大阪プライム法律事務所

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治安は悪化しているのでしょうか?~「体感治安」

09.01.14 | ニュース六法

昨年12月に、広島県のある警察署が、50年前と現在の「体感治安」を市民に比べてもらうユニークなアンケート結果をまとめ公表しました。50年前の刑法犯認知件数が現在の2.5倍ということを示した上で質問したのに、72%の人は「治安が悪いのは現在」と回答したそうです。治安の悪化がよく言われるようになりましたが、本当に治安は悪化しているのでしょうか。

(Photo by (c)Tomo.Yu 網走刑務所裏門)

昨年12月に、広島県のある警察署が、50年前と現在の「体感治安」を市民に比べてもらうユニークなアンケート結果をまとめ公表しました。50年前の刑法犯認知件数が現在の2.5倍ということを示した上で質問したのに、72%の人は「治安が悪いのは現在」と回答したそうです。治安の悪化がよく言われるようになりましたが、本当に治安は悪化しているのでしょうか。

(Photo by (c)Tomo.Yu 網走刑務所裏門)

昨年は、東京・秋葉原の17人殺傷事件や、元厚生事務次官宅連続襲撃事件など、無差別殺傷事件が相次ぎました。また、ここ数年、通り魔事件や子どもを狙った犯罪もよく耳にします。このため、日本の治安は悪化しているのではないかと、感じる方が多いのではないでしょうか。

体感治安とは
市民が実際に肌で感じる治安の状況に関する感覚を「体感治安」といいます。犯罪認知件数や検挙率といった統計上の客観的な数字で表される「指数治安」と違って、これは感覚的・主観的なものです。

広島県警竹原署のアンケートの際に示された統計でも、同地域での刑法犯の認知件数が、1959年が約600件で、昨年は約230件と、50年前のほうが現在の2.5倍ということであったように、この傾向は、実は全国的なものです。

しかし、2004年(平成16年)に内閣府が行った「治安に関する世論調査」で、最近の治安に関する意識を調査したところ、悪化しているという人が43%、どちらかというと悪化しているとした人が44%で、合わせて87%もの人が悪化しているように思うと答えています。

このように、統計的には凶悪犯罪数は減少していますが、体感治安は悪化していると、多くの人が考えています。体感治安という言葉は、90年代以降使われだした造語で、松本サリン事件・地下鉄サリン事件、神戸連続児童殺傷事件などの重大事件において、マスコミも多く用いてきました。しかし、特に警察のがんばりもあって、ここ7年間の刑法犯認知件数は減少してきました。しかし、政府や警察は、状況の改善を知りつつ、「体感治安の悪化」という主観的な言葉を活用して、さらなる治安政策を展開しようとしているのが、実際の状況といえます。

河合幹雄著「安全神話崩壊のパラドックス‐治安の法社会学」(岩波書店2004年)では、「日本は犯罪の少ない安全な社会である」という安全神話が揺らぎつつあるが、統計資料の徹底的な読み込みを通してわが国の犯罪状況を分析すると、そうではないことを解説しています。

佐藤卓己著『メディア社会』(岩波新書2006年)では、メディアの犯罪報道の過熱が、犯罪発生率が上昇しているように感じさせ、自分自身が犯罪被害者となる可能性を大きく見積もってしまうことや、視聴者は被害者のインタビューに感情移入して被害者意識を共有するようになっていく結果、社会全体が犯罪者へ厳罰を望むようになるのは自然であると指摘しています。

今後の治安対策 このように、人々が心配するほど、実際の治安は悪化しておらず、単に不安が増大しているという事実があるだけと言えます。ところが、私たち社会の人々は、単に「安全」だけでなく、主観的な「安心感」をも求めているのも現実です。そのための労力や費用は重視され、また、そのための公金投資も必要です。

ただ、その結果、刑罰の厳格化、少年法の適用年齢の拡大、性犯罪者情報の地域への公表要求、監視カメラの多数設置など、治安活動は際限なく展開されていく現実もあり、決して少数者の人権の不当な侵害とならないような歯止めが不可欠です。

また、市民による自主的な防犯活動も、その一環であり、地域コミュニティの活性化たる市民活動ととらえてその育成は必要と思います。ただ、そのことが、自由な市民社会を脅かす「超監視社会」は、決して幸福な社会とは言えないように思いますが、いかがでしょうか。
(体感治安に関する詳細はニュース六法08年12月28日版参照)

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