大阪プライム法律事務所

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宇奈月温泉と「権利の濫用」

23.04.24 | ニュース六法

4月初めに、北日本新聞社や富山新聞社などのサイトに “宇奈月温泉、開湯100周年を記念して「権利ノ濫用除お守り」を制作!”(北日本新聞)、“宇奈月温泉開湯100年記念に権利濫用除お守り 木管事件の舞台周知”(富山新聞)という、一般社団法人黒部・宇奈月温泉観光局が制作した商品の記事が掲載されていました。以下は、その記事の引用です。

(以下「北日本新聞記事」引用文)
法学部生なら誰もが知っている、民法の聖地「宇奈月温泉」に新ジャンルのお守りが登場!
富山県黒部市にある「宇奈月温泉」は2023年、開湯100周年を迎えます。(一社)黒部・宇奈月温泉観光局(代表理事:川端康夫)はこれを記念して、「宇奈月温泉木管事件」をモチーフとした、「権利ノ濫用除お守り」を企画しました。4月8日(土)、宇奈月神社となりの黒部市芸術創造センターにて授与を開始します。

ここに、「法学部生なら誰もが知っている、民法の聖地「宇奈月温泉」」というフレーズが出てきます。これは、かつて、この地で発生した裁判事件で、当時の大審院(今の最高裁の前身)が下した超有名な裁判例「宇奈月温泉事件判決」のことを指しています。一言で言うならば、「権利濫用は許されない」というもの。どんな事件か解説します。

■宇奈月温泉に実際に訪れたときに、見渡してみたのですが、温泉地のどこにもこの事件を記念するような形跡が無かった記憶があります。タクシーを飛ばして山の方に行くと記念碑があるということですが、3000円くらいかかるのでやめました。源泉と温泉街とをつないでいた木管にかかわる件ですから、碑が温泉街にはないのは仕方がないのかもしれませんが、多くの法学学徒を少しだけがっかりさせてきたのが、今回の土産品販売で少し変わるかもしれません。
■宇奈月温泉事件とは
「宇奈月温泉事件」とは、富山の宇奈月温泉で起きた民事裁判の事件です。大審院が昭和10年に下した判決で「権利濫用」について明確に判断した、民法解釈上極めて重要な判例となっています。
宇奈月温泉は、7.5km先にある黒薙温泉から、地下に埋設させた木製の引湯管を使って、温泉を引いていました。この木製の引湯管は、大正6年に、埋没させる土地の利用権を獲得して工事をしてようやく完成させたものでした。しかし、この管は、途中で利用権を得ていなかった2坪分だけの土地を経由していました。その土地は、ある人物の所有する112坪の土地の一部でしたが、その土地は急傾斜地であって、それ自体は全く利用価値のない土地でした。

その後、そのわずかな部分の利用権を取得していないことを知った原告が、その土地と隣接地(急傾斜で利用しにくい土地)を買い取り,管の無断通過は所有権侵害であるとして撤去を要求し、嫌なら周辺地あわせて約9,900㎡を地価の数十倍の価格で買えと求めたのでした。相手が拒否したため、原告が土地所有権に基づき木管の撤去請求訴訟を起こしました。1審と2審は、原告の請求を棄却したため、原告側が大審院に上告しました。

■大審院判決(昭和10年10月5日)「権利の濫用」で要求を認めず
一言で言うと、こんなあくどい請求は、所有権の目的に反するものであり、権利の濫用であって権利行使が認められないとしたのでした。
■権利があることを笠にきて、他人を困らせている人も多くいます。この権利濫用禁止法理は、そういった者に対して効くものとも言えます。ただ、実際にこれが裁判で認められるかというと、非常に厳しいのが現実です。裁判で被告になった側が、「原告の請求は権利の濫用だから請求棄却すべきだ」という主張を出してくる場合がありますが、ほぼその主張が認めらえることはありません。弁護士の間では、こういうのは「権利濫用法理の濫用」と言っています。裁判はなかなかむつかしいものです。

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