大阪プライム法律事務所

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賭け麻雀のアウトとセーフ

20.05.30 | ニュース六法

定年延長で世の中を騒がせた黒川東京高検検事長が、文春砲であっけなく辞任に追い込まれてしまいました。産経新聞の記者宅で、産経記者2名と朝日新聞社員(元記者)と4人で、あろうことか賭けマージャンをしていたという記事で、本来は賭博罪を起訴する権限を持つ検察官としては誠にお粗末な結果としか言いようがありません。真面目にやっている大勢の後輩検察官も嘆いているものと思います。後輩検事たちはこんなことで萎縮せず、時の政府・権力者におもねることなく、毅然と検察業務を行って頂きたいと、同じ法曹として強く思います。
ところで、今回、黒川氏は辞職だけで留まりましたが、賭博罪には問われないのかと、いろんな方に聞かれました。賭けマージャンのアウトラインはどこにあるのでしょうか。

■【時事ドットコム2020年5月22日記事引用】
法務省の川原隆司刑事局長は22日の衆院法務委員会で、東京高検検事長を辞職した黒川弘務氏が参加したマージャンに関し、賭けレートは「点ピン」と呼ばれる1000点100円だったと明らかにした。野党共同会派の山尾志桜里氏への答弁。
川原氏は「もちろん許されるものではないが、社会の実情を見たところ必ずしも高額とは言えない」と説明。出席した委員らから「おかしい」とヤジが飛ぶと、川原氏は「処分の量定に当たっての評価だ」と強調した。黒川氏と賭けマージャンを行った朝日新聞社の男性社員を調査した同社によると、1回の勝ち負けは1人当たり数千~2万円程度だったという。 

■公式見解??
上記の時事ドットコムの記事は、法務省刑事局長の発言であるので、この記事が正しければ、法務省の公式見解が公表されたこととなります。言うまでもなく法務省は、刑法を所管する行政庁ですから、刑法の賭博罪に関する一定の行政側の解釈を示したことになります。ただし、この解釈を信用しても、実際に「点ピン」(千点100円のレートのこと)で捕まったとして、裁判官が無罪放免をしてくれるかというと、実はその保証はありません。裁判官は法律や過去の判例に拘束され、必ずしも行政が示した解釈には従う必要がないからです。ただし、検挙する側は、警察にせよ検察にせよ、行政官であることから、法務省の公式見解は無視できないでしょうし、捕まる側も、黒川検事長はおとがめなしで、なぜ私は捕まるのかと言うはずですから、影響は大きいかと思います。まさに、これからは「点ピン」のさらなる隠語として、「黒川セーフライン」「黒川レート」と呼ばれそうな感じがします。 

■賭けマージャンのレート
私は、学生時代にマージャンはしましたが、その後あまりしておらず、弱いこともあるので賭けたこともあまりありませんが(これは、賭けたことの自白になりますが、遥か前で時効ですのでご容赦を)、「点ピン」が千点100円のレートのことを言うのは何となく記憶していました。今回、改めて調べると、「点イチ」が1000点に対し10円、「点ゴ」が1000点に対し50円、「点リャンピン」が1000点に対し200円、「デカピン」が1000点に対し1000円となるレートで、さらには、「デカデカピン」というのもあるそうで、1000点に対し10000円となるレートにもなるようです。

「点リャンピン」になると、1時間で3万円程度は十分にお金が動く程度のレートと言われいますので、デカデカピンで大負けしたら、どんなことになるのでしょうか。 

■賭博とは
賭博罪は、刑法185条に規定があって、「賭博をした者は、50万円以下の罰金又は科料に処する。ただし、一時の娯楽に供する物を賭けたにとどまるときは、この限りでない。」としています。さらに、刑法186条には、「常習賭博罪」「賭博場開張等図利罪」という罪もあって、「常習として賭博をした者は、3年以下の懲役に処する。」「賭博場を開張し、又は博徒を結合して利益を図った者は、3月以上5年以下の懲役に処する。」と厳しい罪になっています。

ここでいう賭博とは、「偶然の勝敗により財物・財産上の利益の得喪(とくそう)を争うこと」と解されています。「今日のプロ野球の阪神巨人戦、どちらが勝つか賭けよう」「あのカップルがうまくいくかどうか賭けよう」というように、結果がどうなるか分からないことに対して、外れたものが当たった者にお金や物を差しだす行為がこれに当たります。

一緒にグリーンを回るゴルファー同士で、勝ち負けで賭ける「賭けゴルフ」はどうなの?と言いますと、ゴルフでも上手い人と下手な人が戦ったとしても、ハンディによっては必ずしも上手い人が勝つことが100%保証されたものでもないため、「偶然の勝敗」によって金銭を賭けたならば賭博にはあたります。10数年前になりますが、とある大手家電メーカーの社員が主催したゴルフコンペで、一口200円ずつ賭けた合計61人が書類送検されてしまったこともあり、要注意です。お金ではなく、参加者同士での商品券とか商品とかの形ならば一般的に問題にはなっていません。 

■有罪のラインとは
そこで本題の、どこまでがセーフかですが、そのラインは、裁判にかけられた場合の有罪ラインと、そもそも検挙されるかどうかというライン、会社などで咎められるライン、そもそも賭博とは言えないラインなど、いくつかハードルがあると考えてよいかと思います。

実は、裁判にかかると、過去の裁判例では、お金をかけると、「金額の多寡にかかわらず」すべからく有罪というのが流れになっています。それでは、無罪になるケースというと何かですが、刑法185条但し書きの「一時の娯楽に供する物を賭けたにとどまるとき」ということになります。通常は、昼ご飯をかけるとか、ビール一杯をおごるとかいう程度で、おおむね1000円前後までの感覚と言われています。金銭については性質上「一時の娯楽に供する物」にあたらないとされているので、現金なら1000円でも本来はアウトです。 

■蛭子さんのケース
今回、黒川氏は、今のところ刑事処分にならないような動きですが、かつて、マンガ家の蛭子能収さんが賭けマージャンで逮捕されたことが、今回の騒ぎで再び比較のために取り上げられています。蛭子さんが逮捕された際のセリフ「ギャンブルは2度とやらない!賭けてもいい」は名セリフでした。

この蛭子さんの場合は、「テンリャンピン」(1000点=200円)で打っていたということですから、黒川レートの2倍です。これからすると、黒川レートはセーフ、蛭子レートはアウトということになるでしょうか。

実は、実際には「点ゴ」「点ピン」「点リャンピン」程度であれば、あまり捕まるという事態はあまりありません。これ以上のレートで賭けていても多くは捕まらないのは、全部検挙していては警察も忙しくなりすぎだからです。蛭子さんのケースは、いかにも自身が賭けマージャンをしているかのようなマンガに書いていたからとも聞いてますので、目立ったらアウトと言えるのかもしれません。(目立たなければOKという意味ではありません。念のため。) 

■ラインが動いた?
ただ、私の記憶では、点ピン以上がひとつの摘発ラインとも聞き及んでいましたので、今回の黒川氏のケースで、このアウトラインの目盛りが点リャンピン側へと動いたと言われるようになるかもしれません。

これは、またしても、政府による恣意的な解釈変更になるのではないでしょうか。定年延長問題と並んで、少し気になるところです。まさか、政府が選別した公務員は点リャンピン、その他は点ピンがアウト、というような二重基準にはならないように願いたいものです。

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