大阪プライム法律事務所

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山林火災の責任とは

21.02.27 | ニュース六法

栃木県足利市の市街地に近い山林で、2月21日に山火事が発生し、その後大変なことになっています。地元消防のみならず、陸上自衛隊も出動して消火活動を続けていますが、下草などで燃え広がっていて、麓からの消火活動の他、ヘリコプターによる散水が中心になるも、プロペラの風がさらに火を広げかねないこともあって、なかなか鎮火せずに広がっていったようです。大勢の近隣の方々が避難されるなど、被害は広がっていきました。同じころには、群馬県や青海市のほうでも山林火災が相次いでいます。

これらの山火事の原因ですが、たばこの火の不始末ではないかとか、焚火が原因ではないかなどと言われていますが、はっきりとしていないようです。群馬県桐生市の山林火災では、近くに住む高齢男性が山林に隣接する空き地でドラム缶の中に杉の葉を入れて燃やしていたところ、周辺の下草に燃え移り、山林に燃え移ったとみられているようです。もし不始末で山火事を起こしてしまった場合、どのような責任を問われるのでしょうか。

■年間発生件数
林野庁のサイトによると、最近5年間(平成27年~令和元年)の平均でみると、1年間に約1.2千件も発生し、焼損面積は約7百ヘクタール、損害額は約3.6億円となっているということです。1日あたりにすると、全国で毎日約3件の山火事が発生し、約2ヘクタールの森林が燃え、1.0百万円の損害が生じていることになります。 

■刑事処分(森林法)
過失で家屋を焼失させてしまった場合は、刑法の失火罪という罪に問われますが、過失で他人の森林に山火事を発生させた場合は、森林法という法律(203条1項)で、50万円以下の罰金刑が定められています。また、同じように過失で自分の持っている森林を焼いた結果、公共の危険を生じさせた場合も、同じ重さの処罰規定(203条2項)が設けられています。 

■損害賠償(失火責任法)
山林に火災を生じさせて、他人の立木等やその他の財物に対して被害を与えた場合、それが重大な過失に基づいた場合のみ賠償を求められる場合があります。ここでのポイントは、賠償責任を負うのは「重過失」の場合に限られ、単なる「過失」の場合は賠償義務を負うことはありません。

このように、単なる過失だけの場合は、損害賠償責任を負わないと定めているのが、「失火責任法」という法律です。この法律は、建物火災も含めて適用されます。

通常、故意や過失で他人に損害を与えると、損害賠償責任が認められます(民法709条)。しかし、失火の場合は、失火責任法で、「重過失」がある場合にだけ責任が認められることにしています。これは、家屋等のみならず、森林火災にも適用がされています。

なぜ、責任を限定したかという言いますと、「日本の建物は木造建築が多いため、日常生活の中で火災を起こしてしまう危険が非常に大きく、一旦火災を発生させてしまって巨額の賠償負担を生じさせるのは酷過ぎるため、単なる過失で隣近所を隣焼させてしまっても賠償する義務を無くし、被害を受けた人はそれぞれが火災保険などで自己防御しなさい」という考え方にもとづいて失火責任法が作られたわけです。ただし、故意は当然として、重大な過失による失火の場合まで責任を免除することはできないものとなっています。

「重過失」というのは、昭和32年7月9日の最高裁判例で、「通常要求される程度の注意すらしないでも、極めて容易に結果を予見できたにもかかわらず、これを漫然と見すごしたような場合」という意味とされています。

■具体的にどういう場合がこの重過失になるか
栃木県の大火災は、原因がはっきりとしていないようですが、群馬県での火事は、近くに住む高齢男性が山林に隣接する空き地でドラム缶の中に杉の葉を入れて燃やしていたところ、周辺の下草が燃えて山林に燃え移ったということが言われています。仮にこれが事実だとしたら、これは重過失にあたるかどうかが問題になります。実際の判断は、個別的な事実関係によって決まっていきますが、過去の裁判例などが参考になってきます。 

■過去の例
昭和39年1月30日に言い渡された福岡高等裁判所宮崎支部判決が一つの参考事例になるかと思われます。

そのときの状況は次の通りでした。
その日、A氏は、山林の開墾作業に従事し、堀起した根株、枝などを5カ所で焼却していました。その場所は、地形からして西風が激しく、当時空気が乾燥し、枯れ切った雑草、雑木におおわれていて、周囲には大山林が連なり、一旦火災となれば甚大な損害を生ずることも明瞭な状況で、このことは地元民であるA氏も熟知していました。また、地元では、開墾時のこうした根株、枝などの焼却では、直径三尺、深さ一尺五寸位の穴を掘つて、その中でするよう指導もしていたのですが、A氏の方法は切り株などを円型に積み重ねただけで、極めて危険極りないものでした。またA氏は、帰宅に際して、当然に火を消すか、あるいは完全に覆土し、火が飛び散らないように注意すべきであるのに、周囲に乾燥した土をわずかばかりかぶせただけで、そのまま放置して下山しました。その結果、周囲の山林に火が燃え移って大火災となってしまったというものでした。裁判所は、この火災はA氏の重大なる過失に基くものであると認定し、A氏に損害賠償義務を認めました。

この事例は、誰が考えてもかなり過失の度合いが重くて、責任を問われても仕方がないと思えるケースだと思われますが、大気が乾燥してる今の時期はくれぐれも注意が必要です。

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