大阪プライム法律事務所

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「目には目を」現代に残るハンムラビ法典

11.08.12 | ニュース六法

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7年前に大学の同級生の男に硫酸を両目にかけられて失明したイラン人女性が、自分が受けた被害と同様の被害を相手に負わせるイスラム法の「同害報復刑(キサース刑)」の判決に従って、その男の両目を失明させる刑の執行を直前にして、女性が中止を決断したことが報道されました。

「目には目を、歯には歯を」という報復刑を定めたハンムラビ法典が、イスラムでは今の時代にも通用していることを示すニュースです。一方で、その刑にも変化の兆しがあることも読み取れるものでした。

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この女性は、2004年に同級生であった男性の求婚を拒否したところ、その男性から顔に硫酸を浴びせられて失明したといいます。その男の両目を同じような方法で失明させるという報復刑の言い渡しが、2年前に最高裁で確定しました。

毎日新聞の8月2日付記事によると、この女性は、執行当日に、この男の前で、「7年間報復ばかり考えてきたが、許しは報復より優れていると神は言った。これで、家族や彼の母親を幸せにできる」と言って、中止を求めたとのことです。男は号泣し、その代わりに20億リアル(約1800万円)の賠償金を払うことになったとのことです。
この記事は、続けて、この女性の決断に対して、テヘラン検察のトップが、「勇気ある決断」と称賛し、インターネット上でも「彼女は許しを与えることで満足を得た」などの声が広がっていると報じています。

「同害報復」の刑(キサース刑)とは
これは、古代メソポタミア文明のハンムラビ法典の「目には目を、歯には歯を」の規定が起源とされる刑です。岩に刻まれたこの法典が、フランスのルーブル美術館で公開されているものが有名です。

犯罪者が被害者に加えた傷害と同じものを受けることを定めています。被害者が殺害されていれば、同じ方法で死刑になります。被害者の身体の一部を切り落とした場合は、同じ部分が切り落とされます。この刑は、国家により実行されるものであって、被害者やその家族が勝手に執行することは決して許されません。殺人や傷害などの凶悪犯罪に限られ、イスラム法に従うサウジアラビアやイランなどで採用されています。

ただし、これらの懲罰は、被害者の権利であるとされていることから、被害者は加害者に恩赦を与えることができるものとされています。イスラームは、この恩赦を推奨していて、恩赦をした者は来世での報奨が約束されています。このため、被害者や遺族が報復か賠償金(ディーヤと呼ぶ血の代償金)のいずれかを選ぶものとされています。今回の女性の許しは、この選択をしたものと思います。

こういった古い刑罰思想ですが、歴史的には、被害以上の報復を禁じたという点で近代刑法の原則である罪刑法定主義の原型とも評価されています。また、相手の性別や身分等で差別をせずに公平に刑を定めているという点で、中世ヨーロッパでなされた宗教裁判などに比して優れていたとも言われています。

ただ、人体を損傷させるといった刑罰は、人権の観点からして残酷すぎる刑罰として、現代型の刑法では避けられていて、その点からすると世界的には批判の対象となっているのはうなずけるところです。今回の執行が人権団体から抗議がなされていたことも必然的です。

前述の記事にあるように、この女性の中止決断が称賛され、インターネット上でも共感の輪が広がっているとの記述に、現代のイラン社会の事情が反映されている様な気がします。この社会の空気がどのようなところからきているのか、気になるところです。

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