大阪プライム法律事務所

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主権免除(国家免除)とは

21.01.30 | ニュース六法

「主権免除」という国際慣習法があります。国家は外国の裁判権から免除されるというものです。「国家免除」とか、「裁判権免除」とも呼ばれています。これが日韓関係をまた揺さぶっています。
元慰安婦らが韓国国内で日本国(日本政府)を被告にした訴訟で、この1月8日に、ソウル中央地裁は、原告の請求を全面的に認め、日本国に対して1人1億ウォン(約940万円)の支払いを命じる判決を言い渡しました。日本政府は、国家は他国の裁判権に服さないとする国際法である「主権免除」を理由に、「そもそも日本政府を訴えることができないために訴訟は却下されるべきだ」としていました。ソウル地裁はなぜこんな判決をしたのでしょうか。日韓友好を通常の状態に早く戻したいものですが、どう考えるべきでしょうか。(写真はソウル中央地方裁判所)

■日本政府の方針
日本政府は、そもそも国は裁判権に服さないとする以上、法廷に出頭して争うことも必要がないし、むしろ出廷するということは自ら裁判権に服することを意味するため、裁判自体は無視して、韓国政府に然るべき対応を求めていました。そして、判決に不服があっても、控訴をすることも裁判権に服することを前提になるので、それもできません。その結果、1月23日をもって確定しました。今後は日本政府の韓国内資産の差し押さえ手続きが焦点となりますが、両国間の緊張が再び高まるのは残念なことです。 

■韓国政府の動き
さすがに、文在寅大統領も、国際法上においてまずいと考えたのか、1月18日の記者会見で、判決に「困惑した」と述べ、さらに、慰安婦問題の「最終的かつ不可逆的な解決」とした2015年の日韓合意を「政府間の公式合意だ」とも確認しました。そして日韓協議を呼び掛け、外交を通じた問題解決も訴えました。今になって交渉を呼び掛ける韓国政府の姿勢には、日本側としては不満を感じるのはいたしかたないかと思われます。 

■主権免除にも例外がある
ただし、この話には少し厄介な面もあります。この主権免除が絶対的な原則かというと必ずしもそうではなく、免除には例外的な場合があるという考えもあるためです。この「主権免除」原則が国際法で確立したのは19世紀とされていて、主権国家が他の国家の裁判権に属することはないというこの原則は、かつてはすべての国家の活動に対して認められていました。しかし、その後、国家による営業的な活動(商業的取引行為)もされるようになってきてからは、そこまで免除を認めることは相当でないため、そうした一定の行為については免除しないという方向になってきています。

そうした一部制限については、国家の活動を「権力行為」と「職務行為」に分け、免除は「権力行為」についてのみ認めるとする考え方(制限免除主義)です。国際的には現在、こうした考え方が主流になってきています。

日本では、大審院時代の昭和3年12月28日の決定で、絶対的に免除とする判断を示してからは、長くそれが判例となっていました。ところが、最高裁判所第二小法廷が平成18年7月21日に下した判決(パキスタン政府に対して貸金請求を行った事件の判決)で、制限免除主義を採用しました。つまり、外国国家といえども、金銭の貸し借りといったような行為は、特段の事情がない限り、日本の民事裁判権から免除されないという判断をしたものです。この主義については、2010年より「外国等に対する我が国の民事裁判権に関する法律」が施行され、日本は制限免除主義を立法面で明確にしています。

今回のソウル中央地裁の判断は、こうした「主権免除」原則を、どう制限判断するかにありました。これについてソウル中央地裁は、「不法行為は主権免除の適用外」で、慰安婦問題は「反人道的犯罪」だとして、それには主権免除の原則は適用されないとしたのです。主権免除の例外の範囲が定まっていない部分が多いのに目をつけた判断だという感じがします。

実際にも、第2次世界大戦時にナチス・ドイツに強制労働をさせられたイタリア人が、ドイツ政府に損害賠償を求めた訴訟で、イタリアの最高裁が、2004年に国際人道法に対する違反行為は主権免除は適用されないとして原告勝訴の判決を出した例がありました。 ソウル中央地裁の裁判官には、この判決例が頭にあったのかもしれません。

■国際司法裁判所(ICJ)での過去の判断は日本有利
ただ、これについては、ドイツが国際司法裁判所(ICJ)に提訴した結果、ICJはイタリア最高裁の判決は国際法違反だとして、主権免除を認めました。今回のソウル中央裁判所の判決も、このICJの判断を前提にすれば、国際法違反となると思われます。

韓国の文在寅政権は、これまで日本政府との間での慰安婦合意を骨抜きにするなどして、日韓間の約束を踏みにじってきました。徴用工訴訟で損害賠償を日本企業に命じた判決でも対応を先送りしていますが、何とか努力をしてほしいものです。

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