税理士法人SKC

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安倍晋三 回顧録

23.03.28 | 堺俊治の独り言的情報

 欧米の大統領や首相などのリーダーの回顧録はよく目にしますし、退任後や引退後に時を待たずに、そして当人が生存中に発刊されることが通常のようです。 しかし、我が国においては退任後すぐに回顧録が発刊されるという例はないようです。 この回顧録もあの日の暗殺がなければこんなに早く日の目を見ることはなかったことでしょう。安倍元総理大臣に回顧録のためのインタビューをしたジャーナリストの橋本五郎による前書きに、発刊までに至った事情が最初に記載されています。

 総理大臣の在任期間が7年9か月という、最長在任期間を第一次安倍内閣発足から丁寧に振り返っていくような構成になっています。私はこの回顧録を手にしたとき、どの時の安倍総理大臣の心境を聴いてみたいと思っているかを自分に問いかけてみました。 そうすると、病によって第一次の政権を手放したとき、そしてもう一度やろうという決意するまで、改憲が出来ないままで再度病のため退任に至ったとき、という様に私の中では浮かんできました。 総理大臣という我が国のリーダーとして、病のため引かざるを得ないという状況を、どのような心境で向かい合ったのか、現在私が癌という病のため、不自由な状態に置かれていることとでより興味を引いたのだと思います。 またやり残したことがどんなに大きくても、再度、一からチャレンジすることがどれだけ勇気がいることなのか、そしてその勇気は何処から生まれてきたものか、どんなに小さな組織であれ、その組織のリーダーとして責任を取ろうとしている者にとっては、とても興味を惹かれることではないでしょうか。
 安倍氏の逝去に対する世界中の首脳からの、死を惜しむ大きな反応で、安倍氏がいかに世界のリーダーたちにとっても掛け替えのない存在であったかが、予想以上に知らしめられることになりましたが、この回顧録を読むと安倍氏がいかに各国首脳の肝所を掴んでいたかがよく判ります。 安倍氏がトランプ大統領やプーチン大統領とどのようにして信頼関係を築いたのかが明らかにされています。 振り返れば安倍総理大臣がこの二人の大統領とまるで胸襟を開きあったかのような信頼関係の結果でしょうが、トランプ氏の大統領就任4年間には大きな国際紛争は起きなかったのです。 安倍氏が存命であったなら、恐らくウクライナ戦争も起こさないで済んだかもしれません。 前にも述べたことがありますが、私は安倍氏の人間力(仲介)で、ロシアと米国が完全和解し同盟関係さえ結ぶことが出来るのではないかと夢見たことがあります。 かの薩長同盟の様に、安倍氏に坂本龍馬の役割を夢見ていました。 今回この回顧録を通じて、安倍氏の人間力の大きさを改めて感じ、存命であれば私の夢もまんざらではなかったのではないかと思わせられました。
 安倍総理大臣としての自分の信条(志)を貫こうとしている様子が伝わります。 安倍氏は山口(長州)出身であるだけに、吉田松陰から多くを学んでいるといわれます。 吉田松陰に「志を立てて以て 万事の源と為す」という言葉がありますが、安倍氏には明確な国家観(志)があり、そこから大きくぶれることがなかったようです。 そして岸信介(祖父)、佐藤栄作(叔父)、安倍晋太郎(父)の政治家としての生きざまからも多くを学んだことで、周りを引き付けずにはおかないような人間力を身につけられたのでしょう。
 そしてこの回顧録からは、日本人の特質ともいえる謙虚さの重要性を、安倍氏の創り出した人間関係からから感じることが出来ます。 安倍氏に直接関わったことがある方々からよく聴くのは「安倍さんは上下関係なくフラットにフランクにかかわってくれる」という言葉です。 総理大臣だから偉いわけでなく、ましてや議員だから偉いわけではない、総理大臣、そして議員は日本国民から委嘱を受けたその任を全うするだけという有様が、安倍氏からはよく伝わります。 平たく言えば「偉そうにしない」「マウントを取ろうとしない」「上からものを言わない」「ポジション(メンツ)を守ることばかりしない」(これとは逆な議員がどれだけ多いか!)。 リーダーにとって大切なことは問題解決を最優先すること、そのためにこそ多くの部下やブレーンとの人間関係が大切になります。 知恵を借りなければならないし、代わりに動いてもらわなければならないこともあるし、責任をかぶってもらわなければならないことだってあります。 安倍氏の謙虚さやブレない聡明さによって、多くのブレーンが親身になって協力し、持てる能力を十二分に発揮していたことが感じ取れます。
 面白く読めるのは、安倍氏の各国首脳との駆け引きや、国際交流の舞台裏の話です。 それから、安倍氏がトランプ氏やプーチン氏等の各国首脳をどの様に観ていたのかなど、各首脳に対する評価も興味深く読みました。
 この回顧録が、どの程度真実を回想できているのかは知る由もありませんが、日本の舵取りを預かったひとりの総理大臣の7年9か月がどのようなものであったかを少しでも知ることで、私はひとりの経営者として、リーダーの在り方の一端を学ぶことが出来ましたし、そして大事なことは、我々は次の総理大臣に、どんな人物を選ぶことが出来るのかです。 私は、総理大臣という我が国のトップリーダーに任せている役回りの重大さに、改めて気づかされる思いでした。

 

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