大阪プライム法律事務所

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パチンコ店名の「制裁的公表」

20.04.29 | ニュース六法

大阪府は4月24日、新型コロナウイルス特別措置法に基づき休業要請に応じないパチンコ店6店を知事の会見で公表し、大阪府ホームページでも掲載しました。この特別措置法での施設名公表は、これが全国初でした。休業要請に応じず公表されたパチンコ店は大阪市の2店舗、堺市の3店舗、枚方市の1店舗でした。その後、他の都府県でもパチンコ店名公表が続々と続いています。
これに対応して、休業した店も出てきましたが、皮肉なことに、続行した店舗の中には、翌日の開店時に約300人が並んだ店もあるということです。行政が宣伝をしてくれたようなもので、「逆効果だ」との意見もあり、眉をひそめたくなる状況ですが、さまざまな意見があるのも事実です。中には、「特定業種を恣意的に選んで見せしめに首を絞めるようなやり方は法治国家としてすべきではない」というような意見も見受けられます。こうした事態を、法的にどのように考えていったらいいでしょうか。

■全国の動き
大阪府では、4月14日から感染の拡大につながるおそれのある府内のパチンコ店に対して、新型インフルエンザ等対策特別措置法第24条第9項に基づく、施設の使用制限等の協力を要請していました。自主的に休業した店が多かったのですが、なお営業を続けた11店舗に対し文書による要請を行い、応じなければ公表対象とすることも通告した上で、ついに4月24日に店名の公表に踏み切ったのでした。他の都府県でも、同じプロセスを踏んで公表に至っているところが相次いでいますが、慎重なところ、そうでないところなど、地域によってばらつきも出ています。

業界大手のダイナムやマルハンなどのいくつかの大手チェーン企業は、早くから緊急事態宣言期間の無期限休業を発表しました。「パチンコチェーンストア協会」や「全日本遊技業事業協同組合」といった業界団体も下部組織を通じて各店に休業要請の周知を行っていて、多くのパチンコ店が休業を始めました。しかし、従うかどうかの判断は各店に任されるので、小規模店などは、それに従わずに従業員の雇用の確保という大義名分を掲げて営業を続けるというわけです。そもそも経営が厳しくなってきている中で、最後の儲けをここでと考えているところもあるのかもしれません。

パチンコ店の厄介なところは、飲食店などとの違いからだと思われます。飲食店などは、客自体が感染を恐れて来店することを避けているため、来店者数が必然と激減し飲食店も経営上苦境に陥っています。しかし、パチンコ店は、背景に依存症の問題があって、客自身の自主規制が働かないからではないかと思います。近くの店が閉まると、パチンコ依存症の客は我慢ができずに、遠くても開いている店を探し回るからです。 

■協力要請の段階
政府の「新型コロナウイルス感染症対策の基本的対処方針」では、都道府県の蔓延防止への対応措置として、以下の流れでの「要請」を明示しています。
① まずは新型コロナウイルス特別措置法45条1項の外出自粛の要請を行う。
② その状況を見極めたうえで、第1段階として同法24条9項による施設の使用制限の協力の要請を行う。
③ 正当な理由がないにもかかわらず施設が応じない場合に、第2段階として同法45条2項に基づく要請を行う。
④ 次いで同法45条3項に基づく指示を行う。 

特別措置法24条9項 公私の団体又は個人に対し、対策の実施に関し「必要な協力の要請」をすることができるとした規定。

45条1項 特定都道府県知事が定める一定の期間及び区域において、生活の維持に必要な場合を除きみだりに当該者の居宅又はこれに相当する場所から「外出しないこと等の協力を要請」することができるとした規定。
2項 特定都道府県知事が、一定の期間を定めて学校、社会福祉施設(通所又は短期間入所施設のみ)、興行場その他の施設管理者に対して、施設の「使用の制限や停止などの要請」をすることができる規定。
3項 正当な理由がないのに「要請に応じないとき」に、特に必要があると認めるときに限り、「当該施設管理者等に対し指示」することができるとした規定。
4項 要請や指示をしたときは「公表」しなければならないとする規定。 

■大阪府の手続き
大阪府も、この順番を踏んでいて、4月14日には特措法24条9項に基づいて、「施設の使用制限等の協力要請」を行い、なお営業を続けていた6店のパチンコ店に対して、特措法45条2項の「使用の制限や停止などの要請」に切り替え公表したものでした。今後、これにも正当な理由なく要請に応じないときは、さらに一段上の45条3項の「指示」がなされる可能性が出てきいます。

