大阪プライム法律事務所

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「やらせ食べログ」は違法?

12.01.13 | ニュース六法

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新年早々の1月4日に、「食べログ」というグルメサイト(カカクコムグループ運営)で、自由に投稿できることを悪用した業者によって「やらせ評価」が行われていたことが、日経新聞などで報道されました。テレビでは、モザイクのかかった飲食店主が、やらせ食べログを書いてもらったことを反省していました。

カカクコムでは昨年末時点で39業者を特定し、評価システムの改良など対策を強化し、悪質な業者に対しては法的措置も検討するとしています。しかし、どこまで可能なのでしょうか。法的な問題点を含めて考えてみました。

 

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2012年1月4日 日本経済新聞(電子版)記事~ 「食べログ」にやらせ投稿 カカクコムが法的措置も
『価格比較サイト大手、カカクコムが運営する人気グルメサイト「食べログ」で、金銭を受け取って飲食店に好意的な口コミを投稿するなどし、ランキングを上げようとする「やらせ業者」が水面下で活動していることが4日、分かった。同社は昨年末時点で39業者を特定。評価システムの改良など対策を強化し、悪質な業者に対しては法的措置も検討する。
関係者によると、やらせ業者は飲食店への訪問や電話などで食べログへの口コミ投稿を「営業」しているもよう。カカクコムは昨年1月からこうした業者を把握し、事実確認やサイト内で注意を呼びかけてきた。

食べログは利用者が投稿した飲食店への評価などを集計し、5点満点で点数を表示するほか、店に関する口コミなども紹介する仕組み。カカクコムは独自の評価システムを導入して不自然な投稿を排除したり、担当者による口コミの内容確認なども進めたりしているが「やらせ投稿を完全になくすのは難しい状況」(同社)という。
同サイトは昨年11月の利用者が約3200万人で、グルメサイトとしては国内最大規模。同社は今後も自社での対策を強化するほか、行政などと連携し不正行為の防止を徹底したい考えだ。』

食べログとは
このサイトのコンセプトは、「ランキングと口コミで探せるグルメサイト」。レストランのユーザー及びレビュー代行業者による5段階の評価が掲載されています。2005年3月にサービスが開始され、日本全国の飲食店が記載されていて、ユーザーはアカウント作成すると、これらレストランの口コミ情報や画像の投稿ができるようになっています。口コミの採点は、「料理・味」「サービス」「雰囲気」「コストパフォーマンス」「酒・ドリンク」の5つの項目で行います。5点満点中3点が基準点とされています。

この手のサイトは、どこまで信用できるんだろうかという不信は感じていました。しかし、それでも初めていく店の選定においては大きな判断材料になっていたのも事実です。レストラン側にしてみたら、それで売り上げに影響が及ぶとしたら、採点は非常に気になるところです。また、やらせ業者はレストランへの訪問や電話などで口コミ投稿を「営業」していたとのことですから、勧誘されたら、つい乗ってしまうこともありなんとは思います。

法的に何が問題になるか
このケースでは、優良誤認を誘う表示の規制を定めた不当景品表示法違反(虚偽広告)が考えられます。また、故意で悪質な場合は、運営会社に対する刑法の偽計業務妨害罪が問題になるかとも思います。こういった虚偽の書き込みのために信頼性を失いかねない事態に対して対応を迫られたことで、サイトの運営会社の本来の業務が妨害されたというものです。(なにやら、以前の大学入試カンニング事件を思い出します。)

「食べログ」やらせ投稿、消費者庁が調査開始
この問題について、山岡消費者相は1月6日の閣議後の記者会見で、景品表示法に基づき、消費者庁が調査を始めたことを示しました。同法は、業者に対し、虚偽広告や広告の不当表示を禁じています。同庁は同社のほか、口コミの投稿を請け負う業者や飲食店に事情を聞くなどするそうです。山岡消費者相は「著しく優良、と消費者に誤認されるなら、不当表示として問題になり得る」と述べました。(2012年1月6日 読売新聞)

景品表示法違反について(口コミも違反になり得るか?)
消費者庁が景品表示法違反の可能性を示しましたが、同庁は、昨年10月28日に、「インターネット消費者取引に係る広告表示に関する景品表示法上の問題点及び留意事項」を公表しています。
ここではネットを介した多くの欺瞞的な販売手法が明示されていますが、その中で、いわゆる「口コミ」情報を掲載するインターネット上のサイト(ブログや、口コミ情報を書き込める旅行やグルメのサイトを含む)についての問題点も、以下のように明記されていました。

