大阪プライム法律事務所

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「子ども声がうるさい」公園廃止の衝撃

22.12.10 | ニュース六法

長野市にある「公園」が、「子どもの声がうるさい」といった苦情で、来年3月末をもって廃止になるというニュースが流れてきました。児童センターや保育園が隣接したこの公園は、2004年の開設以来、以前から隣接地に住む1軒の住民から「児童センターに迎えに来る保護者の車のエンジン音や公園で野球をして遊ぶ子供たちの金属バットの音がうるさい」「子供の声がうるさい」「夜に花火をやっていてうるさい」「午前中は遊ばせるな」「午後からの利用は一度に5人まで」などの苦情が続いていたということです。管理者は張り紙やルールづくりなどの対策をしてきたが、その結果として公園利用者が減少したことなどもあり、児童センターが公園の利用中止を決定し、その流れの中で長野市も公園の廃止を決定したということです。このニュースに対して、SNSなどで多くの賛否の声が上がっています。これについて法的な視点から考えてみました。(写真と本件記事の公園とは関係はありません)

■背景事情
日経新聞の記事をもとに、背景事情を読み取ると、ここは近隣に小学校や保育所などがあり、地元の要望を受け、市が民有地を借り上げて2004年4月に開設した公園とのことです。長野市によると、隣地の一住民が「毎日40~50人の子どもが一斉に遊び、騒がしい」「ボールを取りに来た子どもに庭の植栽を踏み荒らされた」などとして、大きな声や音への改善を要望したため、市側が公園の出入り口変更や遊具の移設など対応を重ねたが、解決には至らず、小学校などは利用を自粛したりして、遊ぶ子の数が大きく減ったようです。そうするうちに、昨年7月には、草むしりなどを担っていた地元有志が「遊べない公園の維持活動は続けられない」と市に相談し、かつて設置を求めた地元区長会も今年に入ってから廃止を要望したということです。つまりは、騒音をずっと毎日繰り返し聞いている住民の苦悩も斟酌しないとならない問題でもあり、「利用されなくなった公園に税金を使うことはできない」との判断もあっての流れと解されます。 

■気になる点
このような長い経過があって、ここで遊ぶ子どもが激減していたことが廃止に至った原因とのことです。利用者激減という廃止の理由は仕方がない面はありますが、そうなった原因は、隣地住民が隣接する児童センターに、「子どもは5人程度に。声を出さず静かに遊ばせてほしい」という要望がきっかけという話も伝わっています。
これが事実かどうかは分かりませんが、そういた要望は法的に応じる必要があったのかは、やや気になるところです。

■子どもの権利
日本も批准している「児童の権利に関する条約」(子どもの権利条約)には、31条で、児童がその年齢に適した遊び及びレクリエーションの活動を行い、並びに文化的な生活及び芸術に参加する権利を認めています。
また、近隣の苦情で子どもが公園で自由に遊べない問題を受けて、2013年に東京都千代田区で「千代田区子どもの遊び場に関する基本条例」が、2017年には神奈川県大和市で「大和市子どもの外遊びに関する基本条例」が施行されました。これら条例が求めているのは、「利用状況を勘案しながら」「可能な限り」自由に遊べるように「配慮する施策を推進すること」であり、市民に対して「施策に協力するように努めること」としています。 

■近隣住民の視点から
この問題を実際に居住して、日々騒音で悩まされている住民からすると、事案によっては深刻な問題でもあります。異常に過敏過ぎて、周りからすると騒音とも言えない場合まで神経質にクレームを言いつのる場合はどうかと思いますが、本当に我慢の限界を超える騒音を受け続けると、神経自体が病んでしまうような場合もあります。そういった生活環境侵害に対しては、不法行為として、加害行為の差止請求の根拠となります。 

■受忍限度論
ただし、人が社会生活をするうえで音を発することは避けられないことです。したがって、音を発することを一律に違法とはできません。そのために、社会生活上一般に受忍すべき範囲を超えて初めて違法とすべきであるとの考え方があり、これを「受忍限度論」と呼んでいます。つまりは、「受忍限度」を超える場合だけが違法なものとされています。これは、騒音問題に限らず、電波障害、日照阻害、悪臭等といった生活環境の侵害全般の紛争においての一般的法理として機能しています。
受忍限度を超える侵害か否かの判断については、状態、程度、被侵害利益の性質と内容、地域環境、行為の開始とその後の継続の経過、その間にとられた被害防止に関する措置の有無およびその内容、効果等、様々な事情を総合的に判断することとなります。

■ドイツの制度
参考にですが、ドイツでは、児童施設等への訴訟増加に対処するため、2011年に連邦イミシオン防止法(排出規制法に相当)という法律がありますが、これを改正し、子どもが発する音に対する賠償請求訴訟を原則認めないこととしました。これには、子どもが発するあらゆる声(話し声、歌声、泣き声、叫びなど)だけではなく、遊戯、運動、および施設の音、職員の声など全てが含まれています。日本でもこのような制度を導入する流れまでにはなっていませんが、ひとつの解決策でもあるかもしれません。 

 ■今回の教訓
今回の公園廃止問題は、「こどもの遊び声が騒音とは」とか、「たった一軒の声で廃止か」という驚きの声が出たことからネット上で紛糾しました。確かにそれだけの視点でみると異常なクレーマーのせいで、こどもの遊び場が奪われたように聞こえ、眉をひそめたくなるのもよく分かります。ただ、どうも経緯を詳しく知るにつけて、必ずしも話はそう簡単ではなかったのだという気がします。
子どもの健康な遊び場の提供による遊ぶ権利の保障と、静穏な日常を過ごす権利とは、場合によって衝突します。できうれば、それぞれの立場を尊重しながら、互いに理解し合う努力と、何らかの解決を図っていくための協議と歩み寄りは大切です。その話合いの場として、ADR(裁判外紛争解決機関)や民事調停などの活用などはもっとあっていいものと思います。

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