この動きに、大阪府で6店のうち2店は、翌日から休業要請に応じたことで「一定の効果があった」という意見の一方で、営業を続行した店舗の中には翌日の開店時に約300人が並んだ店もあり「開業店舗を知らせることでさらに客が集まり逆効果だ」との意見もあります。

■公表という制裁
店名公表は、行政指導などへの不服従の事実の公表になるが、情報公開を目的としているような情報提供としての公表と区別するために、「制裁的公表」と呼ばれることがあります。その目的は、公表によって世間の注目を集め、心理的に行政指導に服させ、または予めかかる制度を置いておくことによって行政指導の実効性を図ろうとするものであるとされています(塩野宏「行政法 1〔第二版増補〕」)。

こうした制裁的公表にも2種類あります。
ひとつは、なんらかの健康被害が生じた場合等に、それを摂取しないよう呼びかけるといった、国民の生命・健康や財産の安全等を保護するため、または被害の拡大を阻止する目的でなされる公表です。こうした公表は極めて慎重に、目的、方法、生じた結果などに配慮したものでないとなりません。かつてO-157集団食中毒事件で、国が「カイワレダイコン原因説」を公表したことがありましたが、不正確な公表であったとして、カイワレ業者が国に国家賠償を求めて勝訴した事件などがあります。

もうひとつは事業者が法律違反をした場合や行政指導・勧告等に従わない場合に、それに従わせるため、真に制裁の意味合いで行われるものです。今回のパチンコ店名の公表はまさにこれに当たります。

ただ、いまだに休業に応じない店舗があって、むしろ逆に客が群がっているということから、大きな物議になっています。この制裁に応じない業者に刑罰を加えるべきという意見も出てきています。しかし、特措法にはこれに対する刑罰規定はありません。 

■なぜ刑罰規定を設けなかったのか
こうした事態を受けて、今からでも刑罰規定の制定についての議論が国会で出てきています。なぜ、いままで刑罰規定がなかったのでしょうか。

事業者の場合、多くは法人などの組織で行われていますので、個人と違って刑務所などに入れる刑罰は無理なため、罰金などに限られてきます。ただ、これまでは、企業や事業者にとっては、罰金などの罰則よりも、「社会的評価」を低下させることにつながる公表をされるほうが、経営に深刻であり効果も大きいと考えられてきたからだと思います。社会から非難されてでも事業を続けることは、いまや厳しいことは一般の認識になっているからです。実際に、今回の要請で、大半の業者は自主的にこれに応じたのは、まさにそうした効果があったからだと言えます。

しかし、どうしても指示に従わないところが出てきている状況を見る中で、このまま放置して、どうみても三蜜の状況と思われるパチンコ店で、いつ大量感染が生じ、各地に広がるかもしれない緊急性を考えると、営業の自由よりも公衆衛生の必要性が上回るといえることから、より強制力のある規制の導入もやむを得ないのかもしれません。 

■業者側の意見
小規模パチンコ店と同じく、多くの中小企業や個人事業主は、長きにわたる休業や世の中の自粛は、死活問題に直結する事態に至っています。そのため数多くの経営悪化に対する救済策が、完全とは程遠いもののいくつか実施されてきています。その中で、セーフティネット保証に対応した制度融資「経営安定サポート資金(経営安定資金)」もありますが、これについて、Change.orgという、市民の声を発信するネット媒体において、「新型コロナウィルス感染症による企業の救済措置であるセーフティーネットから、ぱちんこ店が指定除外されているという職業差別の撤廃をお願いする陳情(請願)書」というのが挙がっています。

それによると、セーフティネット保証5号の対象となる業種について、3月6日に緊急的に40業種を指定したのに続き、同感染症により重大な影響が生じている業種として、316業種をセーフティネット保証5号の対象として追加指定したのにも関わらず、同じ風俗営業でも、バー、ナイトクラブ、ダンスクラブ、麻雀クラブなどは追加された中、パチンコ営業は除外されていると訴えています。職業差別と言われると気になります。融資策すら受けられない中小パチンコ店の苦境にも、少し耳を貸すべきか、パチンコという業種を社会の中でどう見ていくのか、考える時期でもあるかもしれません。

ただ、こうした中で、いまだに休業要請に応じずに堂々と営業を続ける店がある中では、いくらこうした苦境を主張しても、社会の賛同を得にくいのも事実かと思います。そうした意味でも、いまだに営業している店舗も自主休業をすべきかと思います。

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