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「タワマン裁判」国税側の勝訴確定!(最高裁)過度の節税にブレーキ

22.04.24 | ニュース六法

路線価に基づき算出した相続で、タワーマンションの評価額が市場価格より低すぎるとして国税当局が例外規定を適用し、追徴課税した処分の是非が、裁判所で争われていた訴訟で、最高裁第3小法廷は、4月19日に、国税の処分は「適法」という判断を示して確定しました。1審の東京地裁が令和元年8月27日に出てから、注目を浴び続けてきた訴訟も、国税側が3審とも勝訴で終わりました。

通常、国税庁では不動産の相続税での算定基準を「路線価」としていますが、実際の時価が路線価の約4倍の事案で、その時価を前提に課税した国税当局の処分が適法とされたものです。路線価は、通常は取引価格の8割程度のために、節税策として不動産を購入する人も多いのですが、そうした相続対策に大きな影響が出そうです。不動産を用いた過度な節税に警鐘を鳴らしたものと言えます。今後は、節税策として不動産を購入する場合、相続税の基準となる路線価と取引価格に大きな差があれば注意が必要です。

■この事案の内容
事案を要約すると、94歳で亡くなった男性が、亡くなる3年ほど前に東京都内と川崎市内のタワーマンション2棟を購入していたところ、その相続人は路線価などから2棟を「約3億3千万円」と評価し、銀行借り入れもあったので相続税額を「ゼロ」として国税側に申告していました。

しかし、亡くなった男性が購入した際の価格は2棟合計13億8700万円で、路線価の約4倍でした。国税当局の不動産鑑定でも評価は約12億7300万円で、路線価とはかけ離れていたのです。これに対して、国税当局は、路線価に基づく評価額が「著しく不適当」とされる場合は別途鑑定し評価額を決められるとする例外規定を適用して、相続人全体に計約3億円の追徴課税処分を行ったため、相続人らがその課税処分の取り消しを求めたのがこの裁判でした。 

■1審の東京地裁の令和元年8月27日判決
この判決では、「特別の事情がある場合には路線価以外の合理的な方法で評価することが許される」として、今回の事案は「近い将来に発生することが予想される相続で、相続税の負担を減らしたり、免れさせたりする取引であることを期待して実行したもの」と認定し、国税の主張する不動産鑑定の価格での課税が妥当と判断し国税の処分を適法とし、2審の東京高裁でも判断が維持されていました。 

■今回の最高裁第3小法廷判決
最高裁でも、国税当局の算定方法について「相続税の課税価格に算入される財産の価額について、評価通達の定める方法による画一的な評価を行うことが実質的な租税負担の公平に反するというべき事情がある場合には、合理的な理由があると認められるから、当該財産の価額を評価通達の定める方法により評価した価額を上回る価額によるものとすることが上記の平等原則に違反するものではない」と、最高裁としての初判断を示しました。その上で、本件では、相続税の負担軽減を意図して不動産の購入や資金の借り入れが行われ、実際に相続税額がゼロになったことなどを指摘した上で、「他の納税者との間に看過しがたい不均衡が生じ、租税負担の公平に反する」として例外規定の適用を認め、相続人側の主張を退け、国税処分を適法としました。 

■不動産の価格と相続課税とは
不動産は「一物五価」とも言い、実勢価格(時価)の他に複数の評価額が存在します。複数の評価額といいますと、以下の5方式が紹介できます。
(1)実勢価格(時価) 実際に売買されている相場の価格
(2)基準地価     都道府県が発表するもの(時価の約90%程度)
(3)公示地価     国土交通省が発表するもの(時価の約90%程度)
(4)路線価      国税庁が発表するもの(時価の約70~80%程度)
(5)固定資産税評価額 市町村が固定資産税を徴収するために定めた評価額(時価の約60%程度)

相続税法では、本来、相続財産の評価は時価によるとされています(相続税法22条)が、実務上では、全ての相続不動産に鑑定評価を義務づけると円滑な相続税申告の障害となるので、相続税財産評価基本通達に基づいて、
①土地は国税庁が毎年定める相続税路線価等(一部地域は倍率方式)で
②建物は都税事務所または各市町村が毎年納税者に通知する固定資産税評価額で
③土地の評価額と建物の評価額を合算して「相続税計算用の評価額」を算定する
こととされています。

■今回の事案での価額
今回の裁判での事案でも、相続人は、通常通りこれにもとづいて、路線価で不動産を評価して相続税の申告をしたところ、税務署が不動産鑑定業者に時価評価を依頼し、そこで出された高い鑑定評価額が「あるべき課税価格(時価)」であるとして、相続税を再計算し更正処分を行ったというものでした。

まるで、後出しじゃんけんではないのと思うような話ですが、その処分の根拠となったのは、上記通達の6項で、「この通達の定めによって評価することが著しく不適当と認められる財産の価額は、国税庁長官の指示を受けて評価する。」という規定があって、それが適用されたということです。

つまりは、本件各不動産を通達通り評価することは「著しく不適当」だから通達6項の定めを用いて鑑定評価額で評価したということについて、通常は余程のことがない限り正当な相続税の申告として認められる相続税路線価等に基づく評価額を否定し、追加で課税するのかが焦点でした。

ただし、今回のケースは、単に評価額が大きく離れているかどうかだけで判断されたのではなく、以下のような一連の行為をもって「特別の事情」とされ、こうした場合は、通達評価額と時価との乖離に乗じて節税するという対策はだめだとダメ出しをしたということだと思われます。特に個人的に思うのは、申告相続税額をゼロであったことが、あまりにも酷すぎると思われたのではないでしょうか。過ぎたるはなお及ばざるべきことを肝に銘じないとならないと思います。
①    取得価格との4倍もの乖離
②    相続直前であったこと
被相続人が不動産を取得したのは90歳を超えていて、相続開始の直前であったことから、節税目的の取引とみなされました。
③    短期に不動産売却をしていたこと
相続開始9ヵ月後に一部の不動産を売却していましたが、これも相続対策性を裏付ける事情になっています。その不動産については相続税申告時には価額を1億3366万円と評価していたのが、売却は5億1500万円でした。
④    銀行からの融資目的
銀行から融資を受ける際には、融資目的として、賃貸事業用不動産の購入ではなくて、単純に「相続対策」と記載されていたようです。

■困惑
原則があって、例外があるのはよくあることです。今回は、その例外が適用されたものですが、どんな場合に例外となるの明確な基準はありません。賃貸マンションの相続においては、路線価等に基づき評価しているケースは無数にあるはずですが、本件の判決は、それらとの税の均衡という観点では公平性を崩しているのではないのかな、という気がします。日常において、不動産購入を相続税対策として勧める税理士なども困惑していると思われます。

相続税の不当な税逃れ対策への課税ということでしたら、ある意味で当然なのかもしれませんが、正当な不動産投資をも萎縮させる可能性があります。国税当局は、単に勝訴したからいいというのではなく、国民に向かって「公平の基準」を明確にすべきだと思います。 

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