大阪プライム法律事務所

大阪プライム法律事務所

ピンク・レディーの「女性自身」事件

12.02.11 | ニュース六法

"

ピンク・レディーが週刊誌の「女性自身」を訴えた事件で、最高裁判所が「パブリシティー権」に関して初めての判断を示しました。
 
この事件は、ピンク・レディーの二人が、「女性自身」に写真を無断掲載され、「パブリシティー権」を侵害されたとして、光文社を相手に損害賠償を求めたものです。その上告審で、2月2日に、最高裁は初めて「パブリシティー権」の定義をした上で、一定の場合にはその侵害が損害賠償の対象になるとしました。ただ、ピンク・レディーの上告は棄却し、二人は敗訴しました。

「パブリシティー権」とは、何でしょうか?
"

"

パブリシティー権とは
一般に、著名人が自分の氏名や肖像から生じる経済的利益を独占できる権利とされています。
 
芸能人やスポーツ選手などの著名人が、企業のCMに出ると、顧客の注目を集めて商品の販売促進につなげる効果があります。こういった著名人が持つ「顧客吸引力」は他人に利用されず、自身が独占できる権利だというのがパブリシティー権です。この権利の考え方は、米国で発達しましたが、法律に明文はありませんでした。このために、今回の最高裁の判断が注目されていました。
 
どのよう記事であったのか
今回、「女性自身」で掲載されたのは、平成19年2月13日に発売されたもので、ピンク・レディーの振り付けをまねてダイエットするという記事で、ステージ写真など14枚が掲載されました。
 
この部分を、最高裁の判決文を読む限りでは、平成18年秋頃、ダイエットに興味を持つ女性を中心として,ピンク・レディーの曲の振り付けを利用したダイエット法が流行したため、被上告人(光文社)は、週刊誌「女性自身」の16頁~18頁に、「ピンク・レディー de ダイエット」と題する記事を掲載しました。その記事は、解説者たるタレントがピンク・レディーの5曲の振り付けを利用したダイエット法を解説し、そこに14枚のピンク・レディーの白黒写真が使用されていたというものです。もう少し具体的に言うと、記事の見出しの上部に、歌っているピンク・レディーの写真1枚、振り付けを利用したダイエット法の解説記事に加えて、歌っているピンク・レディーの写真を1枚ずつ、また「本誌秘蔵写真で綴るピンク・レディーの思い出」という見出しの下にも載せて、全部で計14枚載せていたようです。
 
最高裁第1小法廷(桜井龍子裁判長)での判決
■定義:パブリシティー権について次のように述べています(要約しています)。
「人の氏名、肖像等は、個人の人格の象徴であるから、当該個人は、人格権に由来するものとして、これをみだりに利用されない権利を有すると解される。
そして、肖像等は、商品の販売等を促進する顧客吸引力を有する場合があり、このような顧客吸引力を排他的に利用する権利(=「パブリシティ権」)は、肖像等それ自体の商業的価値に基づくものであるから、上記の人格権に由来する権利の一内容を構成するものということができる。」
 
■侵害が違法となる場合について
「他方,肖像等に顧客吸引力を有する者は、社会の耳目を集めるなどして、その肖像等を時事報道、論説、創作物等に使用されることもあるのであって、その使用を正当な表現行為等として受忍すべき場合もあるというべきである。
そうすると、肖像等を無断で使用する行為は、
①肖像等それ自体を独立して鑑賞の対象となる商品等として使用し、
②商品等の差別化を図る目的で肖像等を商品等に付し、
③肖像等を商品等の広告として使用するなど、専ら肖像等の有する顧客吸引力の利用を目的とするといえる場合に、
パブリシティ権を侵害するものとして、不法行為法上違法となると解するのが相当である。」
 
もう少し分かりやすく言うと・・
この最高裁の判決は、パブリシティー権の根拠を、人格権に由来する権利の一内容と明言し、権利侵害に当たる三つの判断類型を明示し、一方で『正当な表現行為として、著名人側も受忍すべき場合がある』とし、表現の自由にも配慮したものとなっています。
 
