生きがいラボ株式会社

部下の給与を決めるプレッシャー

20.11.17 | 人事制度【ノーレイティング】

米国のグローバル企業を中心に採用されているノーレイティングは、米国とは事情の違う日本の中小企業でそのまま導入するのは課題が多いと考えます。

私が考える米国型ノーレイティングの課題は、下記の3つです。

① ある程度は実力に見合う給与が支払われている必要がある
② 管理職に高いスキルが求められる
③ 本質的には給与の決定プロセスが変わっていない

前回は、1番目について解説しましたので、今回は2番目について扱いたいと思います。

■部下の給与を決定するプレッシャー

管理職が、その権限において部下の給与を決定するということは、部下が給与に不満を持っている場合には、その不満が管理職に向けられるということです。

管理職に対して、面と向かって不満を言う部下がいなかったとしても、管理職は「部下が自分の決定に不満を持つかもしれない」という恐怖心を抱きます。

従来型人事制度では、給与を決めるのは、あくまでも「給与制度」でした。

評価基準に基づいて「査定」をするのは管理職ですが、その査定結果に連動させて給与の「額」を決めるのは給与制度でしたので、良いか悪いかは別として、給与額に関しては、管理職は責任を感じる必要がなかったのです。

少しイジワルな言い方をすれば、管理職も部下と一緒に「ウチの給与制度は問題だ」と不満を言っていればよかったのです。

しかし、ノーレイティングではそれができません。部下の給与額を決めるのは、自分なのです。

もし部下が給与について不満を持ったならば、それは管理職である自分の意思決定への不満ということです。

このことはかなりのプレッシャーになりますので、米国型ノーレイティングでは、管理職にかかる精神的な負担が大きくなる場合があります。

 

■高いコミュニケーションスキルが求められる

精神的な負担とともに、もう一つ管理職に求められることは、米国型ノーレイティングでは管理職が非常に高いコミュニケーションスキルやコーチングスキル、フィードバックスキルを発揮することが成立の条件になっていることです。

米国型ノーレイティングでは、管理職と部下が高い頻度でコミュニケーションをとることを求めます。

そのことによって、部下の成長をサポートし、目標達成を支援し、給与額への納得性を高めることが目的です。

その目的には賛成なのですが、日本の中小規模の組織では、現場のプレイヤーとしては優秀であっても、マネジメントに関する知識やスキルに乏しい管理職がたくさんいます。

また、自分もプレイヤーとして動いている管理職ならば、部下とのコミュニケーションの時間を捻出するマネジメント力も必要となります。

したがって、いきなり米国型ノーレイティングを導入して、部下の給与決定の責任と、部下との高頻度のコミュニケーションを高いレベルで実施することを管理職に課すのは負担が大きいと考えます。

誤解のないように言っておくと、ノーレイティングよりも従来型人事制度の方が良いと言っているのではありませんし、管理職が部下の給与を決定することに反対なのでもありません。

それどころか、本来ならば、部下の給与額を決めるのは管理職であるべきだと考えていますし、そのためにもっと高頻度で部下とコミュニケーションをとることを促進すべきだと考えています。

しかし、現在の日本の中小規模組織の状況を考えた時に、部下の給与決定を管理職一人に担わせ、かつ部下との高頻度のコミュニケーションまで求めるのは負担が大きいと思います。

米国型ノーレイティングのコンセプトには賛成ですが、日本の中小規模の組織においては、方法の面で少し工夫が必要だと考えています。

 

次回は課題の3つ目をお伝えし、方法面での工夫については次々回でお伝えいたします。

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