大阪プライム法律事務所

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勤務先を退職した従業員の競業行為

10.04.11 | ニュース六法

会社を退職した従業員が、新しく会社を起こして、元の会社の事業と競合する仕事を始めて、元の会社とトラブルになるケースは多くあります。こういった紛争について、最高裁判所第一小法廷が、平成22年3月25日に、一定の事実関係のもとでは、そういった行為は、社会通念上自由競争の範囲を逸脱した違法なものということはできないという判断を示しました。今後、こういった紛争を判断する方向性が示されたものとして、注目されます。・・・(続きを読むをクリックして本文をお読みください)

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会社を退職した従業員が、新しく会社を起こして、元の会社の事業と競合する仕事を始めて、元の会社とトラブルになるケースは多くあります。
こういった紛争について、最高裁判所第一小法廷が、平成22年3月25日に、一定の事実関係のもとでは、そういった行為は、社会通念上自由競争の範囲を逸脱した違法なものということはできないという判断を示しました。今後、こういった紛争を判断する方向性が示されたものとして、注目されます。

 

■事案の内容(平成22年3月25日最高裁第一小法廷判決)

X社は,産業用ロボットや金属工作機械部分品の製造等を業とする従業員10名程度の株式会社であり,Yらは営業や製作等の現場作業を担当していました。双方の間では退職後の競業避止義務に関する特約等は定めていませんでした。

Yらは、X社を退職して共同で工作機械部品製作等に係るX社と同種の事業を営むことを計画し,資金の準備等を整えて退職し、休眠会社を用いて事業を始めました。

その後Yらは,X社勤務時に営業を担当していた取引先に退職のあいさつをし,退職後に同種の事業を営むので受注を希望する旨を伝えたりした結果、仕事を受注するようになりました。このような取引先に対する売上高は,Yらの会社の売上高の8割ないし9割程度を占めるまでになりました。

Yらは、こういった競業行為をしていることをX社代表者には告げていなかったが、同代表者は,その後知るに至りました。そして、X社は、これによって損害を受けたとして、Yらに対し、損害賠償を請求して提訴しました。これについて、名古屋高等裁判所は、本件競業行為は,社会通念上自由競争の範囲を逸脱したものであり,Yらによる共同不法行為に当たるとして、損害賠償を命じましたが、Yらはこれを不服として最高裁判所に上告していました。

■最高裁の判断

この事件について、最高裁判所第一小法廷は、平成22年3月25日に、諸事情を総合すれば本件競業行為は、社会通念上自由競争の範囲を逸脱した違法なものということはできず、X社に対する不法行為に当たらず、信義則上の競業避止義務違反があるともいえないという判断をして、Yらが勝訴しました。

最高裁判所の判決理由では、以下のような諸事情を総合すれば、本件競業行為は、社会通念上自由競争の範囲を逸脱した違法なものということはできず、X社に対する不法行為に当たらないし、信義則上の競業避止義務違反があるともいえないとしました。

(1)Yらは、退職のあいさつの際などに本件取引先の一部に対して独立後の受注希望を伝える程度のことはしているものの、本件取引先の営業担当であったことに基づく人的関係等を利用することを超えて、X社の営業秘密に係る情報を用いたり、X社の信用をおとしめたりするなどの不当な方法で営業活動を行ったことは認められない。

(2)本件取引先のうち3社との取引は退職から5か月ほど経過した後に始まったものであるし、退職直後から取引が始まった取引先については、X社が営業に消極的な面もあったものであり、被上告人と本件取引先との自由な取引が本件競業行為によって阻害されたという事情はうかがわれないし、X社の営業が弱体化した状況を殊更利用したともいい難い。

(3)代表取締役就任等の登記手続の時期が遅くなったことをもって、隠ぺい工作ということは困難である。

(4)退職者は競業行為を行うことについて元の勤務先に開示する義務を当然に負うものではないから、Yらが本件競業行為をX社側に告げなかったからといって、本件競業行為を違法と評価すべき事由ということはできない。

(5)Yらが、他に不正な手段を講じたとまで評価し得るような事情があることもない。

■注意点

これは元の従業員が競業行為をした場合において、社会通念上自由競争の範囲を逸脱した違法なものということはできない一つのパターンを示したものです。したがって、どんな場合でも自由に競業行為が出来るというものではありません。独立開業を考える際には、こういった点をよく注意し、弁護士とも相談されることをお勧めします。
 

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