大阪プライム法律事務所

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紅白歌合戦と労働基準法~倒れた欅坂46

18.01.04 | ニュース六法

昨年末の第68回紅白歌合戦で、欅坂46メンバーが、紅白後半で「不協和音」を歌った後、総合司会の内村光良と一緒に再登場し、同曲のサビ部分を一緒に激しく踊りました。ところが、その終了間際に、メンバーの鈴本美愉が後ろに倒れ込んだほか、センターの平手友梨奈も途中からふらつき、最後のポーズで手が震え続けました。メンバーの志田愛佳も含め3人が、過呼吸状態で容体が悪く、終演後に舞台から運び出されたということでした。センターを務める平手友梨奈は何と16歳であるし、倒れこんだ鈴本美愉は20歳、志田愛佳は19歳です。
ネットでそのシーンを確認しましたが、夜間の大変な重労働で、この子たち大丈夫なの?と、親でもないのに心配になってきました。紅白歌合戦と労働基準法について考えてみました。

■欅坂46とは
秋元康のプロデュースで生まれてきたグループで、AKB48やら乃木坂46などと同じ流れです。その違いは古い世代には分かりにくいのですが、欅坂46は少し気になる存在です。デビューシングル『サイレントマジョリティー』などで、大人批判、自由、孤独といった言葉を盛り込みながら強烈なメッセージを発信しているからです。「反体制派アイドル」ともいわれるようになっています。
「不協和音」も、不協和音を恐れずに自分の意思や正義を信じ抜く決意を歌っています。

 “僕はYesと言わない 首を縦に振らない
まわりの誰もが頷いたとしても僕はYesと言わない
絶対 沈黙しない 最後の最後まで抵抗し続ける”

“僕は嫌だ” 
"不協和音を僕は恐れたりしない
嫌われたって僕には僕の正義があるんだ
殴ればいいさ 一度妥協したら死んだも同然
支配したいなら僕を倒してから行けよ!”

■今回の原因
紅白で欅坂46メンバーが登場したのは2回あったようです。後半トップバッターで登場した際には、総合司会の内村さんは「一緒に踊るのは夢としてとっておきます」と話していたが、その約27分後に、突然の企画コーナーとして、共演が実現した際にこの出来事が生じたようです。

なぜ、倒れるほどの過呼吸を招いたのでしょうか。詳細は知りませんが、あまり時間を空けずの2度もの出演、日本中に放映されている大舞台という精神的負担、過密スケジュール、夜9時半ころという時間帯、特に「不協和音」のダンスは激しく、熱いライトに照らされてのあのハードな踊りをしながらの歌唱、むしろよく我慢したなとも思います。幸いなことに、3人とも待機していた看護師が直後に確認したところ軽い過呼吸症状であったということで、病院搬送はなかったようです。

■ここで考えてしまう未成年者労働
結果として、大ごとにはなりませんでしたが、一歩間違えれば、重大な事故にもなりかねかなったとも言えます。彼女らの多くは未成年者ですし、センターの平手友梨奈に至っては16歳です。もし、重大な傷病を招いていた場合、大衆注視のもとでの労働災害になったのではないか、年始の祝い酒で酔った中でも気になってくるのが、法律家の性といえます。日本国憲法では、第27条第3項で、「児童は、これを酷使してはならない。」ともしています。ここで浮かんでくるのは、労働時間制限と、労働者性です。

■労働時間制限
(1)労働基準法第56条
1 使用者は、児童が満15歳に達した日以後の最初の3月31日が終了するまで、これを使用してはならない。
2 前項の規定にかかわらず、(中略)、児童の健康及び福祉に有害でなく、かつ、その労働が軽易なものについては、行政官庁の許可を受けて、満13歳以上の児童をその者の修学時間外に使用することができる。映画の製作又は演劇の事業については、満13歳に満たない児童についても、同様とする。

⇒このように労基法では、中学校卒業までは労働させてはならないと定めつつ、例外的に官庁の許可を得た場合は、有害でない特定の労働を13歳以上の児童にさせることが可能となっています。さらに、映画・演劇事業の場合は、13歳未満でも許可があれば許されることになっています。

■労働基準法第61条(18歳未満は午後10時から午前5時まではNG)
条文の紹介は省きますが、ここで18歳未満の年少者は、原則として午後10時から午前5時までの深夜時間に就労させてはならないとし、また、法定労働時間を超える残業や休日労働も禁止しています。また、義務教育が終わるまでの児童については、原則として就労そのものが禁止され、一定の軽易な業務(満13歳以上の児童に限ります)や「映画の製作や演劇の事業」について、労働基準監督署長の許可を得た場合に限って例外的に就労できるとしています。

センターを務めた平手友梨奈は16歳ですから、18歳未満の年少者に当たるので、午後10時からは就労させてはなりません。ただ、今回は午後9時半ころのことですから、この点での問題は生じていないこととなります。ただし、法定労働時間を超える残業や休日労働の禁止に該当しないのか詳細は分かりませんが、こういった規制には触れないようにはしているものと信じたいところです。

■労働者性について
以上の点は、彼女たちのようなアーティストやタレントが「労働者」であることを前提としています。「労働者」であるかどうかは、使用者の指揮監督下で労務を提供し、その対価として賃金を取得する関係があるかどうかで決まります。

何やら、無粋な議論ですが、今回の出来事において、重篤な事故に至っていた場合、これが労災に当たるかどうかは、彼女たちの労働者性が問題になってきます。ここで浮上してくるのが、いわゆる「光genji通達」(別名、芸能タレント通達) (昭和63年7月30日基収355号)です。

■「光genji通達」
労働基準法の、年少者の深夜労働の解釈として、当時の労働省が(労働基準局長名で)1988年に発した通達です。これについては、このメルマガですでに触れています【2017年7月 藤井聡太四段14歳の活躍(労働基準法と深夜業)】。

これは従来の解釈の延長として、歌手やタレントという具体的職種について労働者性を検討する場合の指針を示したものですが、この通達によって、次の4要件を全て満たすならばそのタレントは労働基準法上の労働者ではないとされました。今回の問題とも重なってきます。

①当人の提供する歌唱、演技等が基本的に他人によって代替できず、芸術性、人気等当人の個性が重要な要素となっていること。
②当人に対する報酬は、稼働時間に応じて定められるものではないこと。
③リハーサル、出演時間等スケジュールの関係から時間が制約されることはあってもプロダクション等との関係では時間的に拘束されることはないこと。
④契約形態が雇用契約ではないこと。

これらの条件を満たす場合は、労働者ではないのでという理由で、15歳未満でも午後8時以降も働くことができるようになっています。この通達は、その当時14歳を含んでいた光GENJIのメンバーが、当時毎週夜9時から生放送されていた歌番組にフルメンバーで出演できなかったのですが、この通達によって労働者でないという解釈になって、フルメンバー出演ができるようになったのでした。

これに関して、欅坂46メンバーが、この定義からみてどうなのか、私には判断できるだけの情報は持っていません。グループ結成の経緯や、グループ自体が特定の芸能事務所に所属していることなどからして、労働者性はあると思うのですが、上述の光GENJI通達は、別名で、「売れてる超有名タレントの労働者性否定通達」とも言うものですから、まさに売れている彼女たちは労働者でないのかもしれません。ややこしい通達です。
今年の1月30日から2月1日の3日間にわたって、 日本武道館3Day公演が開催される予定とのこと、無事に安全に乗りこなしてほしいところです。

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