大阪プライム法律事務所

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宇和島の「麦みそ」騒動

22.11.06 | ニュース六法

先日、原材料に大豆を使わない宇和島地方特産の「麦みそ」について、愛媛県が、「みそ」という表現を改めるようメーカーに求めていたことが話題になっていましたが、その後、県が指導の一部を取り消しました。これによって今後も「麦みそ」を商品名として使うことができるようになりました。県は「食品表示法」「景品表示法」を理由に問題視していたようですが、まさに朝令暮改を地で行くこの騒動、一体何だったのでしょうか。(写真は井伊商店のホームページから)

■騒動の発端
始まりは、愛媛県宇和島市にある老舗麦味噌メーカー「井伊商店」が、ツイッターで、「当店の麦味噌が『味噌』と名乗れなくなりそうです。当店は創業昭和33年、当時から製法は変えておりません」と訴えたのが、騒動の始まりのようです。(写真は「宇和島城」)

私自身は、よく存じませんでしたが、「麦みそ」とは麦と塩だけで作る伝統食品で、昔から、宇和島の人々に家庭の味として長く愛され続けていたそうです。

報道によると、長年の伝統の味を守って販売されてきたこの商品に対して、愛媛県の宇和島保健所が、検査の際に、井伊商店の商品である「麦味噌」に大豆が使われていないことに関して、食品表示法の食品表示基準では、麦みそは大豆を使って作るものとされているとして、店の品名にミスがあると指摘し改めるよう助言したようです。

さらに、愛媛県南予地方局も、文書で「景品表示法違反の優良誤認に当たる」として改善を指導しています。「大豆を使用していないため『味噌』『麦みそ』と表示することは食品表示基準に違反しており、一般消費者に、実際のものよりも優良であると示すものである」と理由を説明し、パッケージなどでみそ、麦みそと表示しないように求めました。 

■県の指導の根拠となった食品表示基準との関係
食品の表示に関しては、「食品表示法」というのがあります。この法律のより具体的なルールを定めたものが「食品表示基準」です。この「食品表示基準」では、加工食品の容器包装などに栄養成分又は熱量に関する表示をする際に遵守すべき基準などが示されています。

そこには、味噌についての規定もあって、「みそ」、「米みそ」、「麦みそ」、「豆みそ」、「調合みそ」に分類されています。そして、「麦みそ」については、「大豆を蒸煮したものに、麦こうじを加えたものに食塩を混合したもの」と規定しています。

この食品表示基準からすると、麦と塩だけで作る宇和島の「麦味噌」は、大豆を使っていないため、麦みそと認められないというのでした。この指摘を受け、井伊商店側はこれでは伝統製法が途絶えてしまう、特産品として麦味噌を残してほしいと、県に要望書を提出していました。これを知った県民などからは、県の対応を疑問視する声も相次いでいました。 

■県が指導を撤回
こうした中、県は「指導を保留する」と判断を一転させ、さらにその後に、「景品表示法」に基づく指導を取り消したことがわかりました。その結果、商品のパッケージなどで使う商品名としては引き続き「麦みそ」と名乗れるようになりました。 

■どうして解釈が混乱したのか
今回の問題は、まず「食品表示法」と「景品表示法」を拡大解釈して、パッケージに商品名として記載して使用してはならないと判断したことが原因でした。

食品表示法においては、容器包装に入れられた一般用加工食品及び添加物には、食品表示基準に基づき、一定の表示が義務付けられています。加工食品のパッケージの裏側などに四角で囲んで(これを「一括表示覧」と言います)、商品名、原材料名、添加物、内容量、賞味期限、保存方法、製造者が記載されているのが、この義務にもとづくものです。

したがって、この記載の中では「麦みそ」と表現することはできないことになりますが、決してパッケージに記載する商品名として使用してはならない、というものではありません。基本的に、商品の広告宣伝活動での表記は、他の法律に反しない限りは、営業の自由の範囲として保護されているからで、一括表示欄以外の場所に記載する名称の表記まで制限することはできません。

県の保健所の指導が、一括表示覧の指導だけに留めておけばよかったのに、後者のパッケージでの表示にまで及んだのは間違いであったと言えます。

■景品表示法における「優良誤認」の解釈も行き過ぎ
保健所の指導に加担したかのように、愛媛県南予地方局が「景品表示法違反の優良誤認に当たる」として指導したことも問題でした。

そこでの理由にされたのが、保健所が指摘した食品表示法違反を挙げた上で、さらに「大豆を使用していないため『味噌』『麦みそ』と表示することは、一般消費者に、実際のものよりも優良であると示すものである」として、景品表示法に反するとしたものでした。しかし、そもそも保健所の指摘が撤回された上に、優良誤認の指摘も、果たして本当にそうなのかは、大いに疑問があるという流れになりました。

優良誤認と言うのは、具体的に言えば、例えば「食肉」だと「国産有名ブランド牛の肉であるかのように表示して販売していたが、実はブランド牛ではない国産牛肉だった。」とか、「アクセサリー」だと「天然ダイヤを使用したネックレスのように表示したが、使われているのはすべて人造ダイヤだった。」などのようなのが典型例です。宇和島市では大豆を使わない麦みそが広く知られていることからすると、果たして優良誤認だと言えるのでしょうか。

ひと悶着した結果、こちらの指導も、結局は撤回される流れになったのでした。
撤回理由としては、宇和島市では大豆を使わない麦みそが広く認知されていることを前提にすれば、「(消費者が大豆を使った商品であると誤解しても)実態より著しく優れた商品と誤認する可能性が低いことなどを考慮した」ということでした。 

■怪我の功名?
今回の騒動で、とんだミソがついた井伊商店さんですが、同社には「負けるな」と全国から励ましの声が届いていたと言います。今回の件で、宇和島の特産品としての井伊商店「麦みそ」の知名度は全国的になりました。その点では怪我の功名ともいえるかもしれません。香り高く上品な甘さがあるという「麦みそ」、機会があれば味わってみたいものです。

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