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事業承継における『遺留分』の問題を解消する民法の特例とは

24.06.25 |

事業承継を目的に、先代の経営者から後継者が自社株式や事業用資産などを譲り受けることがあります。
贈与などで、一人の後継者に自社株式や事業用資産などを集中させておけば、先代が亡くなった後も、これまでと変わらずに会社を運営していくことができます。
しかし、後継者以外にも相続人がいる場合、『遺留分』を巡るトラブルに発展し、事業承継もうまくいかない可能性があります。
今回は、トラブルを起こさず、円滑な事業承継を行うために利用できる『遺留分に関する民法の特例(民法特例)』の活用方法について説明します。

相続人の権利でもある『遺留分』とは?

先代の経営者から会社や個人事業を承継する場合に、考えておきたいのが『遺留分』の問題です。
遺留分とは、遺族の生活の安定や相続人同士の平等を確保するために、民法で定められている最低限の相続分のことです。

たとえば、相続人が複数人いるのに、被相続人である故人の遺言などによって一人の相続人がほとんどの財産を独占して相続したとします。
当然、ほかの相続人たちは納得できないでしょう。
その場合、ほかの相続人たちは財産を独占した相続人に対して、自分たちの遺留分を請求できます。
つまり、簡単にいえば、遺留分とは遺言などに影響されない相続人に最低限保証されている『取り分』のことです。

しかし、事業承継の際には、この遺留分がトラブルのもとになります。
先代の経営者が後継者である一人の相続人に対して、事業承継を目的に自社株式や事業用資産を集中させた場合、ほかの相続人から遺留分を侵害されたとして、遺留分に相当する額の請求を受けることがあります。
遺留分を支払うために、後継者が自社株式や事業用資産を処分することになってしまうと、スムーズな事業承継が妨げられてしまうかもしれません。

そこで、円滑な事業承継の実現を目的に、経営承継円滑化法では『遺留分に関する民法の特例(民法特例)』を規定しています。
この民法特例を活用すれば、先代の経営者から生前贈与や相続で自社株式や事業用資産を受け継ぐ際に、ほかの相続人との遺留分を巡るトラブルを防ぐことができます。

対応策としての『除外合意』と『固定合意』

民法特例を活用することで、相続人全員の合意のうえで、自社株式や事業用資産の価額について、『除外合意』と『固定合意』のどちらかの手段を取ることができます。

除外合意とは、後継者が先代から贈与や相続によって取得した自社株式や事業用資産について、遺留分を算定するための財産の価額から除外できるというものです。
合意に至れば、ほかの相続人は自社株式や事業用資産について、遺留分を主張できなくなります。

一方、固定合意とは、遺留分を算定するための財産の価額について、自社株式を合意時の「時価」で固定して算入するというものです。
固定合意を行なっておけば、株価が上昇しても遺留分の額に影響を及ぼすことはありません。
そのため、後継者の経営努力により自社の株価が上昇した場合でも、ほかの相続人から上昇した額の遺留分を主張される可能性がなくなります。
ただし、固定合意は、自社株式だけに適応できる手段で、会社のみが利用できます。
そのため、自社株式がない個人事業では使うことができません。
また、合意時の時価については、相当な価額であることを税理士や公認会計士、弁護士などに証明してもらう必要があります。

これらの民法特例による除外合意と固定合意は、どちらか一方を利用することも、組み合わせて利用することも可能です。
適用を受けるためには、いくつか条件があり、会社であれば非上場の中小企業者で、合意時点において3年以上継続して事業を行なっている必要があります。
また、先代の経営者もしくは後継者が、合意時点において会社の代表者でなければいけません。
さらに、後継者は株式の贈与などにより、会社の議決権の過半数を保有している必要があります。

この民法特例を利用するための手順としては、先代経営者の推定相続人全員(ただし、遺留分を有する者に限定)が合意したうえで合意書を作成し、必要書類と共に経済産業省中小企業庁事業環境部財務課に提出します。
その後、経済産業大臣の確認と、家庭裁判所の許可を受けて、はじめて合意の効力が発生します。

相続人全員の合意が得られない場合などは、ほかの相続人を説得する必要があり、専門的な知識が必要になるかもしれません。
遺留分をめぐるトラブルの可能性があるのであれば、合意書の作成なども含めて、まずは相続対策を扱う専門家への依頼も検討してみましょう。


※本記事の記載内容は、2024年6月現在の法令・情報等に基づいています。

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