税理士法人SKC

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円の対米ドルレート下落

22.10.28 | 堺俊治の独り言的情報

マスメディアがまた見当違いな騒ぎ方をしています。 円が対ドル為替レート150円近くまで下落したことで、マスメディアは、日本経済がまるで大混乱になるような、はたまた大不況になるような、そしてハイパーインフレが始まるとでもいうような騒ぎ方をしています。そして日本をこんな状態にしたのは、安倍総理の経済政策が悪かったからで、国葬をしたのはやはり間違っていたとでも言いたいようです。

 今回の対ドル為替レートの急激な下落は、もう皆さんお分かりになっているように、米国の経済政策事情の為でしかありません。 米国(西欧諸国など金融引き締め状態の各国)が、コロナ禍対策で刷りまくったドルの回収をするため金利を上げているから、投資家は当然金利の高い方に投資資金を動かします。 日本政府はこの状況に、対ドル為替介入(外国為替市場介入)を実行しています。財務省によると、外貨準備金は日本円にして180兆円程を保有しており、そのうち預金は19兆円程度であるとされています。 ドル預金以外は米国債を所有しているという話で、すぐに介入に投入できるドルは預金分だけだということのようです。 そしてこの外貨準備金は、かつて対ドル80円というような円高局面で、ドル買いをした際などに購入したドルなのです。 ということは、少なくともこのドルの平均購入コストは、高くても100円前後ではないでしょうか。 今回為替介入時のドルの売却額が145円前後だとすれば、45%程度の為替差益を得るということになると思うのですが・・・。 今回の為替介入が3兆円程度とか言われていますから、為替差益は1兆5千億円近く出ていることになります。 為替介入すればするだけ為替差益が出るということになります。 恐らく、預金分のドルまでは米国も黙って介入させるかもしれませんが、米国債を売ってドル売りをするということになると、黙っていないでしょう。 日本政府が米国債を売れば、米国債の金利が上がり円安は余計に進むかもしれないという危惧もあります。 この件について、元財務相OBが、今回の為替介入を、米国政府が承認するとは思わなかったとか言っていましたが、この彼の弁によると、対米ドル為替介入には米国政府の許可がないと出来ないようです。 彼が言うには、米国政府は今回の為替介入を許可するに際して、日本政府に何らかの条件を付けた可能性もある、と発言していました。 同盟関係だから、何事も話し合うのは致し方ないことと思う反面、未だに敗戦国日本は、何事も米国政府の許可なしは出来ないのか、とも感じてしまいます。
 ところで、この対ドル為替レートによる為替差益は、外貨準備金に貯めておくだけにしないで、国家予算に組み入れられないのでしょうか。 この為替差益を流動化させるには相当の法的手続きが必要となるのでしょうが、この対ドル円安で生まれた資金を、国内投資に向けるべきではないかと思うのです。 そして、実は日本の大企業は、日本の長いデフレ状態の中で海外に活路を見出し、多くの資金を対外投資に積み上げられてきています。 それが、最近よく言われる「日本は負債を多く抱えているけど、それに負けないくらい多くの海外資産を所有している」という話につながります。企業が所有する海外投資資産も、売却すれば多額の為替差益が発生するはずです。企業の場合は、もちろん為替差益は自由に運用できるわけですから、内部留保しないですぐにでも国内投資に向けられるわけです。
 多くの日本企業は、長いデフレ経済の為、海外投資に向けていた資金を、これから国内の設備投資・研究開発に向けて大きく動き出すのではないでしょうか。そうして観ると、この対ドル円安レートは、日本経済の長いデフレ安定経済期間からの転換のきっかけになりそうな予感がします。そんなにうまくいくかどうかですが、この為替レートは製造業が海外での生産にシフトする意味を無くしてしまいます。単に海外生産の政治的リスクだけでの撤退の有無を判断するのではなく、コストパフォーマンスからも生産拠点の国内へのシフトへの判断が始まりそうです。 その傾向は、この9月の日銀短観の2022年度の設備投資計画が、全産業16.4%、製造業21.2%と過去最高の伸びにも表れているようです。
 お隣の国や、もう一つのお隣の国は、この1、2年は経済的混乱が続きそうで、中国共産党は台湾進攻どころではない中国経済の停滞が続くと予想できます(しかし独裁政権はそんな事態にこそ、国民の目をそらすために紛争を起こしたりもしますので、油断は出来ませんが)。 しかし日本においてはデフレ脱却どころか、飛躍的経済発展の大転換期のなるのかも知れません。政財界がこの機を大きなチャンスと捉え、為替差益からの余裕資金を、最先端半導体・核融合・インフラ整備などの原資として投入すれば、日本は2年後くらい後から、あらゆるテクノロジーにおいて、一気に世界の最先端に立つことも可能ではないでしょうか。そうなっていけば、停滞する中国や混乱するお隣との関係も自ずと良い方向へ向かいそうな予感がしますが、どこからか「それはあまりに楽観過ぎるだろう」との声が聞こえてきそうです。

 

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