | ニュース六法

皇太子さまが2019年(令和元年)5月1日に新天皇に即位されました。
その際に行われた皇室典範第24条に根拠を置く「即位の礼」では、5つの儀式(剣璽等承継の儀、即位後朝見の儀、即位礼正殿の儀、祝賀御列の儀、饗宴の儀)が国事行為として行われました。その最初に行われた「剣璽等承継の儀(けんじとうしょうけいのぎ)」は、そこでは、歴代天皇に伝わる三種の神器のうち、「剣」と「璽」(じ=まがたま)、公務で使う天皇の印の「御璽」(ぎょじ)、国の印の「国璽」(こくじ)が新天皇に引き継がれましたが、これらはどのようなものなのでしょうか。法的な位置づけとともに解説しました。

■国事行為と「即位の礼」
国事行為というのは、日本国憲法第7条で、天皇が国民のために行うものとして規定されている行為で、憲法改正・法律・政令・条約の公布、国会の召集、衆議院の解散、国会議員の総選挙の施行の公示、栄典授与、外国の大使等の接受、儀式を行うことなど10種の行為があります。そして、これらはいずれも「内閣の助言と承認」が必要で、その責任は内閣が負うと規定されています(日本国憲法第3条)。即位の礼は、このうち「儀式を行うこと」にあたって、すべて内閣による助言と承認の下で実施されています。

5月1日に実施された剣璽等承継の儀と即位後朝見の儀は、直前であるその日の午前中に開かれた閣議でもって、それぞれ国事行為である国の儀式として宮中で行うことが決定されました。 

■三種の神器とは
三種の神器は、日本神話の中で、天孫降臨の際に天照大神が瓊瓊杵尊に授けたとされる、鏡・剣・璽の三種類の宝物を言い、「八咫鏡(やたのかがみ)」・「草那芸之大刀(くさなぎのつるぎ)」・「八尺瓊勾玉(やさかにのまがたま)」を指しています。神話の話ですから、いつ作られ、それが同一のままかどうなのかは分かりませんが、日本の歴代天皇によって継承されてきたとされています。

この三種の神器は、皇居に保管されているのは八尺瓊勾玉のみで、八咫の鏡は伊勢神宮内宮に、草薙剣は熱田神社に、それぞれ神体として保管されていて、皇居御所にはそのレプリカ(正しくは形代(かたしろ)(神霊が憑りつくものとして、儀式の時、本物に代わって使用されるもの))が保管されているそうです。ただ、その実物は、皇族はもとより天皇でさえも実際に見たことがないそうで、謎の多いものと言えます。今回の「剣璽等承継の儀」では、三種の神器のうち、「剣」と「璽」が引き継がれました。 

■政教分離との関係
日本国憲法では政教分離が定められています。このため、天照大神にまつわる三種の神器を天皇家の由緒あるものとして私的に代々受け継いでいくことはともかく、国事行為で用いることについて疑問視する声があります。この点については、ここで継承されるものは、皇室経済法第7条でいうところの「皇位とともに伝わるべき由緒ある物」として、宗教色はないものという解釈が政府ではなされています。 

■贈与税について
天皇家には私有財産があり、相続時には、一般国民と同じく相続税がかかります。昭和天皇が崩御された際には多額の相続税を納められました。三種の神器も私有財産ではありますが、上述のように皇室経済法において「皇位とともに伝わるべき由緒ある物」を相続税法上では非課税の対象とされています。したがって、天皇の崩御にともなって継承される際は、相続税はかかりません。

しかし、今回は、存命中の天皇が退位して引き継ぐ場合ですから、相続税の問題ではなく、贈与税になります。これについては、これまでそれに沿った法律上の規定がなかったために、このままでは贈与税がかかることになりかねないところでした。しかし、2017年6月に成立した天皇の退位等に関する皇室典範特例法の付則で、贈与税も非課税と定められました。 

■御璽・国璽とは
今回の「剣璽等承継の儀」では、「剣」「璽」と一緒に、公務で使う天皇の印の「御璽」、国の印の「国璽」も引き継がれました。剣璽等承継の儀でいう「等」はこの御璽・国璽を含めたものです。

御璽とは天皇の印で、国璽は国の印です。御璽は、天皇の署名がある詔書、法律・政令・条約の公布文、条約の批准書、大使・公使の信任状・同解任状、全権委任状、領事委任状、外国領事認可状、認証官の官記・同免官の辞令、四位以上の位記等に押印される印で、国璽は勲章の証書である勲記に使われる印です。これらも、三種の神器のうち剣璽2種とともに新天皇に継承されました。

ちなみに、「御名御璽(ぎょめいぎょじ)」という表現をよく耳にすることがあります。これは、法律などの公布文の最後に、天皇の署名(親署)がなされた上で、御璽が押されますが、これがなされていることを指すために用いる用語です。これを読み上げる際に、天皇の実名を読むことについて伝統的に不敬とされてきたことから、このように表記・読み上げがされるようになったようです。

(写真は、皇居二重橋と「御璽」)

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