○商品・サービスを提供する事業者が、口コミサイトに口コミ情報を自ら掲載し、又は第三者に依頼して掲載させる→当該事業者の商品・サービスの内容又は取引条件について、実際のもの又は競争事業者に係るものよりも著しく優良又は有利であると一般消費者に誤認されるものである場合には、景品表示法上の不当表示として問題となる。

○事業者は、当該口コミ情報の対象となった商品・サービスの内容又は取引条件について、実際のもの又は当該商品・サービスを供給する事業者の競争事業者に係るものよりも著しく優良又は有利であると一般消費者に誤認されることのないようにする必要がある。

その上で、消費者庁は、「問題となる事例」として、以下のようなケースをあげています。

(1)飲食店を経営する事業者が、グルメサイトで、自店について、「このお店は△□地鶏を使っているとか。さすが△□地鶏、とても美味でした。オススメです!!」と口コミ情報を自ら掲載。実際には、△□地鶏を使用していなかった。

(2)広告主が、ブロガーに依頼して、「△□、ついにゲットしました~。しみ、そばかすを予防して、ぷるぷるお肌になっちゃいます!気になる方はコチラ」という記事をブログに掲載させる。実際には、しみ、そばかすを予防するなどの効果に十分な根拠がなかった。

今回の事例ではどうか
消費者庁が公表したこの問題点と留意事項をもとに、今回の事例を考えた場合、どうなるでしょうか。「やらせ業者」に対して事実と異なる「ヨイショ」とみられるコメントの掲載を依頼したような場合は、景品表示法上の不当表示を自らが行ったとなるかと思われます。しかし、故意的に虚偽の内容を記載させるわけではなくて、「料理・味」「サービス」「雰囲気」などといった、非常に個人差の大きい感覚的な部分での好評価記載を依頼したような場合まで、上記の「問題事例」に当たるかとなると、極めて微妙で難しい点かと思います。

ステルスマーケティング (Stealth Marketing) について
これは、消費者に宣伝と気づかれないように行う宣伝をいい、略して「ステマ」とも呼ばれています。公告宣伝の分野では、こういった手法が用いられることが多くなっています。悪く言えば、サクラ、おとり、やらせ広告です。

例えば、一見すると客観的な記事を装ってはいるが、内実は広告であるようなものは、昔からあるように思います。最近では、影響力のあるブロガーが報酬を得ながら、そのことは隠して、第三者的な立場で特定の製品についていい評判を書き込むことがこれに当たると言われています。しかし、これでは、これを信じて購買行動に出る消費者の側からすると、適正とは言えない商品情報を提供して消費者の判断を誤らせる行為です。極めて問題の多い広告手法ではないかと思います。場合によっては、景品表示法に反する場面もありえます。ただ、企業とこういったブログガーとの関係性は分からないことが多いため違法性の判断はかなり困難です。

企業のコンプライアンスの見地から、「マーケティング倫理」として意識して抑制をはかること、消費者はこういった広告を行う企業の行動を監視し、これに反する広告活動をする企業は市場から排除する意識を持つことが必要かと思います。しかし、それだけではやはり防げない場合はあると思います。

米国の規制
実は米国では、この点について明確な指針を示していることが、消費者庁の前述のガイドラインの中で、次のようにわざわざ明記されています。

『米国では、連邦取引委員会(FTC)が2009年12月に「広告における推薦及び証言の使用に関するガイドライン」を公表しており、この中でFTCは、広告主からブロガーに対して商品・サービスの無償での提供や記事掲載への対価の支払いがなされるなど、両者の間に重大なつながり(material connection)があった場合、広告主のこのような方法による虚偽の又はミスリーディングな広告行為は、FTC法第5条で違法とされる「欺瞞的な行為又は慣行」に当たり、広告主は同法に基づく法的責任を負う、との解釈指針を示している。』

サクラ
「男はつらいよ」の映画で、渥美清演じる寅さんが、サクラを使って商品を大量にさばくシーンがあったりして、観客の爆笑をよんでいました。そういった時代のサクラは、まだ牧歌的な雰囲気があって、目くじらを立てるほどでもなかったかもしれません。しかし、現代はインターネットを通じたサクラであり、そこには、大量の被害が生じうるところです。消費者も賢くならないとなりませんが、一定の規制も検討を重ねて行くべきかと思います。

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