大阪プライム法律事務所

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あなたも「二重課税」されていませんか?

10.07.10 | ニュース六法

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年金形式で受け取る生命保険金に関して、相続税に加えて、さらに受け取るたびに所得税を課すのは「二重課税」かどうかが問題となった訴訟で、2010年7月6日に、最高裁は、「違法な二重課税で所得税課税は許されない」との初めての判断を示しました。課税の「過払い」を認定したわけです。
こうした年金タイプの生命保険は、多くの方々が掛けておられ、実際に二重課税をされていた方も、かなり多いと思います。課税の見直しを含め、大きな影響が出そうです。・・・(写真もしくは「続きを読む」をクリックして本文をお読みください)

 

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年金形式で受け取る生命保険金に関して、相続税に加えて、さらに受け取るたびに所得税を課すのは「二重課税」かどうかが問題となった訴訟で、2010年7月6日に、最高裁は、「違法な二重課税で所得税課税は許されない」との初めての判断を示しました。課税の「過払い」を認定したわけです。

こうした年金タイプの生命保険は、多くの方々が掛けておられ、実際に二重課税をされていた方も、かなり多いと思います。課税の見直しを含め、大きな影響が出そうです。

 

主婦の疑問から出発

この裁判の原告となった長崎市の主婦は、8年前に亡くなった夫が加入していた年金特約付き生命保険に関して、最初に、10年間受け取る予定の総額2300万円について「相続税」が課されました。しかし、その後10年間にわたって年金として毎年230万円が遺族に支払われるものにも、さらに「所得税」が別に課せられたのでした。生命保険金を全額一括で受け取った場合は、相続税だけが課され、所得税は課されないのに、年金形式にしたら所得税課税も生じたわけです。

この主婦は、「なぜ、相続税のほかに所得税も課せられるのか、おかしい」と疑問に感じました。そして、今から5年前に、このような課税は、法律で禁じられた「二重課税」に当たると、国に課税の見直しを求めて訴訟を起こしたのでした。

二重課税の禁止

所得税法は二重課税を防ぐため、相続財産には所得税を課さないと規定しています。つまり、同法第9条で、「相続、遺贈又は個人からの贈与により取得するもの(相続税法の規定により相続、遺贈又は個人からの贈与により取得したものとみなされるものを含む)」には所得税をかけないと規定しているのです。

この規定を普通に読めば、一時金であろうが年金の形であろうが、相続税法で遺産とみなされた保険金には、さらに所得税はかけられない、としか読み取れません。

国税当局の解釈

しかし、国税当局の解釈は、以下のようなものでした。

「『保険金』とは保険金請求権を意味し、年金形式の場合は年金受給権が保険金に当たる。毎年受け取る保険年金は受給権そのものではなく、年ごとに受給権から発生する別種の債権(支分権)であるから、保険金には当たらない。」

これを、分かり易く言い直せば、「年金方式で毎年受け取る保険金は相続財産とみなさない」との意味なのですが、なぜそうなるのかは、法律を専門とする私でも、何度読み直しても、よく分かりませんでした。しかし、国税当局は、この解釈に従って、長年にわたって所得税も課税してきたのでした。

最高裁の判断

1審は、二重課税に当たるとして訴えを認めましたが、2審は逆に訴えを退け、裁判所の判断が分かれ、最高裁判決が注目されていました。最高裁は、この国税当局の解釈を否定し、この主婦への所得税課税は「二重課税の禁止」に反し許されないとして、主婦に軍配を上げました。極めて分かりやすい判断がなされたと言えます。

大きな影響

今回の判決は金融商品に広く関連するもので、その課税に大きな影響が及ぶものと思われます。今回と同種保険の契約数だけでも、少なくとも数百万件に上り、遺族の受給件数は数万件とのことです。同種保険以外でも、今回と同様に二重課税となるケースも多々あると思いわれます。この影響は計り知れません。

国は、この最高裁判決を受けて、今回の訴訟対象となった年金型生命保険について、請求を前提として、過大に徴収した所得税を還付する方針を表明しました。そして、還付の時効となる過去5年を超す分についても救済を検討するようです。さらにはよく似た保険商品にも、同じように還付を広げることも視野に入れて検討するようです。

変わる行政訴訟

租税訴訟をはじめ、国民が行政を相手に起こす行政訴訟は、これまで、行政に広い裁量権を認め、行政が積み重ねた既成事実を尊重して、裁判所は、これを覆すのに消極的な傾向がありました。租税訴訟の場合は、さらに、裁判を起こす前に、国税庁内の国税不服審判所の裁決手続きを経なければならず、国民にとって乗り越えるバーは高いものでした。しかし最近の司法改革の流れを受け、租税訴訟を含めた行政訴訟で、国民の権利救済を優先した判断が増えてきています。

「おかしい」と思った場合は、ぜひ、決然と争ってみられることをお勧めしたいと思います。
 

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