もう少し解説すると、人の名前や肖像などは、人格の象徴ですから、これをみだりに他人に利用されない権利を持っていて、特に、有名人の肖像などは、商品販売などで顧客を引きつける力まで持っている場合があります。このような吸引力を、他人から邪魔されないで利用する権利が「パブリシティ権」であって、肖像等それ自体の商業的価値に基づくもので、人格権に由来する権利の一内容を構成するものとしています。
 
(実は、この権利の法的性質について争いがあり、人格権説、財産権説、折衷説など、いろいろ学説がありましたが、最高裁のこの判決は、人格権といいつつも、その商業的価値に基づくものとも言っているので、財産権的性格も持っていると言っているのだろうと思います。)
 
ただ、他方で、こういった有名人については、報道その他の表現の自由保護の点からして、一切写真等を使ってはいけないというのも問題があります。このため、最高裁は、一定の場合を例示して、その場合は、その使用が権利侵害として違法になるとしたのです。
その一定の場合を、分かりやすく言うと、次のようなことになります。
(1)ブロマイド写真など肖像自体を鑑賞の対象として使用する場合
(2)キャラクター商品のように、商品の差別化を図る目的で使用する場合
(3)商品などの広告として使用する場合
 
今回のケースでの結論は
最高裁は、以上の定義と侵害事例をを元に考えると、今回の写真掲載は、「ダイエット記事に関する記事の内容を補足する目的で使われたもので、顧客吸引力の利用を目的するものではない」として、出版社の賠償責任を否定しました。
 
なお、これは5人の裁判官の全員一致の結論でしたが、金築誠志裁判官は、結論は同じでしたが、補足意見を述べています。
 
パブリシティ権を巡る紛争
パブリシティ権を巡っては、これまで多くのケースが、下級審で争われてきました。有名なところだけでも、以下のようなものがあります。
 
〇マーク・レスター事件(東京地裁昭和51年6月29日判決)
英国の子役俳優マーク・レスターの出演映画「小さな目撃者」のワンシーンが、商品と映画を合わせて宣伝するタイアップ方式により、マーク・レスターの承諾を得ることなくテレビコマーシャルに利用されたことについて、不法行為による損害賠償請求の訴えを提起した事案
〇光GENJI事件(東京地裁平成元年9月27日判決)
光GENJIのメンバーの氏名・肖像を無断で使用した商品を製造・販売していた業者になされた販売禁止等の仮処分命令の決定に対して、その業者がその取消しを申立てた事案
〇おニャン子クラブ事件(東京高裁平成3年9月26日判決)
おニャン子クラブのメンバーが、その氏名・グループ名・肖像が掲載されたカレンダーが無断で販売されたことに対して、販売業者に製造販売の差止及び廃棄、損害賠償を請求した事案
〇キング・クリムゾン事件(東京地裁平成10年1月21日判決、控訴審:東京高裁平成11年2月24日判決)
ロックグループのキング・クリムゾンのリーダーが、グループ構成員の肖像写真やレコード等のジャケット写真を多数掲載した書籍が無断で使用された書籍「キング・クリムゾン」が出版されたことに対して、不法行為に基づく損害賠償及び書籍の印刷・販売の差止め,廃棄を請求した事案
〇中田英寿事件(東京地裁平成12年12月25日判決)
中田英寿選手の生立ちを著述した書籍を出版・販売した業者に対して、パブリシティ権を侵害することを理由に、当該書籍の販売の差止等及び損害賠償の請求をした事案
〇ダービースタリオン事件(東京高裁平成14年9月12日判決)
競走馬の育成シミュレーションゲームとして有名であった「ダービースタリオン」が、実在の競走馬の名称を使用していたことから、馬主らが「パブリシティ権」の侵害であるとして損害賠償等を請求した事案
〇ブブカ事件(東京地裁平成16年7月14日判決、同控訴審:東京高裁平成18年4月26日判決)
女性アーティストら16人の写真等が無断に掲載された雑誌「ブブカスペシャルvol.7」について、雑誌出版社、発行人、編集人または代表取締役を相手方として、当該アーティストらが損害賠償を求めた事案
"

TOPへ