大阪プライム法律事務所

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大阪地裁がチカン事件に無罪判決【痴漢冤罪事件】

08.09.12 | ニュース六法

電車内で女子高校生に痴漢行為をしたとして、大阪府迷惑防止条例違反の罪に問われた男性会社員に対し、大阪地裁は9月1日に、「痴漢された事実は認められるが、被告が犯人というには合理的な疑いが残る」として、無罪を言い渡したことが報道されました。
(写真と記事は無関係です)

電車内で女子高校生に痴漢行為をしたとして、大阪府迷惑防止条例違反の罪に問われた男性会社員に対し、大阪地裁は9月1日に、「痴漢された事実は認められるが、被告が犯人というには合理的な疑いが残る」として、無罪を言い渡したことが報道されました。(写真と記事は無関係です)

 

この事件は、被告人となった男性が、通勤中の昨年5月朝、車内で女子高校生に痴漢行為を働いたとして、捕まったものの、男性は逮捕直後から「やっていない」と無罪を主張していた。判決で、裁判長は「高校生の胸に男性のひじが当たった事実は認められるが、車内は混雑しており、故意があったと認めるには疑いが残る」などと指摘し、別の高校生が触られたいう件も、「この男性を犯人であるとするには疑いが残る」として無罪としました。


痴漢は卑劣な犯罪です  女性にとってこれほど許せない行為はないと思います。決して野放しにしてはなりません。迷惑防止条例違反ないしは強制わいせつ罪となる、立派な犯罪です。しかし、他方で、痴漢をしていないのに、被害申告を受けて逮捕されてしまうという「痴漢冤罪」も、たびたび話題になります。これは男性にとっては非常な恐怖です。今回報道された無罪判決事件では、そこに至るまでの被告人とその家族、そしてこれを支えた弁護人の苦労が目に浮かびそうです。


「推定有罪?」 こういった刑事事件においては、刑事訴訟法は「推定無罪」の原則を採用していて、痴漢という疑惑をかけられても、裁判で有罪が宣告されるまでは無罪として扱われないとなりません。しかし、痴漢犯罪においては、逆に「推定有罪」の原則があると言ってもおかしくないような現実があります。「ボクはやっていない」といくら叫んでも、一旦女性の叫びの前で警察に連行されたが最後、いくら無実を述べ立てても絶望的な状況となります。警察段階では言い分が通らない場合でも、裁判に一縷の望みを託すこととなりますが、被害者とされる女性の証言だけで、他に何らの客観的証拠も他人の証言もなくとも、有罪(場合によっては実刑)とされている裁判例も非常に多くあります。その結果、その男性は、仮に真実は無実であっても、社会的地位は地に落ち、周りから白い目で見られる最悪の事態となります。そういう意味で、満員電車には怖くて乗れない、という男性もよく聞き、男性専用車両を作って欲しいという人までいます。


さらに悪質な行為  2008年3月には、大阪市営地下鉄御堂筋線で、示談金目当ての男が女に指示をして、気の弱そうな男性を狙って近づかせて「チカンに遭った」と叫ばせ、その男性が逮捕されたものの、その後に女性が自首してきたことから、その男女が虚偽告訴罪で検挙されるという事件が発生しました。誠にひどい事件です。この事件の恐ろしさは、事件直後にこの男性を襲った状況でした。この男性は、駅員は無理やり警察に引き渡し、警察署員は、この男性の弁明もほとんど聞かず、「白状したら許したる」等というと不適切な発言まで行い、さらに警察は家族にも連絡せずに、そのまま留置して取調べを行っていたのでした。幸いなことに女性の自主から男性の無実がはれたものの、状況からして、長期の勾留、裁判、有罪宣告という恐怖のコースに進んでいた可能性もありました。


『それでもボクはやってない』 2007年1月に公開された周防正行監督の『それでもボクはやってない』は、まさにこういった「痴漢裁判」を扱った、誠にリアルな映画でした。私は難波の映画館で観ましたが、取り調べの状況から起訴、公判のシーンなどが、実際に刑事弁護を担当する弁護士の目から見ても、あまりのリアリティさに思わずうなってしまいました。この映画は、2002年に東京高裁で逆転無罪判決が出された事件をきっかけに作られたもので、痴漢冤罪事件という切り口から、日本の刑事裁判の実態と病巣を見事に切り出しています。


絶望的な気になる「痴漢冤罪主張事件」ですが、これを打開する工夫も出てきてはいます。被害を主張する女性の衣服から指紋を採取する技術や、被疑者の指に付着した衣服の繊維の採取と鑑定といった科学捜査手法の開発です。こういった物的証拠が捜査段階で重要視されれば、ある程度は冤罪を防ぐことが可能となるので、技術のさらなる進化が望まれるところです。

 

(判例など、詳しくはニュース六法をご覧下さい)

 

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