大阪プライム法律事務所

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紳助問題は人ごとではありません

11.09.15 | ニュース六法

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8月23日夜、島田紳助が突然に記者会見し、芸能界引退を表明し、驚きが走りました。
今回のこの騒動、実は、この10月1日をもって、全国の都道府県で制定・施行されることになった「暴力団排除条例」と密接な関係があります。
紳助と暴力団との関係を示す今回の情報が、なぜ今になって表に出たのか。10月から東京都でも新しい暴力団排除条例が施行されることを受けて、暴力団追放の機運を盛り上げるために警察関係者が持ち込んだのではないか、とも一部では言われています。
 
実は、この「暴力団排除条例」は、まじめに仕事をしている事業者にとっても、あらゆる場面で、対応が必要な条例でもあります。暴力団と密接な関係を持つことは論外としても、単に取引の当事者であっても、「利益供与者」として禁止対象になる場合があるからです。駐車場を貸したり、印刷物を請け負ったりなど、うっかりしていると利益供与事業者とされます。
対策は済んでいるでしょうか。 
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吉本興業側が、大事な屋台骨を失ったわけですが、一方で、重大な危機管理が働いたものと考えられます。というのは、10月1日の東京都での施行によって、全ての都道府県で暴力団排除条例が動き出し、暴力団関係者と会食したりゴルフなどをしたりしていれば、『密接交際者』と警察が認定できることになります。警察が紳助をそういった者として認定し公表した際に、吉本興業がそれを知っていながら隠していたことが分かれば、強い社会的非難を受けることになったものと思われます。
 
暴力団排除条例とは
2004年6月に広島県と広島市が、条例で公営住宅入居資格に関して、暴力団排除を規定したのが始まりで、2009年には、東京都豊島区で不動産取引において暴力団排除を規定した条例、佐賀県で暴力団組事務所の開設について不動産所有者が暴力団に対して賃貸契約を拒否や解除ができる旨を規定した条例が、それぞれ施行されました。同じような動きが他の都道府県でも広がり、2011年10月1日には、東京都でも施行され、これで全都道府県に制定・施行されることになりました。大阪府でも、「大阪府暴力団排除条例」が2011年4月から施行になっています。
 
大阪府暴力団排除条例のあらまし 
①府の事務及び事業からの暴力団排除
②暴力団員等への利益供与の禁止(詳細は下記参照)
③青少年の対する指導等のための措置
④暴力団事務所の開設及び運営の禁止(学校、図書館等の施設の周囲200メートルの区域内における暴力団事務所の開設・運営禁止、罰則適用あり)
⑤不動産の譲渡等をしようとする者の責務
⑥不動産の譲渡等の代理又は媒介をする者の措置(詳細は下記参照)
 
利益供与の禁止について(大阪府暴力団排除条例 第14条)
(1)【威力利用に関する利益供与】
事業者は、その事業に関し、暴力団の威力を利用する目的で、又は暴力団の威力を利用したことに関し、暴力団員等に対し、金品その他の財産上の利益又は役務の供与をしてはならない。
(2)【相当の対償のない利益供与】
事業者は、その事業に関し、暴力団員等に対し、暴力団の活動を助長し、又は暴力団の運営に資することとなる相当の対償のない利益の供与をしてはならない。
(3)【通常の取引での禁止】
事業者は、その事業に関し、暴力団員等に対し、暴力団の活動を助長し、又は暴力団の運営に資することとなる利益の供与をしてはならない。(正当な理由があるときはこの限りではない)

この(1)は単純な金品等の授与であり、(2)は一般的価格よりも安い価格でサービスを提供したり一般的価格よりも高く物品を買い取ったりしている場合などをさしていて、やってはいけないことが容易に理解できます。この2つを行った事業者に対して、公安委員会は必要な「勧告」をすることができ、その勧告に従わなかった場合には、事業者名の公表をすることができることになっています。もしそうなった場合は、マスコミ報道で取り上げられ、信用は大きく失い、金融機関との取引もできにくくなると思われます。

問題は(3)の「通常の商取引での禁止」で、これを知らないと落とし穴にはまります。
これは、分かりやすく言うと、正当な理由がない限りは、暴力団員との一切の取引を禁止するものです。通常の商取引でも組の活動を助長した場合に行政処分できるのは大阪府の条例に限られています。
大阪府の公安委員会は、必要な「指導」をすることができ、正当な理由なく指導に従わなかったときは、さらに必要な「勧告」をすることができます。その勧告に従わなかった場合は、事業者名の公表もできます。信用の喪失はもちろん、金融機関との取引停止もありえます。
 
初適用事例
この6月6日に報道されたものですが、大阪府公安委員会が、指定暴力団山口組山健組系の組長に駐車場を貸したとして、府暴力団排除条例に基づき、府内の不動産業者に対し、利益供与をしないよう指導書を交付しました。その業者は条例施行以前から相手が暴力団員と知りながら5台分の駐車スペースを契約していたもので、代金は支払われ、契約時に脅迫などはなかったものの、組の活動を助長すると判断されたものです。指導に応じない場合は勧告し、それでも改善されない場合は業者名が公表されることになるため、この業者は契約を解除することにしたそうです。
 
全国における適用の状況
報道等によれば、現在までのところ、以下のような事例での勧告例があります。  
①事業者が集まり暴力団組長との親睦団体を作って、毎月の資金を提供していた事例
②ガソリンスタンドが暴力団組員の車両を無料で洗車していた事例
③工事業者が暴力団事務所の内装工事を請け負った事例

どうしたらよいか~弁護士に相談するのもひとつ
これらからすると、大阪府暴力団排除条例を含む各地方公共団体における暴力団排除条例は、事業者に対して一定の制裁が課されることになります。特に内装工事を請け負った適用事例からすると、例えば、看板などの納入、印刷物の受注、各種機器の納入、食事の出前、贈答品の受注なども、適用になる場面がありえます。
 
このことからして、今後は、暴力団員から注文があった場合や、それ以前の段階で、取引ができないことを伝えて断ることが必要となります。
その場合の方法としては、
①「暴力団排除条例に反する」のでと理由をはっきりと示すことがベター、
②それが怖くてできないような場合は、弁護士にそういった連絡を依頼する、
③警察に相談したうえで連絡をする、
などの方法を考えてはどうでしょうか。
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