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日本から彫師が消える!?  入れ墨の施術には医師免許が必要

18.06.15 |

日本において、入れ墨(※1)は、弥生時代から存在したとされる歴史ある行為です。

また入れ墨は、裁判例において“著作物としての芸術的価値”を認められています(東京地判平23年7月29日平21(ワ)31755、知財高判平24年1月31日平23(ネ)10052)。

このような歴史的・文化的価値のある入れ墨の施術行為に対し、“医行為にあたる”という非常に厳しい判断が、昨年、裁判所によって下されました。

“医行為”とは?

医師法第2条において、『医師になろうとするものは医師国家試験に合格して厚生労働大臣の免許を受けなければならない』と規定されています。

また、医師法は、第17条において『医業は医師でなくては行ってはならない旨』を規定し、医師による医業独占について定めています。

このことから、入れ墨の施術行為が“医業”にあたるとされた場合、入れ墨の施術行為を行う者はすべて“医師免許を取得した医師でなくてはならない”ということになるのです。

なお、“医業”とは『医行為を業として行う行為』を指すと解されています。
そして、“医行為”とは、一般的に以下のように理解されています。

・医師が行わなければ、保健衛生上、危害を生ずるおそれのある行為
・医師の医学的判断および技術をもって行わなければ、人体に危害を及ぼし、または危害を及ぼすおそれのある行為

 
入れ墨の施術には
医師免許が必要!

医行為が上記のように定められているなか、『入れ墨の施術行為が医行為にあたり、医師免許なしで行うことは違法である』という判断が大阪地方裁判所によって下されました(大阪地判平成29年9月27日LEX/DB 25548925。以下、本裁判例)。

裁判所が入れ墨の施術行為を医行為と判断した理屈は、以下の通りです。

『……入れ墨は、必然的に皮膚表面の角層のバリア機能を損ない、真皮内の血管網を損傷して出血させるものであるため、細菌やウィルス等が侵入しやすくなり、被施術者が様々な皮膚障害等を引き起こす危険性を有している。……さらに、入れ墨の施術には必然的に出血を伴うため、被施術者が何らかの病原菌やウィルスを保有していた場合には、血液や体液の飛散を防止したり、針等の施術用具を適切に処分するなどして、血液や体液の管理を確実に行わなければ、施術者自身や他の被施術者に感染する危険性があるのみならず、当該施術室や施術器具・廃棄物等に接触する者に対しても感染が拡散する危険性もある。以上のとおり、本件行為が保健衛生上の危害を生ずるおそれのある行為であることは明らかである。……そのため、入れ墨の施術者は、まず、施術に伴う危険性を十分に認識・理解した上で、保健衛生上の危害発生防止のために、どのような方法・環境で施術を行うかを検討し、選択しなければならない。……このように、入れ墨の施術に当たり、その危険性を十分に理解し、適切な判断や対応を行うためには、医学的知識及び技能が必要不可欠である。よって、本件行為は、医師が行うのでなければ保健衛生上危害を生ずるおそれのある行為であるから、医行為に当たるというべきである』。

つまり、入れ墨の施術は『保健衛生上の危害を生ずるおそれのある行為』であるため、その危険性を十分に理解し、適切な判断・対応を行うためには医学的知識・技術が必須
このことから“入れ墨の施術は医行為にあたる”との判断が下されました。


日本の彫師が激減!?

本裁判例により、入れ墨の施術行為には医師免許が必要とされることとなりました。
これは、歴史的・文化的価値のある入れ墨を施術する“彫師という職業を、“医師という職業に組み込むことを意味します。

彫物を生業とする者で、医師免許を有している者はほぼいないでしょう。

そのため、入れ墨の施術行為については「別途法律を作り、届出制・許可制・免許制等にすべき」との指摘がなされています(第190回国会衆議院厚生労働委員会議録3号(平成28年3月9日)6頁[初鹿明博委員発言])。

このように、法改正によって、職種が拡大・縮小・合体されることもあります。
自社の業界でどのような法改正がなされているか、日頃から確認しておくようにしましょう。


※1 針・刃物・骨片などで皮膚に傷をつけ、その傷に墨汁・朱・酸化鉄などの色素を入れ着色し、文様・文字・絵柄などを描く手法、および、その手法を使って描かれたもの。

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