大阪プライム法律事務所

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ブロック塀倒壊事故~総無責任社会の怖さ

18.06.30 | ニュース六法

このたびの大阪北部地震で被災された皆さまに心よりお見舞い申し上げます。

6月18日に大阪北部を震源とした大地震で震度6弱を記録した高槻市では、小学校でブロック塀が倒壊し、通学中の4年生の9歳女児が死亡しました。大変いたましいことです。倒れたのは、ブロック8段で組まれた上段部分(高さ1.6メートル)で、約40メートルに渡って道路側に倒れたようです。

ブロック塀の倒壊による死亡事故は、これまでの震災でも数多く報告されています。大きくクローズアップされたのは、昭和53年(1978年)の宮城県沖地震でした。このとき、多くの方がブロック塀の倒壊によって亡くなられています。その都度「同じ思いをする人が今後出ないように」という思いが社会に生まれていたはずですが、教訓は活かされてこなかったのでしょうか。法的責任はどうなるのでしょうか。

このような危険なものを放置してきた社会は、総無責任社会であると思わざるをえません。

■民間の場合の「土地工作物責任」
倒れたブロック塀が民間人の管理・所有によるものでしたら、民法の規定(717条1項)で、工作物の設置又は保存に瑕疵があることによって他人に損害を与えたときは、賠償責任を負うと定めていることから、その定めに従った責任が生じ得ます。周囲の他のブロック塀が壊れていないような場合は、こうした瑕疵の可能性が高くなります。あまりにも杜撰な塀を放置していて他人を死傷させてしまうと、業務上過失致死傷罪という刑事罰を受けることにもなりえます。 

■公の営造物の設置・管理の瑕疵に基づく責任
今回の高槻での事故は、公立小学校の設置するものでした。このような国や地方公共団体などの公の営造物の設置・管理に問題(瑕疵)があって、死傷や破損などの被害が生じた場合には、民法とは異なって、国家賠償法第2条によって、国や地方公共団体が被害者に賠償責任を負うものとされています。「公の営造物」とは、公共目的のために利用されているもののことで、これによる責任を一般に「2条責任」とも言います。

設置管理者が民間の場合は、後に述べるように民法でよく似た責任(工作物責任)がありますが、公の営造物の範囲は工作物に限らず、河川や道路なども含まれるため、適用対象は民法717条より拡大されています。

ここでいう「公の営造物の設置又は管理の瑕疵」とは、営造物が通常有すべき安全性を欠いていることをいいます。実際に営造物の使用に関連して事故が発生し損害が生じたときに、設置又は管理に瑕疵があったといえるかどうかは、その事故当時において、その営造物の構造、用法、場所的環境及び利用状況等諸般の事情を総合考慮して個別具体的に判断すべきであるとされています。

では、どのような場合には、責任を問えるのでしょうか。東日本大震災の発生後に道路に生じた陥没に自動車が落ち込んで損傷した事故を巡っての道路管理者たる市への損害賠償請求事案をめぐって、裁判所が出した判決(福島地裁郡山支部平成26年6月20日判決(判例時報2233号131頁))が参考になります。

つまりは、一般論として、「公の営造物の設置又は管理の瑕疵」というのは、
①営造物が通常有すべき安全性を欠いていることをいい、その判断は、その事故当時において、当該造営物の構造、用法、場所的環境及び利用状況等諸般の事情を総合考慮して個別具体的に判断すべきであるとし、さらに、
②事故が発生し、損害が生じた場合においても、管理者にとって当該事故を「予見することができず、その回避可能性がなかったと認められる場合」には、「管理の瑕疵」はないと解される方向になります。

そのような点を踏まえて考えてみた場合、今回のブロック塀は、やはり大きな問題があったと言わざるをえないかと思います。

■建築基準法施行令62条の8
補強コンクリートブロック造の塀について、建築基準法施行令62条の8でもって、高さ(2.2メートル以下)、厚さ(15センチ以上)、鉄筋(太さや間隔)、控壁(補助する壁)の設置、ブロック塀の基礎の根入れの深さ(30センチ以上)といった基準を定めています。

この基準はもともと、1968年の十勝沖地震の被害がきっかけで、建築基準法施行令の改正としてつくられたもので(1971年施行)、その後さらに、宮城県沖地震(1978年)を受けて、ブロック塀の高さを「2.2メートル以下」とする改正をしています(1981年施行)。その20年後の2001年には、高さが「2.2メートルを超える」場合でも、「構造計算で安全性を確認できれば建築することができる」と変更され、現在に至っています。

今回の高槻の小学校のブロック塀は、基準よりかなり高い約3・5メートルで、補助塀も無いなど、いくつかの部分で違法な建築だったようです。こんな危ない道を、通学路に指定して歩かせていたわけです。ますます不憫でなりません。

■既存不適格建築物かどうか
なお、建築基準法施行令の違反になるのかどうかについては、このブロック塀が何年に作られたのかも問題となります。作った当時は適法であったけれども、法令が改正されて「不適格」になるということがあり、そういったものを「既存不適格建築物」と呼んで、作った当時から違法である「違法建築物」と区別されています。この小学校のブロック塀がつくられた時期については、まだ明確ではないようですが、1981年施行前であれば既存不適格建築物であった可能性もあるかと思います。つまりは作った当時は合法だったが、後の改正で違反になったもので、誰もが危険に気づかないままに来ていたということになります。

年間で何回も地震が起こっている日本では、もはやいつ大規模地震が起こるか分かりません。そのような現在では、既存不適格建築物であったとしても、早期にその違反状態を察知して、改善すべき義務が管理者にはあったものというべきでしょう。それに気づくはずの時期、気づくべき時期はいつであったのか、それによって責任者も変わり得るので、当事者にとっては大きな問題と言え、その解明が大きな問題になるかと思います。

このようなものは、まだまだ各地にあると思われますが、遅まきながら全部の再点検をしっかりとして欲しいものです。地震による人災は、採り得る限りの対策をもって防ぎたいものです。 

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