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医療機関がキャッシュレス決済を導入するメリットと懸念事項

24.01.02 |

これまで病院やクリニックにおける医療費は現金による支払いが主流でした。
しかし、クレジットカードやQRコードなどのキャッシュレス決済が一般に普及し、日常生活で当たり前に使われるようになったことから、キャッシュレス決済を導入する医療機関が増えつつあります。
キャッシュレス決済の導入は医療機関にとってさまざまなメリットがあり、患者の満足度の向上にもつながります。
キャッシュレス決済の種類からポイントに対する考え方まで、医療機関が導入する際に知っておきたいことを確認していきましょう。

キャッシュレス決済の種類とそれぞれの特徴

キャッシュレス決済とは、お札や小銭などの現金を使わずに支払いを行う決済手段のことです。
経済産業省が算出したデータによると、2022年のキャッシュレス決算比率は36.0%(約111兆円)となり、2021年から3.5ポイントの増加となりました。
経済産業省では、キャッシュレス決済を推進しており、2025年までにはキャッシュレス決済比率を40%程度にするという目標に向かった、順調な伸びをしているといえるでしょう。

近年は食料品店や衣料品店、飲食店など、あらゆる店舗でキャッシュレス決済が行えるようになりました。
その影響は、医療機関にも波及しています。
これまで、高齢者が多い医療機関ではキャッシュレス決済の需要がそこまで高くはありませんでした。
しかし、コロナ禍における“非接触”の実現や、利用者の増加などから、キャッシュレス決済の導入に踏み切る医療機関も増えてきています。

キャッシュレス決済には、主にクレジットカード、電子マネー、QRコード決済といった種類があり、それぞれ仕組みが異なります。

日本で最も普及しているクレジットカードは、利用後に指定の銀行口座から利用額が引き落とされる決済手段で、Visa、Mastercard、JCB、American Expressなどの国際ブランドのクレジットカードが主に使われています。

一方、電子マネーは、あらかじめスマートフォンや専用のICカードにお金をチャージしておく前払いタイプの決済手段で、主なものに交通系ICのSuicaやPASMO、流通系ICのnanacoやWAONなどがあります。

また、PayPayや楽天ペイ、LINE Payなどに代表されるQRコード決済は、店頭のQRコードや、アプリで表示したQRコードを介した決済手段で、チャージ元や引き落とし先としてクレジットカードに紐付けることも可能です。

厚生労働省の調査によれば、医療機関の導入状況は、病院ではクレジットカード決済が60.9%、電子マネー決済が6.8%、QRコード決済が5.2%、クリニックではクレジットカード決済29.8%、電子マネー決済7.3%、QRコード決済が7.8%となっています。
病院とクリニックにおける電子マネーとQRコード決済の導入状況にさほど大きな差はありませんが、クレジットカード決済については、クリニックよりも病院での導入率の方が高く、入院費用など支払い金額が高額になりやすい病院のほうが、クレジットカード決済との相性がよいからであると見られています。

ポイントの付与は療担規則違反になる?

医療機関でキャッシュレス決済を導入するメリットは、一つに患者の利便性が向上することにあります。
会計時に現金でやり取りする手間や時間を省けるため、一人にかける時間を短縮でき、結果として待ち時間の短縮につながります。
また、お釣りの渡し忘れや計算間違いなどのミスの防止にもつながります。
毎日、事務スタッフが銀行に出向いて釣り銭を大量に用意する必要もなくなるでしょう。

さらに、現金を持ち合わせていない患者や、手術や入院等で医療費が高額になる患者への対応が可能になるほか、キャッシュレス決済に馴染みのある若年層の集患も期待できます。
都市部では医療機関によるキャッシュレス決済は一般に普及されつつありますが、まだ普及が進んでいない地方のクリニックでは、キャッシュレス決済の導入でほかのクリニックとの差別化を図ることも可能です。

ただし、キャッシュレス決済を導入するには費用や利用手数料など追加のコストがかかるため、導入をためらっている医療機関も多くあります。
そのため、医療保険が適用されない自由診療のみキャッシュレス決済に対応しているクリニックもあります。

また、もう一つ、キャッシュレス決済の懸念事項として、ポイントの付与があります。
キャッシュレス決済のなかにはポイント還元機能を持つものがあり、買い物ごとに付与されたポイントは支払いに使用することができます。
この医療機関でのキャッシュレス決済に伴うポイントの付与について、保険診療におけるルールを定めた療養担当規則の「経済上の利益の提供により、当該患者が自己の保険医療機関において診療を受けるように誘引してはならない」に該当する可能性がありました。
厚生労働省は「当面やむを得ないものとして認める」として通知を出していましたが、2023年9月29日、一部負担金の1%を超えてポイントを付与している場合などに、口頭による指導を行い、そのうえで改善が認められない場合は必要に応じて個別指導を行うとの事務連絡を発出しました。
今後も医療機関のキャッシュレス決済に伴うポイント付与については、動向を注視していく必要がありそうです。

韓国や中国では、キャッシュレス決済の比率が80%以上と現金を上回っており、日本も今後はキャッシュレス決済が主流になっていく可能性があります。
普及率やコストなどを比較しながら、キャッシュレス決済の導入を検討してみてはいかがでしょうか。


※本記事の記載内容は、2024年1月現在の法令・情報等に基づいています。

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