大阪プライム法律事務所

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ゾウガメの懸賞金と民法改正

17.09.02 | ニュース六法

岡山県玉野市の渋川動物公園から、8月1日に逃げ出したゾウガメ「アブー」が、8月16日に、近くの山中で、探していた親子に発見され無事に保護されました。発見した親子は、このことをニュースで知って捜しに来たようで、探し始めてわずか約15分で発見したとのこと。2日前に懸けられたばかりの懸賞金50万円を受け取りました。

発見時の毎日新聞の記事によると、発見した父親は「無事でよかった。懸賞金で家族でおいしいものを食べます」と話し、息子さんは「夏休みのいい思い出になった」と笑顔だった報じています。実は、このような懸賞金について、民法でルールが定められています。実はこのルールも、今回の民法改正で少し改正されました。
【写真は日テレNEWS24より】

発見したのは岡山市の会社員と中学3年生で、現場について探し始めてから約15分後の午後2時10分ごろ、渋川動物公園から約150メートルの林の中をゆっくりと歩いているアブーを発見し、中学生が園まで走って知らせたそうです。 【写真のマップは渋川動物公園サイトから】

■懸賞広告とは

今回、渋川動物公園は、なかなか発見できないことに困って、発見者に50万円の懸賞金を支払うと公表しました。このように、ある一定の行為をなした者に一定の報酬を与える広告を「懸賞広告」といいます。このような広告については、民法529条に規定がおかれています。 

(懸賞広告)
第529条
ある行為をした者に一定の報酬を与える旨を広告した者(以下この款において「懸賞広告者」という。)は、その行為をした者に対してその報酬を与える義務を負う。 

このように、「ある行為をした者」(行方不明のアブーを発見した者)に、「一定の報酬」(50万円)を「与える広告をした者」(渋川動物公園運営会社)は、「その行為をした者」(発見した親子)に対して、その報酬を与えなければならないということです。 

■指名手配者に対する懸賞金について

今回は、ぞうがめというほのぼのした話でしたが、犯罪の嫌疑をかけられた人物を、警察庁が、懸賞金をかける場合があります。正式には「捜査特別報奨金」といい、これも、民法の懸賞広告規定によって支払いがなされています。 

捜査特別報奨金とは、都道府県警察が捜査中の事件のうち、警察庁が特に指定するものに関し、その事件の検挙に結び付く有力な情報を提供した者に対して金員を支払う旨を広告した場合において、有力な情報を提供した者のうちの「優等者」に対して、民法の規定に従って支払うものをいいます。

この制度は、松山ホステス殺害事件やマブチモーター社長宅殺人放火事件において、遺族らが情報提供を懸賞金つきで募集して、事件解決に結びついたことが導入のきっかけとなって、平成19年4月にスタートしました。 

当初は、警察がすべきことを、懸賞金をかけて市民に通報を促すことに躊躇の面もあったようですが、他人とのかかわりを持たない現代社会においては、警察への情報提供に消極的な傾向がみられ、犯罪解決に役立つ情報が得られにくくなっていることなども、制度創設の背景となりました。 

■懸賞広告を知らないで発見した場合は

懸賞広告で問題となるのは、今回のように発見に懸賞金が付いていたことを知らないままで発見した場合の扱いです。今回の親子は、懸賞金がかかっていることを知って探しに来たので問題にはなりませんが、もし懸賞金のことを知らない人物が、たまたまアブーを見つけて連絡していたら、その方に対して報酬を支払う義務が生ずるのかどうかということです。 

少し難しいお話をすると、懸賞広告の法的性質を「契約」とみるか「単独行為」とみるかで学説が分かれていました。「契約説」は、広告者による広告が申込みとなり、それに対する承諾意思のある指定行為の完了によって契約が成立し、報酬の支払いが生じるというものですので、広告の存在を知ってないと契約が成立せずに報酬の支払い義務が生じなくなってしまいます。

他方、単独行為説は、懸賞広告は単独行為であり、指定行為の完了を停止条件として報酬の支払い義務が生じるというものですので、広告の存在を知らなくても広告者に支払い義務が生じるわけです。 

どちらの説が有力であったかといえば、単独行為説であったといえます。そうでないと、同じことをしたのに、たまたま広告を見た人は報酬が貰えて、見てない人は報酬が貰えないというのでは不公平だからです。しかし、懸賞金をかけたほうが、そのような人に払いたくないなというケースが出てきたら、裁判所がどう判断するかは、判例が無いのでどうなるか分かりませんでした。 

■改正民法では、この問題を解決

この問題は、本年5月26日に可決成立した民法改正で、解消されました。つまり、条文中に、「その行為をした者がその広告を知っていたかどうかにかかわらず」という文言を入れたので、知らなくてもOKとなりました。

(懸賞広告)
第529条
ある行為をした者に一定の報酬を与える旨を広告した者(以下「懸賞広告者」という。)は、その行為をした者がその広告を知っていたかどうかにかかわらず、その者に対してその報酬を与える義務を負う。

 

 

 

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