税理士法人SKC

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IRは北九州市の経済構造に変革をもたらすか

19.09.27 | 堺俊治の独り言的情報

マスメディアの報道でご存知のように、北九州市でIRの開発をしたいという海外の数々の事業者が北九州市に訪問しています。先日訪れた事業者は、2兆円を超える開発の企画を提示して驚きを与えました。

 IRとはIntegrated Resort(統合型総合リゾート施設)の略です。どのようなものかというと、世界的な国際会議が開催可能な会議場、同様な研修施設、大規模なイベントや展示会の会場、国際大会や世界大会、また世界タイトルマッチができるようなスポーツスタジアム、大規模な劇場、オペラハウスやシアター、アミューズメント施設、テーマパークや遊園地、それにミュージアム、美術館や水族館等、そして大規模ショッピングモール、地元の商業施設や地元の名産品を出店、このリゾートに訪れる旅行者のための宿泊施設、5スター級の3,000室以上を備えたホテル、これら施設を統合して先端科学技術の応用によるスマートシティ化を実現するなど、このリゾート施設を、30ha~50haという地域内で開発するという国の国際観光推進政策に基づいたリゾート開発です。これら施設の運用のために、カジノ施設(上記施設の全体面積の3%以下)の収益で円滑に運営しようという新たな仕組みです。このIRの法案が国会を通過した時には、大規模リゾートの開発より、カジノの解禁のほうが先行してしまい、マスメディアにはカジノ法案と呼ばれるようになりました。
 日本のIR推進のモデルとしてなったのは、シンガポールの「マリーナ・ベイ・サンズ」や「リゾート・ワールド・セントーサ(セントーサ島)」のIRとしての大きな成功です。日本から旅行客は、実はあのリゾートがカジノの収益で運営されていることを知らないだけでなく、カジノがどこにあったかすら知らないで帰ってくる人がほとんどです。シンガポールでのIRの経済効果は大きく、今やこのふたつのIRがシンガポールの象徴となっています。そして日本政府は、このシンガポールのIR以上のものを、まずは3ヵ所日本に開発することを決めました。それも事業者が開発資金のすべてを投資するという好条件です。
 その3ヵ所の一つに北九州市が有望視されています。北九州市がこのチャンスを逃すわけにはいかないと思うのですが・・・。

 北九州市はこれまで工業都市として、日本製鉄、三菱化学、安川電機などの大企業群に支えられてきました。「ものづくり」にプライドを感じトレードマークのように扱ってきました。そして平成17年に北九州の人口は100万人を割って以来、10数年で人口減少は5万人を超えています。このままでは、20年先には20万人の人口減少となり75万人となってしまうという統計があります。それでも凡そ1700市町村の自治体中での人口ランキングは13位です。しかし、一人当たりの平均所得では395位となっています。この一人当たりの平均所得(312万円)を低いと思うかどうかですが、少なくとも政令指定都市中では最下位なのです。東京都港区が断トツの1位(1,126万円)で、福岡市が131位(354万円)となっています。また北九州市においては、賃金は低い方が都合いいという地場の製造業(大企業系列)も多いようです。 
 実は私は、IRの誘致推進活動に取り組むまで、この北九州市の現状に気づかないでいました。このような北九州市の経済構造こそが、大企業依存体質の工業都市の特徴であり、職人的モノづくりをモットーとする大企業の系列企業群に支えられてきた北九州市の特徴といってよいのではないでしょうか。確かに大企業系列の地場企業にとっては、賃金は低い方が都合いいかもしれませんが、賃金の低さは北九州市の購買力の低さとなって表れています。北九州市のこの経済構造は昭和年代がピークで、平成に入るや衰退に転じ、今や衰退が加速していく状況です。この所得の低さは、付加価値の高い仕事が出来ていないということであり、IoTやAIを先端とするソフト産業や若くて勢いのあるベンチャー企業の少なさを表していることになります。そんなベンチャー企業が多く育てば、若者も集まります。しかし、その育成やそんな企業を育てるための市の財政に余裕がないのです。結果として若者は、先進企業やベンチャー企業の集まる博多や大阪へ出ていきます。

 IR推進活動が、結果として私に、北九州市の経済構造の根本的課題や、市の財政の危機的状況を学ばせてくれました。北九州市の財政を改善して、行政が先端技術に投資をし、ベンチャー企業を育てていかないと、根本的な経済構造は改善されていかないと思います。その財政改善のためにも、IR誘致で財政を飛躍的に改善し、国際観光都市として観光産業を拡大することで、北九州市の一人当たりの所得も増加に転じるのは明白ではないでしょうか。

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