大阪プライム法律事務所

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改正民法に「約款」ルールが入ります

15.09.19 | 企業の法制度

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民法(債権関係)の改正法案が、長く法務省の法制審議会において審議されてきましたが、いよいよ、本年3月31日に国会に上程されました。今年に国会で成立すれば、早ければ3年後の2018年にも施行されます。

今回の民法改正では、その特徴のひとつに、消費者保護に軸足を置いた改正であるという点が報道などで言われています。その評価が正しいかについては、議論の余地がありますが、消費者保護的性格の現れと言われているものに、「定型約款」に関する規定があります。企業にとって、消費者との取引において重要な役割を果たす「定型約款」について、どのような改正がなされるのでしょうか。

 

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■消費者保護に軸足があるか
この点について、今回の改正審議の前期の段階においては、消費者に関するルーを民法典に取り込むかどうかが争点になっていました。中間的な論点整理(中間論点整理)では、「当事者聞に知識・情報・交渉力等の格差がある場合には、劣後する者の利益に配慮する必要がある旨の抽象的な解釈理念を規定すべきである」とする考え方や、「消費者や事業者概念を民法に取り入れるべきである」という考え方の当否について検討すべきものとされていましたが、その後、「民法の性質という根本的なレベルから批判する意見も見られる」などとして、契約当事者の格差を民法で考慮することが消極視されたため、結果としては、消費者と事業者の間の契約に限定しない一般ルールとして、消費者保護よりも法主体の抽象性・平等性を重視する選択がなされました。しかしながら、その流れの中で、意思能力、公序良俗、動機錯誤、無効・取消しの効果、保証人保護、定型約款、賃借人の原状回復義務、敷金などにおいて、ある程度、消費者保護に資する規律が新設されたといえます。 

■定型約款
改正民法548条の2第1項は、定型約款を、「定型取引(ある特定の者が不特定多数の者を相手方として行う取引であって、その内容の全部又は一部が画一的であることがその双方にとって合理的なものをいう。)において、契約の内容とすることを目的としてその特定の者により準備された条項の総体をいうものとすること」と規定し、今回の改正で初めて一定の要件のもとで法的拘束力が認めました。

この規程によると、定型約款は、①ある特定の者が不特定多数の者を相手方として行う取引であること、②取引の内容の全部または一部が画一的であることがその双方にとって合理的なものであること、が必要になります。

この定義からすると、例えば労働契約の場合は、労働者の個性に着目して企業と締結するため、①に該当せず「定型契約」とはなりません。

また、事業者間取引の場合は、取引先の個性に着目したものは①の要件に欠け、また、契約内容が画一的となった理由が単なる交渉力の格差によって生じた場合は、②の要件に欠くことになります。このようなことから、通常は、事業者間取引において利用される約款や契約書は、基本的に、定型約款には当たらないと解されるものと思われます。

なお、あらかじめ一方当事者が契約書案を作成している場合でも、他方が契約内容を十分に検討するのが通常である場合も定型約款ではないと解されるものと思います。

■定型約款の「みなし合意」
改正民法548条の2第1項は、定型取引を行うことの合意をした者は、①定型約款を契約の内容とする旨の合意をしたとき、または、②定型約款を準備した者があらかじめその定型約款を契約の内容とする旨を相手方に表示していたときには、定型約款の個別の条項についても合意をしたものとみなす、と規定しています。ここでのポイントは、定型約款の個別の条項について合意をしたとみなす場合の要件として、①または②のいずれかでないとなりません。

■みなし合意の例外
この条項の次の548条の2第2項では、①相手方の権利を制限し、または相手方の義務を加重する条項であって、②その定型取引の態様およびその実情並びに取引上の社会通念に照らして信義則(民法1条2項)に反して相手方の利益を一方的に害すると認められる条項については、前項の規定にかかわらず、合意をしなかったものとみなすとしています。

これは、中間試案などで、「不意打ち条項規制」と「不当条項規制」という二つの異なる規律として設けられることとされていた規制を一本化したものとされているものです。

この規定は、消費者契約法10条(消費者の利益を一方的に害する条項の無効)の規定と似ています。両者の適用場面が重なる場合も多いと思われます。

■定型約款の内容の表示
改正民法548条の3第1項では、定型約款を準備する者は、定型取引合意の前または定契取引合意の後相当の期間内に相手方から請求があった場合には、遅滞なく、定型約款の内容を示さなければならないとしています。

また、第2項で、定型約款の準備者が定型取引合意の前にされた相手方からの表示請求を拒んだときは、一時的な通信障害が発生した場合その他正当な事由がある場合を除き、前条の規定は適用されないとしています。

これは、定型約款の場合は、相手方がその中身を逐一見ることが少ないと考えられるため、これを常に相手方に事前に表示しなければ契約内容とならないとするとむしろ煩雑になることと、しかし相手方が締結しようとし、または締結した契約の内容を確認することができるようにすることも必要ですから、このような規定を設けたものです。

ただ、当事者の合意に定型約款を根拠にする以上は、契約締結前に約款の内容を認識する機会が相手方に与えられるべきだとは思います。中間試案では、契約締結時までに相手方が合理的な行動をとれば約款の内容を知ることができる機会が確保されていることを要求していましたが、それは残すべきであったのではないでしょうか。

■定型約款の変更
改正民法548条の4第1項では、①定型約款の変更が、相手方の一般の利益に適合する(同項1号)か、または、②定型約款の変更が、契約をした目的に反せず、かつ、変更の必要性、変更後の内容の相当性、本条の規定により定型約款の変更をすることがある旨の定めの有無およびその内容その他の変更に係る事情に照らして合理的なものである(同項2号)ときは、定型約款の変更をすることにより、変更後の定型約款の条項について合意があったものとみなし、個別に相手方と合意をすることなく契約の内容を変更できることとしています。

548条の4第2項では、定型約款の変更をする場合における定型約款準備者の周知義務を定め、同条3項では、その違反があった場合に定型約款の変更の効力が生じないことを定めています。

548条の4第4項では、定型約款の変更については、548条の2第2項の規定(みなし合意の例外)は適用されないことを定めています。

この意味は、やや分かりにくいのですが、定型約款変更には、相手方の一般の利益に適合することなど、より厳格な要件を定め、またその適用要件も異なることから、このみなし合意の例外の適用はないと解されていたのですが、その点が明確でないという声もあって、この条項が入った次第です。

これら変更に関する規律は非常に厳しいため、消費者の側からすると一定の保護が図られています。事業者からすると、約款の変更は出来ないわけではありませんが、定型約款中にあらかじめ変更条項を設けておいたほうが、変更の可否に関する考慮要素のひとつとされるため、そのような変更条項を規定しておくのがよいと思われます。

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